ASIAN NOMAD LIFE

日本、香港、中国で生活・仕事をしてきてシンガポール在住8年目。
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アベノミクス第三の矢でいよいよ始まる移民受け入れ政策
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    JUGEMテーマ:シンガポール
    先週、在シンガポール日本大使館主催でアベノミクスに関するセミナーが開催されました。
     
    内閣官房参与本田悦郎氏をキーノートスピーカー、シンガポール政府投資会社のチーフエコノミストと、シンガポール最大の不動産会社キャピタランド子会社の日本担当責任者をスピーカーに、コーディネーターをシンガポール国際問題研究所トップに依頼するという豪華編成。シンガポールを拠点にして5年になりますが、日本大使館主催でこれだけの規模のセミナーを見たのたのは初めてでした。
     
    ■アベノミクスの推進者、本田悦郎官房参与講演の意図
    講演ではアベノミクス政策により一部で復調の兆しをみせる日本経済の説明に始まり、インフレターゲットを達成することこそが最重要課題と本田参与が力説。ただし、折悪く日銀の黒田総裁が2015年度のインフレターゲットを2%から1%に軌道修正した直後のタイミングで「2020年までに設定したプライマリーバランス黒字化目標を達成できなくてもいたしかたない」といういささか歯切れの悪い場面もありました。
     
    ただ全般的には、本田氏=安倍政権のアベノミクス推進に対するなみなみならぬ熱意だけはじゅうぶん伝わってくる講演で、シンガポール財界人に向けてアベノミクスの大枠を説明し、サポーターを増やす、という目的(私の推察ですが)はある程度果たされたのではないかと思います。
     
    ■具体的にみえてきた高度外国人材の受け入れ
    講演の中では特に言及されませんでしたが、配布された資料で最も気になったのがアベノミクス第三の矢の重点政策の労働資源として、女性と並び外国人が挙げられていたことです。労働力としての女性活用推進は第二次安倍政権発足当初から声高に叫ばれていましたし、昨年3月の自民党日本経済再生本部の「労働力強化に関する中間とりまとめで外国人技能実習生制度の拡充についてかなり詳しく述べられていましたが、高度人材に関する言及はごくわずかでした。それが今回の資料では、女性の労働戦力化と並ぶ柱として外国人が挙げられていたのです。
     
    その中で、すでに段階的に実施されている政策は2つあります。
     
    ・高度人材の要件に関する基準の緩和(給与水準や業績などの基準の見直し)
    ・永住権取得に必要な居住期間を5年から3年に短縮
     
    いっぽう、今後検討される政策としては、
     
    ・国家戦略特区(福岡市、養父市、関西圏、新潟市、東京圏)における外国人の起業奨励
    ・同区内における外国人家政婦の受け入れ(高度外国人材家庭向け)
    ・外国人材の積極活用推進のための新基準の促進
     
    が挙げられていました。この中ではさらに製造業セクターへの労働者受け入れも検討されており、20153月までに詳細な内容が決定されると書かれています。ここまで踏み込んで外国人受け入れを推進する目的はいったい何なのでしょうか?
     
    ■少子高齢化では日本の先を行くシンガポール
    シンガポール政府関係のスピーカー、レスリー・テオ氏は日本経済の最大の問題点として「人口構造の変化」と「規制撤廃が進んでいないこと」を挙げました。後者は「農業、医療分野」と明言されていましたので明らかにTPPを指していると思われ、「人口構造の変化」は日本流にいえば少子高齢化社会への急激な変化です。
     
    しかし、「人口構造の変化」が日本よりもっと深刻なのは実はシンガポールのほうです。一時期産児制限による人口抑制政策をとっていたこともあり、合計特殊出生率は日本の1.43を大幅に下回る1.2ぎりぎりラインで世界最低レベル。1975年に2.1を切ってからほぼ右肩下がりで推移しこれ以上伸びる気配がありません。ただ、シンガポール政府がこの状況に手をこまねいていたかというと、決してそうではありません。
     
    保育園(すべて民営)の数は驚くほど多く自由に選べ、待機児童という言葉さえありません。また、外国人家政婦も低賃金でいつでも雇うことができますので、女性が働きながら子育てする理想的な環境が揃っています。財政サポートも充実しており、ベビー・ボーナスという出産給付金が1人あたり約50万円支給されるほか(3人目からはさらに高くなります)保育料の補助もあります。さらに以前は政府主催の無料お見合いパーティーなどを盛んに催していました。しかしこれだけのことをしたにもかかわらず、出生率は下がり、独身男女の数は増えるいっぽうでした。シンガポールでは少子高齢化に歯止めをかけることはできなかったのです。
     
    ■移民政策に舵を切ったシンガポール
    そこでシンガポール政府がとった対策は、移民の受け入れでした。
     
    外国人労働者を高度人材と単純労働者に分け、ビザの種類や滞在期間、規則などを厳密に区分して受け入れました。例えばIT技術者など絶対数が不足している高度人材の場合は、就業ビザや永住権が比較的簡単にとれやすいのですが、逆に低コスト労働者である外国人家政婦の場合は永住権申請はできず、また、妊娠がわかった時点でビザは取り消しとなり、国外退去処分を受けます。
     
    永住者は帰化への段階的措置とみなされており、申請すればシンガポール国民になることも可能です(ただし審査基準は非公開で必ずなれるわけではありません)。帰化する人がもっとも多いのはシンガポール人とあまり変わらない華人系マレーシア人ですが、最近では中国からの帰化シンガポール人も増えています。
     
    このように、シンガポールではすでに自力で人口を増やすのではなく、国にとって有用だと考える人材を輸入する、つまり移民を受け入れる方向に大きく舵を切りました。その結果、外国人人口はこの十年で約2倍に伸び、1人あたりGDPも日本を大きく超える経済成長を果たしました(ただし国民及び永住者は全住民の約70%程度にとどまっていて、その他は依然として外国人労働者です)。シンガポール政府は今後数十年間で人口を現在の倍の1,000万人まで増やす計画ももっているようですが、その実現策が移民を軸としたものであることは疑いようがありません。
     
    ■移民受け入れと法人税減税はセット
    建国当初から多民族国家だったシンガポールと違い、これまで海外からの人材受け入れを厳しく規制してきた日本にはバブル期などに人手不足に陥り、「移民受け入れ」議論が起きてもことごとく潰されてきました。しかし、特区をわざわざ作ってまで高度外国人材を受け入れるという政策の裏には、シンガポールと同じく日本の少子化・人口減少にはもはやドラスティックな改善が望めないという諦念が見え隠れしているような気がします。
     
    そしてもう一つ、安倍政権が財務省の強硬な反対を押し切ってまで推進しようとしている法人税減税もこの高度外国人材受け入れと無関係ではないと私は考えています。というのも、コストのかかる教育を受け、高度なスキルをもつ人材は世界的にどこの国でも歓迎されており、シンガポールをはじめ多くの国が獲得競争をしています。彼らに移民してもらい働いてもらうことにより、国全体の経済成長を促すことができるからです。しかし日本では「(世界共通語である)英語が通じにくい」というハンデがあるうえ、企業法人税が非常に高いというデメリットも抱えています。これでは外国人にとって移民先や投資先として魅力がなく、他国との獲得競争に負けてしまいます。
     
    私はこれまで中国とシンガポールで会社を設立してきましたが、海外からの投資や人材を呼び寄せたい国が真っ先に行うのは税の優遇です。中国に会社を設立したときには外資企業に対し「三免五減」で3年間は会社の利益に対して免税、5年間は減税されるという特典がありました。シンガポールでは3年の免税期間がありました。
     
    これに類する外資企業への優遇措置を日本政府が直ちに行えば、国内企業と差が開きすぎて不満が噴出することは必至です。また、数年間免税や減税をしてもらっても、その後、世界的にみても非常に高い水準の法人税が課されることがわかっていれば進出する企業も二の足を踏んでしまいます。そこでまず段階的に法人税減税をしつつ、外国企業への優遇措置も検討していくというのが次の一手ではないかと考えるのです。外資企業が増えれば当然、そこで働く外国人も増えていきます。このようにステップを踏みながら外国からの高度人材を受け入れたい、というのが政府の本音なのではないかと推測するのです。まず永住権の取得期間を短縮したのはその表れではないでしょうか。
     
    ■アベノミクス後に来るのは真の日本の国際化か?
    本田氏が講演中何度も口にされた数々の政策実現期限である2020年は、東京オリンピック開催年でもあります。公共工事やインバウンド受け入れ整備など現内閣が推進する施策は多いと思いますが、その背景には東京オリンピック以降をにらんで日本という国の将来をどう形作っていくかのビジョンが反映されているはずです。アベノミクスはまさにその礎の政策となる運命にあります。
     
    その意味で、外国人労働者(高度人材であれ単純労働者であれ)の受け入れはこれからの少子高齢化社会をどう乗り切っていくかの一つの解答になると同時に、本当の意味でこれからの日本が国際化していくのかどうかの重要政策の一つになるのではないでしょうか。
     
    | 後藤百合子 | 日本経済 | 08:30 | - | - |
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