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    大塚家具の会長・社長会見にみえた事業継承の大きな問題
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      ■会長、社長の会見スタイルの大きな違い
      1か月前の記事にも書いた大塚家具の父娘間の経営権争い、勝久会長が久美子社長の罷免を求める株主議案を提出し、いよいよ騒動は佳境に入ってきました。先週には父娘ともに会見を開き、3月の株主総会を控えてテレビなど大手メディアでも大きな注目を集めています。
       
      父娘間の最大の争点は創業者である勝久会長のビジネスモデルである会員制セット販売を継続するか、久美子社長の経営方針である顧客の裾野を広げて単品売りを基調にするかという販売手法に対する考え方の違いと言われていますが、会見の様子をテレビで観ていて、それ以外に実は大きな問題があるのではないかと感じました。
       
      それを如実に示したのは2人の会見スタイルの違いです。
       
      勝久会長は「娘(久美子社長)を社長にしたのが間違いだった」「このままでは大切な社員たちが会社を辞めてしまう」と苦渋に満ちた顔で語りましたが、背後にずらっと背広姿の男性たちが10人以上並んだのはこれまで会長と長年苦楽を共にしてきた幹部社員たちなのでしょう、「俺たちが会長を守るんだ」という意気込みなのか、固い表情でテレビカメラを睨み付けるように直立不動の姿勢で立ち一種異様な雰囲気を醸し出していました。これとは対照的に、久美子社長の会見はたった一人で、パワーポイントの資料を指しながら淡々と現在の経営状況を説明しつつ質問に答え、「創業者はいつか引退しなければならない」と表情を変えずに語っていました。
       
      ■「人情に厚い集団のトップ」と「合理的な経営者」。両極端の2
      勝久会長の会見を見て私が率直に感じたのは「映画に出てくるヤクザの親分みたいだな」という感想です(反社会勢力的という意味では決してありません。念のため)。
       
      男性が中心的な役割を占める集団のトップとして、部下の面倒を長年にわたってみ続け、時には叱咤激励しながらも厚い人情をかけながら彼らを引っ張ってきた老境の男性の心情が伝わってくるような気がしたのです。反対に、この親分に仕えてきた子分たちにとって、感情や人情に訴えるのではなく、あくまで数字や論理で現状と経営方針をクールに説明し「明日からこのように営業方法を変えてください」と新社長に言われたとしたら、いきなり突き放されたような気がして「やはり以前の社長のほうがよかった」と思ってしまいそうだなと感じたのです。
       
      前回も書いたように、久美子社長は一橋大学卒業後、大手銀行でキャリアを積み、いったん大塚家具を離れたときにはコンサルティング業を営むなど、経歴をみれば絵に描いたようなエリート人生を送ってきています。勝久会長の部下をつとめてきた古参社員たちとのバックグラウンドはおそらくまったく違い、下手をすると久美子社長の話している言葉さえ通じていないということも起こっていたかもしれません。
       
      そのような背景を考えると、今回の騒動のそもそもの原因は、直接的に父娘が対立したというより、久美子社長の経営スタイルについていけない社員たちが勝久会長に直訴し、その結果、もともと販売方針などをめぐる父娘の考え方の違いが決定的な経営者間の亀裂に発展したものではないかと強く感じました。
       
      ■中小企業の事業継承に伴う古参社員の反発
      大塚家具に限らず、中小企業で先代の子供が社長になるときには、必ずといっていいほど社員との軋轢が生じます。古参社員からしたら新社長は「おむつをしていた頃から知っている社長の子供」です。下手をしたら新社長を大学まで出してやったのは「俺たちが汗水たらして稼いできたお金のおかげ」と考えている社員もいるかもしれません。
       
      「まだまだひよっこ」と心中では下に見ている新社長から「これまでのあなた方のやり方はもう通用しません」「これからは私のやり方でやりますので、それに従ってください」と言われ、引退した会長に「社長をなんとかしてほしい。そうでなかったら会社を辞める」と古参社員が直訴した、という話は社長仲間からもときどき聞きます。まして新社長が女性であれば、「あんな小娘の言うことなんか聞けるか」という反発を社員から招くことは往々にして起こるのです。
       
      ■新たな経営方針をどう社員に理解してもらうかは社長の力量
      いくら社長が素晴らしい斬新な経営方針を示しても、社員が本気になってその方針に従って動いてくれなければ決して会社の変革はできません。そのような逆境の中で、どう自分の方針を社員たちの腹の中まで落とし込み、同じベクトルに向けて引っ張っていけるかもまた、社長の重要な責務です。
       
      客観的にみれば、会員制高級家具セット販売というこれまでの勝久会長の経営スタイルが現在の市場の変化に対応したものであるとはとても思えません。勝久会長もここまでの会社を創った名経営者ですから、それはある程度理解しているでしょうし、久美子社長の新しい経営方針のほうが株主にとって合理的かつ魅力的にみえることは間違いないでしょう(ただし商売は生き物ですから、合理的な選択をすることによって確実に売り上げや利益が上がるとは断言できないところがまた難しいのですが・・・)。
       
      しかし、もし久美子社長が今回の父娘の闘争の勝者となったとしても、集団のトップとして社員たちのモチベーションを上げ、自分の経営方針を実現してもらう、という最も重要かつ困難な仕事は残ります。逆に勝久会長が久美子社長を追放できた場合でも、現在の消費者の購買行動の変化に素早く対処できる経営方針を社内に示し、それを実行していく社員を育てていく、という仕事はこれからも続くのです。
       
      個人的には、7年ほど前に新宿の大塚家具でソファを単品買いし、今でも愛用しています。一消費者としてはニトリやIKEAだけでなく、多少高くても長く使える良いものを「単品で」売ってくれる大塚家具には、今回の騒動の教訓を活かし、ぜひ今後も生き残ってほしいと思っています。
       
      | Yuriko Goto | 企業経営 | 09:15 | - | - |
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