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ASIAN NOMAD LIFE2019.05.22 Wednesday
現在の福祉制度が限界であるという日本の現実を直視し、自助保険制度への移行へ。
最近、87才になる義父が眼科で処方してもらってメガネを2組作りました。
政府の補助がついたらしく、2組で払った費用が2ドル(約160円)だったと夫大喜び。その前にも要介護者の義父の杖を数百円で購入した他、昨年から住み込みで義父母の世話をしてもらっているミャンマー人のメイドさんにかかる費用も、彼女が政府主催の介護研修を受けてから1/3程度が補助金でまかなわれるようになりました。
ちょっと前まではこういう仕組みがなかったため、高齢者が処方薬を買うのに物価が安いマレーシアのジョホール・バル―まで毎月出かけるのは当たり前(なぜかマレーシアの薬局では処方箋がなくても処方薬が買える)。
我が家でも毎年恒例のマラッカ旅行の度に、1錠千円近くする義母の関節痛の薬を買ってきていました。現在ではこちらも政府補助がついてマレーシアで買うより全然安くなったため、もう買っていません。
基本的にシンガポールの日常の医療はすべて自費診療です。
風邪をひいてもお腹をこわしても、町医者や私立の病院にかかると100%自費。私立の病院は高額ですが、町医者になると庶民の懐事情がよくわかっていますので、よほどのことがなければレントゲンを撮ったりしませんし(そもそも高価な医療機器をほとんど置いていない)、薬も最低限必要なものしか出さず、患者も「これは要らない」と拒否することも多いので、実際に支払う金額は3割負担の日本で町医者にかかったときとほとんど同じか、むしろ安いくらいです。
医療器械が必要な検査は外注が基本。
私はHRT治療を受けているので、乳がん検査と子宮ガン検査に定期的に行っていますが、近所の婦人科クリニックでするのは内診のみで、超音波やマンモグラフィーは検査専門のセンター(検査技師がいるだけで診断はクリニックの医師)へ。分業が進んでいて、競争も激しいので「今回はここがプロモーションやってて安いから行ってね」と毎回別のセンターを紹介されたりします。
しかし、歯医者だけはどうにもなりません。1本でも差し歯にしようものなら10万円単位で費用がかかります。つい最近も、10年以上前に神経取ったところが炎症を起こしてしまい、その治療だけでやはり10万円ほど支払いました。
なので、できるだけそうならないように、半年に1回の歯科定期検診は欠かしませんし、娘の学校にも歯科医が定期的にやってきて子供たちの歯のチェックをしたり歯磨き指導をしたりしています。
と、ここまでシンガポールの庶民の医療事情を少しだけご紹介しましたが(お金持ちはまた全然違い、ガンの最新治療を受けるためにアメリカの高名な病院に長期入院したりします)、その理由は、日本の医療負担がすでにサステナブルでないレッドゾーンに入っているという話をここのところ立て続けに読んだからです。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45016470Q9A520C1SHA000/
現在の日本では、国民健康保険で医療費がまかなえず、ほとんどの自治体で税金を投入せざるをえないという現実が厳然としてあります。そしてこの現実は、今年昭和24年生まれが75才を迎えるのに伴い、後期高齢者の数が激増してさらに過酷になっていくことが確実です。
夏の参院選に向けて消費増税取りやめかどうかの議論が高まっていますが、下記の記事で指摘されているように、福祉と税の関係にあまり触れられていないのが気になるところ。もしも消費税が上がらなければ福祉にかかる保険料を上げざるをえず、勤労者世帯ばかりにしわ寄せがくるのは避けられません。
年金や医療保険などについて、日本とシンガポールの一番の違いは他助なのか自助なのかです。
冒頭に書いたように、現在のシンガポールでは義父母のような高齢者世代(1950年以前生まれ)を「パイオニア・ジェネレーション」と呼び、最近特に医療や介護に関する福祉を手厚く提供するようになりました。
というのも、彼らが働き盛りだった頃にシンガポールは建国したばかりで、現在のようなCPF(セントラル・プロビデント・ファンド/中央将来安心基金)という財形貯蓄と個人年金と個人保険が合体したような制度がまだ確立していなかったため、平均的な世帯が高齢者になってから十分な医療を受けられないという問題が噴出したのです。
さすがにそれはまずいと考えたのか、ここ数年で驚くばかりにこの世代への政府補助が拡大しましたが、その下のMerdeka世代以降(現在60代)はまた違ってきます。というのも、この頃になるとCPF制度が機能するようになり、庶民でもある程度の老後の蓄えができるようになってきたからです。
シンガポールのCPF制度についてはあちこちで書かれていますので詳細は省きますが、政府による強制的な個人預金と覚えておくといいと思います。被雇用者が17%、雇用者が20%を出して、毎月給料の40%近くを積み立てていきます。給料が20万円の人であれば7万円4千円ですから、夫婦2人だったら年間180万円近く積み立てていることになりますから、いかにその額が大きいかわかるでしょう。
このお金がCPFの自分の口座に入金されると、住宅購入資金及び子供の教育資金用口座(普通口座)、年金や老後資金のための口座(特別口座)、医療保険や入院費の口座(医療口座)に自動的に振り分けられ、政府が年利2.5%〜5%程度と民間の金融機関よりかなり高い金利で運用してくれます。
私の場合はシンガポールではアルバイト程度しか働いていないのでスズメの涙ほどのCPF積立金しかありませんが、夫には数十年にわたる積み立てがあるため、現在家族全員分の医療保険は年に1回夫の医療口座から引き出されていますし(入院が必要な大きな病気をした場合、この保険を使うと公立病院の医療費がほぼ無料になります)、2人とも55才を過ぎていますので、一定金額までは引き出しも可能です。
問題はシンガポールも平均寿命が伸び、CPFだけでは老後資金や医療費が不足がちになっていること(男性80.8才、女性85才でともに世界6位)。
このため、例えばガンの化学療法や人工透析などの高額医療については、上記の医療保険に加えてメディシールドという任意保険が用意されたり(41才以上70才まで年額5万円程度と非常に安い)、民間病院で先端医療を受けたかったり差額ベッド代をカバーする政府の承認を受けた民間保険がいろいろと発売されています。
また、前述のMerdeka世代の人々には、病院受診時のディスカウントや医療口座やメディシールドへの補助、来年以降本格的導入が決まっている介護保険「ケアシールド」への補助などのプログラムが用意されています。
さらに最近では、CPFの年金部分を補う年金積立保険が政府系の保険会社をはじめいろいろな保険会社から販売されていて(私も入っています)、「贅沢をせずに節約して将来子供の世話を受けないように資金準備しておけば、きっと子供から感謝されるようになる」というテーマのCMもしきりに流れるようになりました(華人系の伝統として子供が老親の生活費をもつのは当たり前で、我が家の義父母も子ども3人が毎月仕送りをしています)。
シンガポールも先進国の一員として国民に必要不可欠な医療が受けられない事態はさすがに避けていますが、過剰な医療費はいっさい払わないのが建前。後期高齢者にだけは若干やさしいですが、それ以外の世代に対しては「利用できる制度は作っておくから自分で何とかしてね」という姿勢が明白です。
公団住宅購入のための貯金についても、自由意志に任せておくと貯金できない人はいつまでもできないので、強制的に給料から天引きした結果、約90%という驚異的な持ち家率になりました。当然、普通の人が老後住むところがない、という事態も滅多に発生しません。
いっぽう、日本の医療保険や介護保険、年金制度の福祉パッケージは、世界でも有数の手厚く国民に優しい制度だと私は思います。特にシンガポールで歯医者の請求書を見るたびに「日本に住んでいれば…」とがっくり肩を落とします。
数カ月前に帰国したときには数年にわたってガン治療をしている旧友と会って話をしたのですが、医療費はほぼ保険でまかなえ、厚生年金で家賃や生活費が払えて十分やっていける、ということを聞いて、こんな制度がある日本はつくづく素晴らしい国だと思いました。
しかし、この素晴らしい制度もすでに限界に達しています。どこをどう考えても現在の日本の年金制度は「100年安心」ではありませんし、医療費も介護保険費もこのままの制度を維持していったら、若い勤労者世帯が自分たちのために貯蓄する余裕はまったくなくなり、生活は苦しくなる一方です。
これでいいわけがありません。
小さいところでいえば、現在すでに年金受給生活に入っている人でも、高齢者でも一定以上の収入や財産がある方々については年金を段階的にカットしていったり、医療費の自己負担率を上げるなどの対策を取り、医療機器のシェアなど医療におけるコストダウンを推進していくなど、まだまだできることはたくさんあるはずです。
そして、最も重要なのはいつの間にか他助(私が若い頃は「支払った年金保険分は自分がもらえるというのが行政の決まり文句でしたが、その約束は果たされそうにありません)になってしまった社会福祉をできるだけ自助に戻し、そのための制度設計を一から作り直すことが必要ではないかと思います。
以前にこの記事で「夫婦ともに日本でかけていた厚生年金は今後どうなるかわからないので計算外。支給されればラッキーと考えて使います」と書きましたが、これは私の偽らざる気持ちです。「ねんきん定期便」によると、2人でこれまでに支払った年金保険料は数千万円ありますが、これをすべて放棄して受給額がゼロ円でもかまいません。
その代わり、今後、日本に居住しても国民年金保険と国民健康保険納付義務を免除していただきたい。自分の生活費や医療費はこれまでの蓄えや自分の保険で何とかしますし、そうでない方はこれまで通り、それが難しい方々には生活保護などで税金を投入していただければいい。その原資となる所得税や消費税を今後もきちんと支払うのは望むところです。
しかし、ただ生きて日本に居住しているだけで支払い義務が発生し、しかも、収入は増えないのに毎年右肩上がりで保険料が上がっていく国民健康保険料や国民年金保険料はまるで人頭税のようで、消費税のように節約しようがなく、所得税と違い収入がなくても払わなくてはいけないので、リタイア世帯にとっては非常に厳しいのです。
私のように「ゼロでもいい」というのは極論かもしれませんが、今後、私のような考えをもつ人々が支払わなくても良い分を支給予定の年金からマイナスしていく、というような制度であればいくらでも作れるはずです。
現在の制度のように、現在の受給者のために毎月の保険料が利用され(受給者の方々も保険料を長年支払ってきたので受給は当然ですが)、自分たちが受給される側になるのは毎年引き延ばされて何年後になるかわからない、そして、いつまで保険料を払い続けなければなくなるのかわからない、では、勤労者世帯もリタイア世代も絶望的な気分になるだけです。
「自助」のためには現在の保険料負担の軽減が大前提です。
上記記事の筆者の方がおっしゃっているように、名目上は「保険料」でありながら実質的には「税」と同様になっている福祉に関わる保険料をどうするか、消費税と一体にして議論してほしいと思います。
JUGEMテーマ:幸せなお金と時間の使い方 2018.03.04 Sunday
物言わぬ国民に支え続けられる日本
JUGEMテーマ:政治
ウェッブサイト「みんなの介護」の「やまもといちろうゼミ 社会保障学入門〜これからの介護を考えよう」をまとめ読みしました。
やまもとさんご自身も実際に4人の高齢者を抱えていらっしゃるというだけあって、実体験も交えながら今後の高齢者社会保障製作について語られており、非常に勉強になりました。
特に、先月の最新回での
「とにかく時間がないのだから建前でなく実情に即した議論をしっかりすべき」という主張には私も全面的に賛同します。
私もこのブログを始めた2014年から一貫して、現在の日本の年金制度はこのまま維持することは不可能であり、年金をあてにせず(少しでも生活の足しになったら儲けものくらいの感覚で)働き続けることが最大の自衛策であると訴え続けてきました。
その1つが2014年11月の『65歳以上の就業者が激増中!アベノミクス100万人雇用拡大の実情』という記事です。
この中で、働く人の4人に1人は55歳以上という数字を出していますが、内閣府の調査によると2016年の55歳以上労働人口は1958万人。全労働人口の29.3%を占め、今や3人に1人に近づく勢いです。
また、2013年から2016年の3年間だけでも65歳以上の働く人の割合が9.9%から11.8%に増加。人数でみると実に134万人増えていて、平均すると1年あたり約45万人の高齢者が新たに働く現実があります(64歳未満から働き続けてきた方も含めて)。
前記の記事を書いたときには「ここまで働き続けてまだ働けというのか」というご批判もありましたが、日本国民の大半が社会保障の将来を憂え、自衛のために黙々と働き続ける選択をされてきた事実は揺るぎません。
その結果として、全労働人口は2008年とほぼ同じ水準を維持しており(パートタイマー等非正規雇用が増えて総労働時間は少なくなっていますが)、本来であればさらに深刻であったはずの労働力不足も若干緩和されているはずです。
このように、高齢の国民が黙って真面目に働き、自分の力で努力をしているからこそ、日本の社会保障制度はまだギブアップまでの道のりが遠いように感じられているのではないかと思います。
しかし、そんな物言わぬ国民もいつまでも健康で働き続けられるわけではありません。
病気になって医療保険のお世話になる割合は年齢が高くなるにつれて増えていくでしょうし、認知症や要介護の方も当然増えます。そうなったときに頼らざるをえないのは、それまでずっと真面目に働いて保険料を納付してきた年金保険や健康保険、介護保険であり、それを受給するのは納付してきた方々の当然の権利です(これをシルバー民主主義などと受給者を揶揄するのは筋違いです)。
その近未来を見据え、日本国政府も、(最近は言わなくなりましたが)「100年安心年金」とか「介護離職ゼロ」とか、耳当たりはいいけれど国民の多くが「それはムリでしょう」と反射的に感じてしまうお題目を唱え続ける代わりに、もっと具体的かつ現実的に、国も国民も企業も、高齢者世代も若い世代も、今後はここまではムリだけれどこのくらいだったらいけるはず(例えば健康な高齢者が72歳まで働いてくれれば現支給額と同等金額をインフレ率にスライドして払えますとか)、今後はここを我慢してもらう代わりにこのような代替案を考えますとか(例えば、介護離職は仕方ないけれど介護で離職し求職中の人を〇%は採用しなくてはならないという法律を作りますとか)、というみなが少しずつ妥協して現実に対処できるようにするための、具体的な道筋をつけるべきなのではないでしょうか。
まだまだ若いと思っているうちにあっという間に年をとってしまうように、まだまだ時間があると考えているうちに社会保障制度だけをあてにして生きている人がどうにもならなくなってしまう現実が来る前に(この回は本当に身につまされました)、国民も声を上げるときだと思います。 2017.12.10 Sunday
書評:『あなたはアベノミクスで幸せになれるか』〜失われた20年から取り返しのつかない20年に。
JUGEMテーマ:政治 ■「いざなぎ景気」を超えたといわれる景気の内実 一昨日の12/8、内閣府は2017年7〜9月のGDP値を改定。年率で2.5%に上方修正したと日経新聞が報道しました。
第二次安倍政権成立の2012年以降、消費増税前の2013年を除き、ずっと0〜1%台(もしくはマイナス)で推移してきた日本経済がやっと回復基調に戻ったのかと思いきや、その内容を読んで背筋が寒くなりました。
設備投資はかろうじて1%を超えたものの、個人消費、住宅投資ともにマイナス、外需は予想通りプラスになりましたが、内需のプラスはわずか0.1%だけです。公共投資にいたっては2%以上の減、そして在庫は予測値の2倍。
また、この記事によれば、国内需要である(GDPの1%程度を占める「純貿易」を差し引いた)内需の額は、「532.1兆円→531.1兆円」と1兆円も減っているといいます。
さらに、このロイターの調査によると、企業が今後の経営課題として挙げているのは、内需縮小が40%、続いて人手不足が34%となり、買う人も、働く人も急速に減少しているという問題がすでに現実になっていることがわかります。
「株価が3万円に?」「いざなぎ景気超え」とマスコミが囃す中、ひたひたと近づいてくる暗い足音が聞こえるような感覚に襲われます。
■要らないシュガーポットのように供給される日銀マネー 『あなたはアベノミクスで幸せになれるか』の著者の市川眞一さんは、クレディ・スイス証券のチーフ・マーケット・ストラテジストを務める傍ら、2000年代初めから小泉内閣下の構造改革特区評価委員、民主党政権における仕分け人などの公職を歴任されてきた方です。
自民党、民主党などの政治家に太いパイプをもつと言われる市川氏は、外交政策や安保政策で安倍政権を非常に評価しつつも、「2012年秋以降の日本の景気・株式市場の劇的な変化は、アベノミクスによる国内要因というよりも、海外要因が大きかったと考えるべきだろう」「しかしながら、上手く運んでいるときはアベノミクスの成果、停滞したら海外要因との説明は説得力があるとは言い難いだろう」と一刀のもとに切り捨てます。
そして、先進国中でも格段に悪い現在の日本経済低迷の最大の要因は、2008年から始まったとされる人口減少と、50年後には人口の38.4%が65歳以上と想定される高齢化が進む日本の市場縮小局面において、消費人口が減り、企業の国内投資への意欲が先細る現状の中、異次元の金融緩和によって資金需要を喚起することができる、という誤った政策=アベノミクスに巨額の資金を投じてきたことにある、と分析します。
この状況を指して市川氏は、コーヒーに入れるためにウェイトレスが必要のないシュガーポットをいくつも運んでくることに喩えて「今、日本の金融の世界では、経済が必要としていないマネーが日銀によって供給されているのである」と結論づけるのです。
■日本市場から脱出する日本企業 市川氏は、2017年6月の労働力調査の結果をふまえ、労働人口6,775万人のうちすでに97%が何らかの形で就業しており、女性がパートタイムからフルタイムに転換したとしても、影響は限定的であるとします。
労働生産性を上げて人口減少による生産性減少を補うという目標についても、2015年までの10年間、日本の労働生産性改善率は年率0.4%の伸びにとどまり(G7全体では年0.6%)先進国では非生産性を飛躍的に向上させるのは困難である、仮に物価上昇率2%を達成できたとしても、人口減少を考えると生産性を1.5%引き上げなければアベノミクスがターゲットとするGDP600兆円に達成には及ばないと言います。
また、現役を引退した高齢者世帯の消費額は現役世代の2/3程度にとどまるため、高齢化が進めば進むほど、同じ人口でも消費額が減っていきます。企業にとって人口が減って市場規模が縮小し、さらに1人あたりの消費額が減っていくのであれば、新たに日本で投資するよりも、今後人口が増えて1人あたり消費額も増えていく海外諸国に投資するほうが効率的に発展できるのは自明の理です。
本書によれば、上場企業の製造業の海外現地生産比率は、2016年度に21.4%、5年後の2021年度には23.5%になると見込まれており、海外に生産拠点を置く理由で最も多いのは「現地・進出先近隣国の需要が旺盛または今後の拡大が見込まれる」で、全体の70.7%を占めています。
現在、人手不足が深刻な社会問題化していますが、人手が足りないのは、不調や入札辞退が続く豊洲の工事に代表される建設業界や、介護・運輸、小売りなど、国内で人員調達するしかない業界です。逆に、製造業やオフィスワーカーなどはまだまだ供給が需要を上回っています。大手銀行が最近、相次いで人員削減を表明したように今後もこの傾向は続くでしょう。
企業は好況で積みあがった内部留保を海外投資に回し、売り手市場でも自分が働きたい職には空きがなく賃金も上がらない、働き手がほしい業界は人手不足が加速度的に深刻化するという現在の状況がこの先、常態化するのではないでしょうか。
■「失われた20年」から「取り返しのつかない20年」フェーズへ 高名なファイナンシャルプランナーの方々が、読者の老後資金などの質問に対し「老後には〇〇千万円程度を貯めておけば安心」というような回答をみるにつけ、いつも陰鬱とした気分に襲われます。
というのも、これらの回答は、「年金が現在と物価に対して同水準で支給される(デフレが続く)」「(もしもインフレが発生したら)それにじゅうぶん耐えうるだけの預金利息が支払われる」という大前提があって初めて成立するもので、現在50代半ばの私には、どうしても20年後、30年後までこの前提が続くとは思えないのです。
もしこのような回答を鵜呑みにして完全に引退してしまい、70代、80代になって「こんなはずではなかった」と後悔しても後の祭りです。
現在は株価高騰もあり、まだ懐の豊かな年金受給者が旺盛な消費をしているようですが、団塊の世代が預金を取り崩すようになれば、財務大臣が公言していた「国が国民からお金を借りている」現状も長くは続きません。日本の金融資産の60%を保有するという60歳以上の世帯主の世帯が、それを換金して生活費に充てなければ生活できなくなるからです。
起こる可能性のあるアベノミクス最悪の出口戦略として、著者はインフレタックスを挙げますが(インフレになって円の価値が下がり相対的に国の借金が減少する)、これを回避するために、雇用制度改革や外国人の受け入れ、医療制度の改革、消費税の引き上げなど、いくつかの処方箋を示しています。
しかし、本当にこれらの政策が実行できるのであれば、とっくにこれまでの政権がやってきたことでしょう。できなかったということは、国民が望んでこなかったということです。そして、その結果としての現状をみるにつけ、バブル経済崩壊後の「失われた20年」を経た日本と日本人は、安倍政権と共に「取り返しのつかない20年」を歩んでいるような気がしてなりません。
今後、アベノミクスがどのような結末を迎えるにしても、庶民として最大の自衛策は「何があっても収入を得ることができるように可能な限り働き続けること」以外にないのではないでしょうか。 2017.12.07 Thursday
「孤独死」の先端を走る日本の現実
JUGEMテーマ:幸せなお金と時間の使い方
■国際用語になったKodokushi(孤独死) 世界的な高齢化社会のトップを走る日本で増え続ける「kodokushi(孤独死)」の問題が、今、世界で注目されています。
AFP通信が配信した記事では、日本での孤独死推計が年間3万件と言われているが、実際にはこの2〜3倍の数字になるのではないか、という遺品整理業者の言葉が紹介され、実際に孤独死した50代と思われる男性のアパートの部屋の写真が掲載されました。記事によれば、発見された男性の部屋には写真も手紙も残されておらず、大量のCDとDVDが残されているだけでした。
こちらは、ToDo-Companyという東京板橋区の遺品整理業会社で働く若い女性へのインタビュー記事です。昨年約90件の現場を経験したという彼女は、遺体が発見されるまで通常1,2か月、最長で8か月ということもあったと言います。
清掃の後には花を手向けて線香を炊き、家族にお悔やみの言葉を述べる、この瞬間が一番つらいそうですが、孤独死した子どもの心中を思い「もっと自分にできたことがあるはず」と慟哭する親もいれば、故人に何の興味も見せず、現金だけをもち帰る縁者もいるそうです。
■常盤平団地住人の人生 The New York Timesに掲載されたこの記事は、日系カナダ人の記者オオニシ・ノリミツ氏による、千葉県松戸市にある常盤台団地に住む2人の高齢者を取材して書かれたものです。長期間にわたる丁寧な取材により、それぞれの人生を鮮やかに描いた一篇の文学作品のような記事を読んだ後、多くの人が心を打たれ、大きな反響を呼んでいます。
登場人物は2人。91歳のミセス・イトウと83歳のミスター・キノシタ。
ミセス・イトウは1960年、当時最先端の夢のマイホームと謳われた団地に13回以上応募した末、入居。大手広告代理店でサラリーマンを定年まで続けた夫と夫の連れ子、そして自身の娘の4人家族でした。しかし、夫と実の娘を1992年に失ってから25年間、独居生活を続けています。
仲の良かった友人も一人また一人と亡くなり、今では誰も訪ねて来ない部屋を塵一つないほどきれいに掃除し、自分の半生記を書き、写経をし、夫と娘の命日に墓参りをし、何かあっときのためにと、数少ない親類にお中元の梨を送ります。義理の娘との交流は、年賀状とたまの電話だけのやり取りに。電話をもらっても「あなたも忙しいでしょうから私のことなど気にせず、自分のことを大事にしてね」と早々に電話を切り、相手を思いやります。
毎朝6時前に起きてミセス・イトウがするのは、窓の障子を開けること。向かいの建物に住む女性に「朝、障子が開かなかったら何かあったと思って通報してね」と常々頼んでいましたが、その女性も認知症が進んでミセス・イトウの部屋がわからなくなり、「もう彼女はあてにできないわ」とため息をつきます。
ミスター・キノシタの人生は、共に一人になったという事実を除けば、ミセス・イトウと対照的です。
ミスター・キノシタはバブル経済が弾けるとともに経営していた事業が傾き倒産、離婚。兄弟たちにも借金し「キノシタ家を破滅させたのはお前だ」とまで言われて、14年前に単身で常盤平団地に引っ越してきました。
2Kの部屋はまさにゴミ屋敷でモノが散乱していますが、その彼がたった一つだけ大切にしているのが、ドーバー海峡トンネルのキーホルダー。トンネル工事を受注した川崎重工の下請けとして、自身が経営していた会社がホース・リールを販売したのです。竣工記念のキーホルダーをお守りのように肌身離さず身につけ自慢します。
しかし、2011年の震災時に足を悪くしてから、通っていたスポーツクラブにも行けなくなったミスター・キノシタの数少ない話し相手は、孤独死を防ぐために団地が月1回開催している食事会のときに会うミセス・イトウと、見守りボランティアの女性くらいしか残されていません。
■決して他人事ではない孤独死 5300世帯8000人が暮らす常盤平団地では、65歳以上の高齢者が半数近くを占めます。
いち早く孤独死が問題になったこの団地では、孤独死を防ぐためにさまざまな対策を講じており、10年前は年間20件以上だったのが、近年は10件程度で推移しているといいます。しかし、自治会長は「十分な対策を講じるには、個々の事例をきちんと調べ、分析しなければならない」と強調し、自治体がもっと動くべきだと主張します。
以前の記事で、後期高齢者になったときに大切なもののひとつとして「家族」をあげましたが、さまざまな理由で家族と離れたり、疎遠になったりする人々は確実に増えています。常盤平団地をはじめ、日本全国で増加しつつある孤独死は、高齢化社会の象徴であると言えると思います。
人間は誰でも一人で生まれ、一人で死んでいきます。しかし、生きている限り、一人では生きられません。
老後のお金や年金も重要であることは間違いありませんが、会社や地域コミュニティーなどの社会から隔絶されて孤独な生活を送る人々のことを社会がもっと真剣に考えて対策を講じることが必要だと思います。
決して他人事ではないのですから。 2017.08.31 Thursday
総労働人口の1割に達した65歳以上の就労者。引退後を年金と貯蓄/投資だけで乗り切るという思考法は捨てるべき。
JUGEMテーマ:幸せなお金と時間の使い方
■アメリカでも深刻化する引退後の「下流老人」化現象 地方自治体がより容易に個人年金などを運用できるようにする米下院67号議決にトランプ大統領が先週署名したことを受け、「アメリカの平均世帯の引退時貯蓄は12,000ドル(約130万円)」というショッキングな見出しの記事がThe Economistのウェブサイトに掲載されました。
記事中では「もっと節約して投資に回すべきだ」というノーベル賞受賞学者の説も紹介していますが、逆に誰もがこのような行動を取ることによりカネ余り状態が促進され、金利が下がって十分なリターンが得られくなり、また、貯蓄によって消費が鈍ると経済が悪化し政府の財政赤字も拡大する。そして、これまで節約して投資を続けてきた世帯でも貯蓄平均は10万ドル(約1100万円)程度であり、公的及び企業年金が資金不足に陥る中、とうてい引退後の生活費をまかなうことはできない。企業が運用する個人年金に加入できる人が70%もいるのに、実際にその制度を利用しているのは半分程度にとどまっている、などと反論がされています。(まるで日本の現実を見ているようですが・・・)
この記事以外にも、最近は子供の学費ローンを肩代わりしたために借金苦に陥っている親の話や、約76%のアメリカ人が引退後の経済状態に不安をおぼえているなど、アメリカでも引退後の貧困に関する記事が増えていると感じます。
日本とまったく同じく、米国でもすでに引退後に「下流老人」化する人が激増という現実が差し迫った問題となっているのです。
■年金と貯蓄/投資だけでは暮らせない引退後 翻って現在の日本では、ファイナンシャルプランナーなどが老後の生活設計について指南する記事は、受給できる想定の年金がいくらで、月々の収入から節約してこれだけ貯蓄して、その何割を投資して、という記事がほとんどですが、実際に現在の40代、50代が引退したときに彼らのシナリオ通りに老後の生活をまかなえるかというと、その可能性は限りなく低いと私は考えます。
現在の日本国政府の財政赤字を穴埋めするためには大増税は近い将来避けられないでしょうし、インフレリスクもあります。また、年金は団塊世代の大量受給後、(物価に対し)同水準でその後の世代が受給できるとはとても思えません。定期預金の利息はほぼゼロですし、株式投資はといえば、日本の上場企業の株式配当利回りはせいぜい1〜2%程度で、仮に1千万円投資したとしても年間10万〜20万円にしかなりませんし、税引き後はさらに減ります。政府が目標とするインフレターゲット2%が達成できたとしたら、実質、マイナスになる可能性も否めません。また、大量に移民を受け容れるなどの政策転換がない限り、今後不動産投資で成功できる可能性も低いでしょう。
海外投資にしても、堅調な成長が見込めるアジア諸国の資金需要は2030年までは確実と言われていますが、その後は不透明。南米やアフリカが今後どうなるかはまったく予測不能ですし、中国ではすでに資金が余り過ぎて世界中で不動産を買い漁り、実需のない不動産高騰を招いています。また、現在、アメリカ経済は堅調ですが、株価は異常なほど高騰していて、いつバブルが弾けてもおかしくないと私は思っています。
この現実を直視したら、「年金と貯蓄/投資だけで100年ライフを無事に終えるのはどう考えてもムリ」と結論するのが妥当ではないでしょうか?
■80歳まで働く人生が当たり前になる現実 前回のブログ記事で書いた『Life Shift』の書評の中で、100年前には「80歳まで働く」が当たり前だった、という文章を引用しましたが、今後はまたその時代のライフスタイルに回帰していくのではないかと私は考えています。
実際、2014年にもアベノミクスの雇用で増えた被雇用者の多くが65歳以上の高齢者という記事を書きましたが、このトレンドは今も変わっていません。昨年の統計局「労働力調査年報」を見ると、2002年と2016年を比較し、総労働人口は0.6%の減少に対し、65歳以上の就労者数は487万人から783万人と右肩上がりで61%も増え、現在では労働人口の1割強が65歳以上となっているのです。
逆に34歳以下の労働人口は年々減り続けており、2002年には2,234万人と総労働人口の33%を占めていたのが、2016年には1,722万人とわずか26%にまで減ってしまいました(この影響はすでに深刻になりつつあり、中小零細企業では人手不足で廃業する会社も出てきています)。
定年を67歳から70歳程度まで延長する案も出てきているようですが、実際問題として、例えば大卒で22歳で就職した会社に50年近く、毎日満員の通勤電車に揺られながら、若い人たちと同じように勤め続ける生活が果たして現実的なのか、私は甚だ懐疑的です。また、70歳までできたとしても、90歳まで生きるとなればさらに20年間、100歳までとすればさらに30年間の引退後生活が待っているのです。
それを考えると、どこかの時点で仕事の内容や質や量を変え、最低でも75歳くらい、できれば80歳くらいまでは自分のペースで働くことができる『Life Shift』に登場するジミーやジェーンのような働き方が必要となる日が、もうそこまで来ていると考えざるをえません。
年金はゼロにはならないでしょうし、貯蓄もあればあるにこしたことはありません。しかし、これからさらに伸びることが予想される人生スパンを考えるとき、今後自分がどのように働いていくかをもう一度真剣に考え直すときが来ていると思います。 2017.03.23 Thursday
The Straits Timesの「新年に取り入れたい9つのお金の習慣」にみるマネーリテラシー先進国のシンガポール
JUGEMテーマ:幸せなお金と時間の使い方 ちょっと古いですが、今年2月5日のシンガポール紙「The straits Times」の日曜版にこんな記事が掲載されていました。
「新年に取り入れたい9つのお金の習慣」というタイトルのこの記事は、「Invest」部門の編集者ローナ・タンさんががお薦めする一般人の投資についてのアドバイス。The Straits Timesはシンガポールでは一番人気の、日本でいうと読売新聞と日経新聞を足して2で割ったような新聞です。
記事の内容を簡単に要約すると以下の通り。
1. 「ポートフォリオを見直す」 基本的に私は「買ったらそのままホールド」だけれど、金融市場は刻々と変化しているので、半年から1年くらいのスパンで持っている金融商品を見直したほうがよい。 2.「長期的な視点で資産形成を考える」 金融資産をもつ期間の長さに比例してリターンも大きくなる。 3.「常にリタイア後を見据える」 優良株、債券、優先株式、投資用不動産、個人年金などリタイア後に向けてバランスよく配置。特に政府年金(CPF)はリスクフリーで年利も非常によいので、追加個人年金も考えたほうがよい。 4.「6か月分の生活費をキャッシュでもつ」 失業など万が一の場合に備え、最低でも6か月、できれば12か月分の生活費はキャッシュでもっておく。 5.「現実的な予算を組む」」 毎日のレシートやクレジットカードの支払いなどからだいたいの毎月の予算を把握しておき、旅行予算ももっておく。リタイア前には住宅ローンをすべて返済しておくことが鉄則なので、6か月ごとに月の予算を見直す・
6.「保険を見直す」 年1回、家族の年齢や健康状態など状況の変化に合わせて入っている保険を見直す。 7.「貯蓄用資金を別口座に移す」 自動引き落としで給料口座から別の貯蓄用口座に引き落とすようにしておく。収入が上がったらこの額も増やす。 8.「消費に注意する」 衝動買いを避け、外食を控え、賢い買い物をする。家族と公園でサイクリングしたり、教会でボランティアしたり、本を読んだりとお金を浪費しない趣味をもつ。 9.「税金の控除を利用する」 個人年金の掛け金など税控除になるものは多いので、きちんと調べて申告する。
添付資料には保険会社別年間保険料額もまとめてあり、情報のクオリティの高さが際立っています。
日本の雑誌やオンライン記事の家計診断などでは、「持ち家と賃借りとどっちが得か」とか「家計節約のために格安スマホを」というような記事が堂々巡りで掲載され、それ以上先に進まないことが多いように見受けられますが、同じ「老後の備え」にしてもシンガポールの一般家庭ではこのようなことまで考えて働き盛りの年齢から投資して資金を確保しています。
また、20年以上前の香港で、引っ越した安アパートの前のテナントだった人(おそらく30代前半の独身女性)宛の銀行預け入れ明細を間違って開けてしまったことがあったのですが、10ヵ国以上の通貨に2,30万円単位で預金してあるのを見て驚いたことを思い出しました。
日本はこれまで、世界に誇る健康保険制度と年金保険制度をもち、国民一人ひとりが自己責任で備えなくても国が老後のシステムを考えて個人に代わって運用してくれる時代が続いていました。
しかし、そんなパラダイスも今は昔。現在の日本国政府の財政状況を考えると、自分の老後は自分で守る、そのために若いうちから効率よく投資することが不可欠の時代に入っています。
すでにシンガポールと日本ではこれだけの差がついてしまっているのですから、一人ひとりがもっとシビアな目で将来の財務設計をするとともに、メディアも個人投資家レベル向けだけではなく、一般庶民がきちんと老後資金を築いていけるくらいの、実用的かつ平易な投資情報を提供してほしいものです。
私個人としては、(もうとっくに新年過ぎてしまいましたが)あと1週間で新年度を迎えるにあたり、このアドバイスに書かれている項目をぜひ実践してみたいと思います。 2014.12.01 Monday
インフレと少子化で目減りする年金。いよいよ導入される「マクロ経済スライド」
■物価スライド特例措置を2年で解消 年金のことをもっと知ろうとを見ていたところ、見慣れない用語をみつけました。「物価スライド」という言葉です。このページには下記のように説明があります。 物価スライド特例措置について 「物価スライド」という言葉からは、物価上昇(インフレ)に合わせて年金額も上昇するような印象を受けますが、どうもそれだけではないようです。文面をみる限りでは「これまでが特例でデフレのときに本来なら下げなければいけないのが下がっていないので、平成26年と27年の2年に分けて年金を下げます」と読めます。そういえば「年金額が下がった」という声を今年はあちこちで聞きました。 ■マクロ経済スライドとは何か? しかし、この措置が終わったら年金は現在進行しているインフレに合わせて単純に上がっていくのでしょうか? もう少し理解したいと思い厚生労働省のHPを見てみたら、今度は「マクロ経済スライド」という言葉がみつかりました。 公的年金のスライドには「物価スライド」「マクロ経済スライド」「賃金スライド」の三種類の方式があり、現在の日本の公的年金で採用されているのは「物価スライド」と「マクロ経済スライド」だけだそうです。 そうなると「物価スライド」はインフレになっても年金額が物価に同調して上がるのでよいとして、「マクロ経済スライド」ではどうなるのでしょうか? マクロ経済スライドとは、そのときの社会情勢(現役人口の減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みです。 の説明を読む限り、どうも物価上昇分から一定の料率を引いて年金額を計算するのがマクロ経済スライドのようです。ただ、具体的にどのような計算をするのか説明を読んでもいまひとつわからなかったため、次は厚生労働省に電話をかけて聞いてみました。 ■インフレかつ年金加入者が減れば減るほど目減りする年金給付金 以下が担当者の方にうかがった話の要約です。 平成16年の年金改革で公的年金制度維持のため、マクロ経済スライドを導入した(厚生年金保険法34条および国民年金法16条の2、27条の5)。平成16年以降はほとんどデフレが続いており、本来ならば年金額を下げなければいけなかったが、特例措置で据え置かれた。しかしそれを解消して支給額を引き下げ、2014年はインフレが見込まれるため(IMFによる10月時点の推計では2.66%)、初めてマクロ経済スライドを来年度から導入する見込み。具体的な計算方法は、物価上昇分から、2年度前の年金保険料負担者数を5年度前の負担者数で割った数字を引く(ただしこの計算方法はHP等に掲載されていないため検証はできませんでした)。 お話を私が理解したところでは、物価が上がった分は上昇率と同じく年金額も上げます、ただしそこから保険料を払っている人が減った分を引きますよ、というものだと思います。実際にどれだけ減るのかは来年になってみなければわかりませんが、インフレになればなるほど、保険料納付者数が減れば減るほど、名目支給額こそ上がりますが、実質的に支給される年金は目減りすることになるのです。 ■年金目減りに備えるシニア世代に見習おう。 ということをお伝えしました。すでに年金給付が始まっている世代では、マクロ経済スライド導入も視野に入れて今後の生活設計を考えていらっしゃるのではないかと思われます。 従来のままで公的年金制度を維持するのが不可能なのは火の目をみるより明らかですし、シニア世代の方々が着々と準備を進めているのに見習い、その下の世代でもこれまでの年金給付額や給付率を元にした将来設計をするのではなく、もっとシビアな老後プランをたてていくことが必要になってくるのではないでしょうか。 2014.11.20 Thursday
65歳以上の就業者が激増中!アベノミクス100万人雇用拡大の実情
18日に安倍首相が解散総選挙を宣言しましたが、記者会見の内容に少しひっかかった一言がありました。安倍首相は政権発足以来、雇用が100万人以上増えたと述べたのです。(もう一つ賃金が平均2%上がったというコメントもありましたが、消費税が3%上がっているので実質1%の減じゃないかと思わず突っ込みたくなりましたが、これはおいておきます)
■第2次安倍内閣成立から134万人も増えた雇用 によると、2014年9月現在の日本の雇用者数は5,636万人です。うち男性は3,175万人で56.3%を占め、女性は2,461万人で43.7%となっています。第二次安倍内閣は2012年12月末に発足していますので2013年1月の数字と比べてみましたが、当時の雇用者数は5,502万人ですから100万人どころか134万人も増えていることになります。 ■若年層は41万人増だが非正規社員が約半数 安倍首相が「高卒就職者への求人が大幅増」とおっしゃっていたので調べてみました。たしかに2012年3月の高校新卒就職者は17万5千人から2014年3月には18万1千人と3.4%増えています。しかし増加数はたかだか6千人程度で、2013年3月と比べると逆に2千人減っていますので、とても雇用全体に影響があるとは思えません。 いっぽう、2013年1月〜2014年9月までで高校新卒を含む15歳〜24歳までの年齢層では41万人も雇用が増えています。これは全年齢層の増加人数の約3割にあたり、伸び率も9%と非常に高くなっています。若年層の雇用は順調に拡大しているといっていいでしょう。 しかし問題もあります。雇用が拡大したとはいえ、この年齢層では正社員比率が53%しかなく、残りの47%はアルバイトなどの非正規雇用者なのです。人手不足が叫ばれ、サービス、小売業を中心に若年層の時給がじわじわと上昇していますが、たとえ時間給が上がったとしてもその多くはアルバイトであり、長期的な安定雇用は期待できません。この年齢層のパート・アルバイト社員もまた11万人増と大幅に拡大してしまっているのです。 ■45歳〜54歳は46万人の増加で女性が躍進 若年層よりさらに雇用の伸びが大きかったのが、45歳〜54歳の年齢層です。このうち最も伸びが大きかったのは、女性の非正規雇用で18万人の増。パート・アルバイトが8万人増、契約社員が7万人増となっていますが、正社員も5万人増えており、女性だけで26万人も増加しました。 この年齢層では男性も21万人増加しているのですが、女性とは逆に正社員の伸びが最も大きく13万人も増えています。正規職員/社員の雇用率も91%前後と安定しており、働き盛りの雇用もまだしっかり確保されていることがわかります(ただし正社員比率はほとんど変わっていませんので、非正規雇用の男性もまた増えているのが実情です)。 ■雇用拡大の過半数は65歳以上。女性の非正規雇用が28万人も増大 これまで若年層、壮年層をみてきましたが、実はこの期間で最も大きく雇用が拡大したのは、65歳以上の高齢者層です。アベノミクスで拡大した雇用の過半数が65歳以上、というのは非常に示唆に富む結果だと思います。 2013年に1月に350万人だったこの年齢層の雇用者は2014年9月には422万人になっており、72万人の増加。若年層の2倍近くも伸びています。またこの年齢層は、雇用者全体の7.5%を占めるようになり「働く人の13人に1人は65歳以上」という状態になっているのです。 さらに詳しくみていきましょう。65歳以上ですので正社員雇用はぐっと下がって25.8%です。伸びているのは圧倒的に非正規雇用で57万人と、増加分の8割を占めています。男女別でみると女性の非正規雇用が107万人で28万人増、男性の非正規雇用が134万人で29万人増と男女ともに大幅に増加しています。いっぽう男性の65歳以上正社員雇用は5万人増で、女性は変化なし。65歳をすぎてもまだまだ元気な男女がパートタイマーやアルバイトとして働き、貴重な労働力となっているといえます。 ■正社員雇用はほぼ変わらず、シニア世代の非正規社員が大幅増のアベノミクス 最後に全体をみたいと思います。2013年1月と2014年9月を比較したとき、全体の正規雇用者数はマイナス9万人となっています。25歳〜34歳の女性が12万人の減、55歳〜64歳の男性が16万人の減などとなっており、女性の転職・出産による退職や男性の定年後の転職などが主な理由の誤差の範囲内と考えていいと思います。ただ、全体的に年齢にかかわらず正社員の増加傾向があるなど、正社員雇用を企業が控えている、という印象はありません。 逆に非正規雇用者は147万人と大幅増。増加した非正規雇用者のうち55%にあたる81万人が55歳以上で、その約7割の57万人が65歳以上です。また、45歳以上の女性の非正規雇用18万人もいれると、この3つの年齢層だけでほぼ100万人が非正規雇用で増えたことになります。 この数字からみえてくるのは、まだまだ元気な高齢者が、積極的に労働市場に流入して生産・サービス活動に従事している姿です。将来に対する不安から「元気なうちに生活費を稼いで貯蓄しておきたい」という自己防衛本能の表れともいえるかもしれません。また、45歳〜54歳の従来は「年齢的に再就職は難しい」と就職をあきらめていた年齢層の女性たちの間でも、できるだけ働いて老後に備えたいという意識が高まっているといえるでしょう。 皮肉なことに「老後の備えに働けるうちはとにかく働きたい」という、アベノミクス効果による将来への不安とリスク回避意識こそが、安倍首相のいう「100万人の雇用拡大」の主要な要因ではないかと考えられるのです。もはや庶民にとって「年金を受給しながら悠々自適の引退生活」は手の届かない高嶺の花になりつつあるのではないでしょうか。 ■働く人の4人に1人は55歳以上。変わらざるをえない働き方 役職定年などが多い55歳以上を区切りとして、シニア世代の55歳以上の労働人口を総計してみると1,398万人になり、全雇用者の24.8%を占めていることがわかります。いまや日本の労働者の4人に1人は55歳以上、シニア世代は貴重な労働市場の戦力です。 日本では過労死、長時間労働などが長い間問題になってきましたが、ここまで高齢の労働者が増えるとこれまでのような日本的な働き方は企業がどんなに望んでも継続は難しいと思います。シニア世代の現役期間が延びるにつれ、否応なくワーク・ライフ・バランスの実践が定着してくるのではないかと期待しています。 2014.07.04 Friday
「100年安心年金」崩壊でもバラ色の老後へ!
■団塊の世代が年金受給年齢に! いよいよ始まった超高齢化社会。
団塊世代のピーク、日本で最も多い人口をもつ昭和24年生まれ(1949年)の方々が今年、65歳になります。この方々を含む昭和22年〜24年生まれの団塊の世代の合計人数は2009年時点で約664万人に上り、今年中に全員が公的年金を受給できる資格を取得することになるのです。 2014年6月の日本の人口は1億2700万人。うち65歳以上人口は3,200万人で全体の25%を超えました。15歳以上の生産年齢人口は1億1,000万人となっていますが、昨年度調査の有業者率は58%ですので働いている人を6,400万人とすると、ちょうど年金受給者1人に対し現役2人が支えるという構造になっています。 金額的には年金受給者1人あたりの受給平均額約20万円を、働く人1人で10万円ずつ負担することになります。自分の生活だけでも精一杯なのに、どこからどう見てもこれはちょっと無理ですよね。そこで税金を年金会計に入れたり、年金積立金を運用してその運用益を使っているのです(もちろん年金の保険料そのものもずっと上がり続けています)。 今年は5年に一度の年金検証の年にあたり、6月初旬に政府の検証結果が公表されました。しかし、あまりにも現実からかけ離れた楽観的な数字に専門家から批判が続出しており、今後、厚生年金の支払い増加によって積立金を取り崩していけばあと20年以内にも枯渇してしまうのではないか、という厳しい見方もあるようです。 国民年金積立金の運用実績は平成24年度こそ株高の恩恵で11兆円強ありましたが、13年から24年度までの10年で合計25兆しかありませんので、実際には平均年間2.5兆、1.9%の運用益ということになります。定期預金の利息がよくて0.1%程度の時代ですから、この運用益でもまずまず頑張っているといってもいいでしょう。 しかし、政府の楽観試算では今後の運用益が最も低くて3.9%です。現在の残高が128兆円ですので、3.9%の運用益で約5兆円ですが、これまで通り1.9%の運用益でしたら2.4兆円にしかなりません。 ちなみにシンガポールの年金制度(ただし日本と違い自己積み立て方式で、自分がかけた金額が公団住宅購入資金や年金として還付されるもの。政府が管理・運用している)ではここ数年間の運用利回りが10%近くになっていて、テマセック・グループというヘッジファンドさながらの政府系投資会社の辣腕運用は世界的にも有名です。おかげで国庫資金も潤沢なため、現在、健康保険制度改革(政府の補助を大幅に増額)が議論されているくらいですが、それでも国民への運用益還元率は4%にすぎません。 いっぽう、世界でも最大規模のボリュームをもつ我が国の年金積立金運用の半分以上は日本国債に当てられており、長期金利は0.55%。残りの半分と合計で3.9%の運用益をだすためには、その他の債権や株で毎年、7%以上の利益を出さなければいけません。株や債券に投資したことがある人なら、これがどれだけ大変な数字かおわかりになると思います。 また、65歳以上人口はこれからもどんどん増え続ける予測なのとは逆に、65歳未満の人口は非常に速いスピードで減少しており、若い世代がとても「100年安心」と思えるような体をなしていないことは、誰から見ても明らかなのではないでしょうか。 ■年金受給を前提に老後計画をたてて本当にいいの? こんな現状ですから、私たち国民が将来、いったいどれだけ年金をもらえるのだろうかと知りたくなるのは当然のことです。 すでに受給が始まって何年にもなる人は別にしても、受給が始まったばかりの方や、10年後、20年後、30年後に受け取る予定(とされている)の人たちが、現在と同じ水準でずっと受給できる可能性を素直に信じられるのでしょうか?(何かの原因で出生率や税収が飛躍的に増えるとか、老年人口が劇的に減少するとかの確信があれば別ですが)。 上に書いてきたようにざっくりと現状をみただけでも、私には悲観的な未来しか想像できません。 ですので、新聞や雑誌などで「年金は20万円給付だけれど、バラ色の老後を送るためにはあと月6万円必要。これをプラスできるように30代から自己年金を積み立てよう」などという記事をみつけると、「いったい誰がこんな計算を信用できるのだろう?」と首をひねってしまいます。 これはバブル最盛期にまだ20代だった私が「どんどん土地や株を買って財テクしよう!」とファイナンシャルプランナーをはじめ多くの専門家と言われる人たちが声高に叫んでいるのを聞いて感じた違和感と似ている気がします。バブルは崩壊し、ファイナンシャルプランナーや銀行や証券会社の薦めるままにたくさんの株や土地を買い、挙句の果てに倒産したり自己破産した会社や人たちを何人も知っていますが、誰も代わりに責任を取ってくれなかったのは言わずもがなです。 ■年金ゼロでもバラ色の老後を送るために。 これから日本が突き進んでいく超少子高齢化社会はこれまで世界のどの国も直面したことがない、未曽有の事態です。すでに65歳以上の高齢者が4人に1人という現実でさえ、これまでの歴史になかったことですし、WHOの統計では日本の平均寿命は世界一、60歳以上人口の割合も世界一(日本32%で2位のドイツと5%も違います!)、合計特殊出生率は179位で、日本より低い国はボスニア・ヘルツェゴビナ、ポルトガル、韓国、シンガポールの4か国しかありません。 また、死亡最大年齢(平均寿命ではなく最も多い死亡年齢)は男性86歳、女性91歳ですので、自分自身の老後を考える場合は少し余裕をみて、男性なら90歳、女性なら95歳まで「生きてしまう」可能性を覚悟しなければならないでしょう。 先進国や中進国の多くもこれから少子高齢化社会に入ろうとしていく中で、先陣を切って進む日本はある意味モルモットとして世界中から注目されているのです。 しかし、この深刻な社会問題について、政府は国民を守るために真剣に取り組んでいるようにはどうしても思えません。報告書を読む限り、年金についても何とか数字上で帳尻を合わせて取り繕い、問題を先送りしているようにしか見えないのです。そんな中、この超異常事態を一人一人が乗り切っていくには自助努力、自衛策を早いうちから準備しておくしかないのではないでしょうか。 年金ゼロでもバラ色の老後を送ることができるように、とにかく若いうちから、すでにあまり若くない人は1日も早く、公的年金を当てにせず(もしも受給できたとしても現在の水準からはだいぶ少ない金額になるでしょうから「もらえたら儲けもの」くらいに考えておけば腹はたちません)、自分の力で乗り切っていける老後のための一歩を踏み出すことが重要だと思います。 |
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