ASIAN NOMAD LIFE

日本、香港、中国で生活・仕事をしてきてシンガポール在住8年目。
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高額商品になってしまった「大学」をもう一度考え直したい。
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    ■上がる大学学費と膨らむ奨学金の返済

    40代後半から50代にかけての私と同世代の親たちが今一番悩んでいるのは、子供の大学進学問題です。 といっても、ひと世代前の私たちが受験した当時の親とは違い、子供たちをどう偏差値の高い大学へ入れるかというより、進学費用をどう工面するかのほうがよほど大きい問題です。

     

    この文科省の資料によると、私が大学に入学した昭和57年(1982年)の国立大学の授業料は216,000円で、入学料は100,000円、私立大学は授業料406,261円、入学料212,650円でした。これが平成26年(2014年)になると国立授業料535,800円、入学料282,000円、私立授業料864,384円、入学料261,089円と、国立私立ともに授業料は2倍以上、私立の入学料はそれほど変わっていませんが、国立は3倍近くになっています。

     

    その間、所得はどうなったかというと、1982年の大卒男子の初任給は127,000円、2014年は205,000円と、約6割上がったにすぎません。

     

    仮に上記の授業料のまま4年間奨学金で学費を払い(利子計算はせずに)、初任給の給料(社会保険料や税金や生活費を勘案せず)で返済するとして計算すると、1982年国立の場合、合計964,000円で7.6ケ月で完済、私立でも1,837,694円で1年2ケ月程度で返済可能。しかし、2014年の場合ですと、国立2,425,200円でほぼ1年になり、私立となると3,718,625円で1年半以上かかる計算になるのです。

     

    借りた分だけでなく利子も含めて返さなければならないとなると、さらに返済は困難になってきます。もちろん、ぶじ大学を卒業して就職できたとしても、給与を全額返済に充てられるわけがありませんので、返済は最低でも数年、借りる額によっては10年以上と長期にわたる人も少なくないようです。社会人になったばかりで給料も低くかつかつの生活をしている中、奨学金返済の負担は相当に大きいといえるでしょう。

     

    この資料によると、1998年度の有利子奨学金受給者は11万人、それがピークの2013年度には102万人まで膨れ上がり、現在では、大学生の2人に1人が奨学金受給者だといいます。バブル崩壊以降の日本全体の所得の伸び悩みもあるでしょうが、それ以上に、授業料の高騰と、以前なら大学へ進学しなかった学力の学生も進学するようになったことが大きいでしょう。そして実際に奨学金を借りている大学生や利用予定の高校生の約8割が返済に不安を抱いていると言われます。少しでも多く子供の学費を工面したい親だけでなく、奨学金を借りざるをえなかった子供も、借金の返済に追われることになるのです。

     

    ■大学が少子化を乗り切るためには進学率と授業料を上げるしかない

    そもそも、これほど親に大学の学費負担が広がり、奨学金利用者が増えてきたのは、ひとえに大学進学者割合が増えたことにあるといえるでしょう。

     

    1982年を例に挙げれば、四年生大学進学率は男子こそ37.9%と4割近かったものの、女子ではたった12.2%。平均すると4人に1人しか大学に行きませんでした(女子は短大進学率が20.5%)。しかし2015年の文科省発表によると、大学・短大進学率は過去最高の54.6%(現役のみ)で、半数以上が四年生大学または短大に進学しています。

     

    いっぽうで、進学希望者の需要を満たすため増えすぎた大学も問題を抱えています。2018年をスタートに2031年までに18歳人口は33万人減少すると予測されており、そうなると現状の大学・短大が学生数を維持して生き残るためには、さらに進学率を高めるしかありません。通常のビジネスでいえば、マーケット自体が縮小するわけですから、シェア(大学進学率)を上げるか、1人あたりの単価(授業料)を上げるしかないという発想になるのです。

     

    そしてもう一つの手段が、海外からの留学生を増加させること。(独)日本学生支援機構の調査によると、平成27年度に大学に在籍している留学生は69,405人でピークの平成22年度に比べると4,000人ほど減らしていますが、いっぽうで日本語学校など大学準備段階の学生数はベトナム学生の増加などで右肩上がりに伸びており、今後も伸び続けるのではないかと予想されます。もちろん彼らの多くも、働きながら必死で学費を稼いで勉強する学生である点では日本人学生と変わりありません。

     

    ■クリントン夫妻をめぐる「政治と大学」の関係

    7月22日の英Financial Times紙に、「The for-profit partnership(利益を求めるパートナーシップ)」という記事が掲載されていました。

     

    この記事によると、クリントン夫妻は2010年以降、2,200万ドル(日本円で約22億5千万円)を教育産業から受け取っているそうです。ビル・クリントン氏は5年にわたりLaureate国際大学の名誉総長を務め、その報酬は165万ドル以上(約17,000万円)だったといいます(この額はハーヴァード大学学長年収を超えるそうです)。この大学はこれ以外にも、クリントン夫妻の政治団体に複数回にわたり多額の献金をしており、Gems Educationという別の教育企業も献金をしていま。また、2014年にはヒラリー・クリントン氏は、テキサスのAcademic Partnerships of Dallas とニューヨークのKnewtonという教育企業で講演し、2回で45万1千ドル(約4,600万円)という多額の報酬を得ています。

     

    ちなみに、Laureate国際大学はアメリカ、ヨーロッパ、アジア、アフリカなど25か国以上で合計85教育機関を運営しており、100万人以上の学生が学ぶ巨大教育機関で、営利企業が運営しています。この会社の前身は1988年に設立された専門学校でしたが、1991年に米実業家のベッカー氏が経営に携わるようになってから飛躍的に発展します。ベッカー氏は他にも様々な会社の取締役を務め、辣腕を奮ってきた経営者であり、彼の教育機関もまた、利益を生みだす「商品」として考えられているのです。

     

    クリントン氏の名誉総長就任はその「商品」に付加価値を高めることにより、より多くの「消費者」(学生)を集めることが目的だったことは疑う余地がありません。そして、クリントン夫妻に支払われた巨額の報酬や献金の源泉は、もちろん、これらの企業が経営する大学で学ぶ学生たちの授業料です。

     

    アメリカと違い、日本では営利企業が大学を運営することは認められていませんが、経営という視点から現状を見たとき、やはり教育を「商品」としる姿勢の大学が増えつつあるのではないかという疑いは払しょくできません。

     

    ■「大卒でないと生涯賃金が低くなる」は半分ウソ

    以前、私の会社にいた社員に製品の生産日数を計算する方法を教えていたときのことです。説明しながら「ここは7x4だから、いくつになる?」と聞いたら、勢いよく「27!」という答えが返ってきて、二の句が継げないという経験をしたことがあります。彼女は地元ではそこそこ名門の短期大学出身でした。

     

    彼女に限らず、これまでに採用した大学新卒者たちの中にも、掛け算や簡単な分数など基本的な計算ができなかったり、一般的な日本語の語彙がわからない人は少なくありませんでした。「学費を一生懸命稼いで払ってくれた親に申し訳がたたないと思わないのか!?」といつも思ってしまいますが、これが厳しい現実です。

     

    もともと勉強が好きで研究者になりたかったり、専門分野を究めて、将来その分野で働く技術を身につけたいというなら別ですが、多くの学生は専攻した学問とはあまり、もしくはまったく関係ない企業に就職することがほとんどではないかと思います。であれば果たして、奨学金という大きな借金をしてまで大学進学する必要はあるのでしょうか?

     

    この資料は、学歴別の生涯賃金をまとめた調査結果です。単純に高卒と大卒を比較した場合、60歳まで働き続けた生涯賃金は高卒が2億円、大卒が2億6千万円(男性の場合)となっており、6千万円もの差があります。「大卒と高卒では給料が違うから、何とか大学まで出してあげたい」と願う親の気持の根拠がここにあります。しかし、それ以上に大きいのは実は事業規模の差で、1,000人以上の規模の企業で大卒の場合は3億1千万円となりますが、10人〜99人規模の企業では2億2千万円でその差はなんと9千万円、また、1,000以上企業の高卒の2億7千万円より5千万円も下がります。学歴よりも企業規模の差による生涯賃金格差のほうがずっと大きいというのが現実なのです。

     

    従業員1,000人以上の大企業に入社したいのであれば大学卒の学歴は必要かもしれませんが、私や仲間の社長たちの多くが経営している10人〜99人規模の社長たちの本音は、「大学なんか卒業していなくていいから、少なくとも基本的な読み書き・計算ができる人材を送り出してほしい」の一言に尽きます。

     

    ■シンガポールで始まった生涯教育の内容

    昨年からシンガポール政府が非常に力を入れている政策の一つに、「Learning for Life」という生涯教育政策があります。「生涯教育」というと日本ではついついカルチャースクール的な教室を想像しがちですが、ちょっと違い、その職業に必要な最新知識や技術を政府の補助を受けて会社員が学ぶ、という趣旨の政策です(社内でトレーニングを行う場合には政府が認証した上で雇用主に補助金が支払われます)。

     

    会計やIT技術などのコースはもちろんのこと、例えば「飲食業」というカテゴリーでは、まだ経験の浅い職人のためにパンや菓子のベーキングを勉強するコースがあったり、ホールスタッフ向けに接客の基礎を教えるコースがあったりする一方、スーパーバイザーやマネージャークラス向けに、購買と納品時のノウハウを教えたり、HACCP(食品の安全性を守るための国際規格)認証取得のためのコースまであり、多種多様です。

     

    この生涯学習の特徴は、熟練労働者を増やしたい層に特に手厚い補助をしていること。収入が少ない(月収14万円程度以下)35歳以下の若年層には最高95%の補助、また、収入に関係なく40歳以上では90%が補助され、多少のお小遣いが支給されるケースもあるようです。インセンティブを大きくし、若い非熟練労働者に基礎的技術を学ばせ、中高年層では時代に対応した新しい知識や技術を習得させてできるだけ長く働き続けられるようにしたい、という政府の意図がありありと読み取れます。

     

    大学だけにこだわらず、継続的に教育が受けられるシステムを

    シンガポールでは、国立大学への進学は狭き門で、需要の高まりに対応して最近新設された大学を含めても、3〜4人に1人程度しか大学に進学することができません(上記のLaurentを初め営利企業が運営する大学はありますが、そこでdegreeを取得して大卒の肩書はできても、社会的に国立大学と同等とはみなされませんし、オーストラリアなどへ留学する人もいますが非常に高額な費用がかかります)。

     

    いっぽう、ポリテクニックという国立の技術専門学校には、上記に紹介した飲食業のコースなど多彩なコースが用意されており、ここを卒業して就職していく人は多く、また、学力的にそこにも入学できない学生が行く、私立の職業専門学校でも政府の補助が非常に手厚く、年間10〜20万円程度の学費でそれぞれの分野の資格を取るコースに進学することができます。

     

    大学4年間(シンガポールでは3年が多いですが)にまとめて一生分の教育投資をするより、まず1〜2年で基礎を勉強してから実際に社会に出て働きはじめ、生涯を通じて継続的に教育機会を得ながら、自分のレベルに合わせて着実にスキルアップしていく、という教育に対する考え方がここにはあります。

     

    翻って日本では、40代後半から50代の親の世代でも、子供の塾などの教育費や大学進学の学費のために身を粉にして働きつつ、リストラや健康不安、ひいては老後の生活不安まで抱える状況が普通になってしまっています。このような閉塞感を打ち破るには、まず、大卒信仰を見直し、職業教育や生涯教育も含めた抜本的な教育システムの変更が迫られているのではないでしょうか。

    | 後藤百合子 | 家計管理 | 20:15 | - | - |
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