ASIAN NOMAD LIFE

日本、香港、中国で生活・仕事をしてきてシンガポール在住8年目。
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「労働生産性の向上=時間あたりの生産効率の向上」という議論の誤謬と「付加価値額」増加から考える新しい労働生産性の考え方
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    JUGEMテーマ:ビジネス

     

    ■「労働生産性」に関する考え方の根本的な誤り

    (財)日本生産性本部の「2016年度版労働生産性の国際比較によると、2015年の日本の時間あたり労働生産性は、42.1ドル(4,439円/購買力平価(PPP)換算)で、OECD加盟35か国中20位、ニュージーランド(41.0ドル)をやや上回るものの、米国(68.3ドル)の6割強程度しかないそうです。ちなみに、第1位はルクセンブルクの95.0ドル(10,006)で、日本の2.3倍もあります。

     

    また、就業者1人当たりでみた日本の労働生産性(就業者1人当たり名目付加価値)は、74,315ドル(783万円/購買力平価(PPP)換算)で、順位はOECD加盟35カ国中22位。やはりニュージーランド(72,109ドル/760万円)をやや上回るものの、カナダ(88,518ドル/932万円)や英国(86,490ドル/911万円)といった国を大きく下回っています。

     

    この数字はいったい何を意味するのでしょうか?

     

    「労働生産性の向上」というと、すぐに「無駄な残業時間の削減」や「時間あたりの生産高の向上」が議論されますが、時間あたり労働生産性だけでなく、1人あたり労働生産性もこれだけ低いとなると作業効率はほぼ関係ありません。いくらルクセンブルグ人が優秀だといっても、まさか時間あたり日本人の2.3倍の仕事量をこなせるとは誰も信じないでしょう。

     

    また、このレポートで「統計で遡れる1970年以来、主要先進7カ国の中では最下位の状況が続いている」「2010年代に入り、日本の労働生産性水準は米国の6割強で推移。1990年には米国の34近い水準だったが、2000年代に7割前後に低下し、近年まで緩やかに差が拡大する状況が続いている」と分析しているのも非常に問題の根が深い指摘だと思います。

     

    ■労働生産性向上の手法は時代の変遷によって変化する。

    では、なぜ日本人の労働生産性はこれほど低いのでしょうか?

     

    私は、労働生産性向上の議論に見られるように、日本人の多くがまだ、一時代前の「時間あたり生産効率を上げて生産コストを下げ、安く販売する」という成功モデルに囚われていることに最大の原因があると考えています。

    1人あたり労働生産性=付加価値額/労働者数

    付加価値額=売上高−人件費を除いたコスト(生産、仕入れ、減価償却、租税公課等)

     

    付加価値額や労働生産性の計算式はどれを採択するかによって少しずつ違いますが、だいたいこのようなものです。そして従来の議論では、「生産効率を高める=コストの削減」は議論されても、「売上高を上げる」という方法についてはほとんど議論されてこなかったのが実情です。

     

    20世紀にフォード型のライン方式やトヨタ型のカンバン方式でコストを下げる議論をしていたときならまだしも、21世紀の現在、「モノ」ではなく「情報」が主役に躍り出た時代にいかにも時代遅れの議論をしているように私には思えます。

     

    ■ある100年企業の変遷に見る付加価値額の確保方法

    それをはっきりと物語るのが、私が昨年10月まで社長をしていたある小企業の付加価値額確保方法の変遷です。

     

    この会社は私の曾祖父が大正5年に創業。当時は第一次世界大戦の最中でヨーロッパで日用品の生産ができなかったことから、ヨーロッパ向けに靴紐を作って輸出することからスタートしました。

     

    こちらは昭和9年の新聞に掲載された曾祖父のインタビュー記事

     

    曾祖父が語っているように、当初は東京の会社の下請けとして安い田舎の労働力を使って靴紐を作っていましたが(ヨーロッパに比べて安い製造コスト)、最初は長い紐の状態で販売していたところ、靴紐の長さに切ったり、その先に金属のチップをつけたりするとより高く売れることがわかり、別の商社に営業して販売先を変え、付加価値額を上げます。

     

    その後、祖父の代になると、今度は商社を介さず、横浜と神戸に支店を構えて直接輸出を始めるようになります。すると今度は商社が販売していたのと同じ値段(または若干安く競争できる値段)で売れるようになりますが、製造コストは変わりませんので、付加価値額は当然上がります。

     

    太平洋戦争をはさんで戦後の高度経済成長時代に経営にあたった父の代になると、今度は本格的なコスト削減=生産効率の向上が始まります。これまで住宅地にあった工場を人がいない畑の中に移し、24時間無人で工場を稼働させ、また生産効率のよい機械設備もどんどん導入して、これまでの数倍の生産高にしたのです。

     

    しかし、従業員数はそこまで増えませんので当然、1人あたりの労働生産性は上がり、従業員がいない夜間も稼働するわけですから時間あたりの生産性も上がります。一度に大量に作って販売すれば、それにかかる間接費も削減できますので、競合他社と比較して安い価格で売ることもできました。それでもなお、高い付加価値額と労働生産性を確保し、設備投資に余剰金を回すことができました。

     

    しかし1998年、私が経営に着手したときには、「作れば作っただけ売れる」という時代は終焉を迎えていました。当時の中国の工員さんの月給は約4,000円。対してこちらの社員の月給平均は20万円近くでした。父の代に相当な設備投資をし、製造コストに占める人経費割合が5割を切っていたとはいえ、いかんせん人件費が違いすぎます。また、日本製原料と中国製原料、及び外注加工費の差もあり、どんなに頑張っても価格差が縮まらず、あれよあれよという間に注文は中国に流れていき、倒産の危機に直面しました。

     

    そこで私がとった戦略は主として2つです。

     

    1つは徹底的なコストダウン。これまでの設備をさらに拡充して生産高を最大にし、もう一方で原料を中国より安いアジア諸国から直接買いつけて原料コストでも優位性を確保しました。この結果、一部の商品で中国製品と競争できるくらいまで販売価格を下げることができ、間接輸出額が大幅に増加しました。販売価格こそ低いものの販売数量が飛躍的に伸び、減価償却などの固定費や間接費は変わりませんので、その分付加価値額がプラスになりました。

     

    もう1つは「オンリーワン商品」の開発です。オンリーワン商品は競合他社が販売していない(販売できない)商品ですので、顧客に価格選択権はありません。そこで、高い粗利が取れる価格で商品を販売し、付加価値を高めました。もちろん開発した商品が全部売れるわけではないので大変でしたが、コストに比べ販売単価が大幅に高いので付加価値額が飛躍的に増えたのです。

     

    そして現在。次の世代に経営を譲りましたが、これからの付加価値額及び労働生産性向上の鍵になるのは、単なるモノではなくそのモノを所有することによって得られる消費者の満足感を徹底的に追及すること、および情報技術を使って販売機会を最大限拡大することにかかっていると思います。

     

    つまり、労働生産性の問題とは、人事・総務の問題ではなく、企画・営業・販売、ひいては経営戦略の問題なのです。

     

    ■労働生産性の王者はアップル

    このことを端的に表わしているのが、アップル社です。

     

    i-phoneをはじめとするアップル社の製品は、どれも競合他社とすることは同じです。電話をしたりネットにつながったりビデオを観たりすることは安いアンドロイド端末でも十分できます。しかし、多くの人は安物のアンドロイド端末(i-phoneと同じ中国製です)ではなく、その10数倍ものお金を払って最新のi-phoneを買うのです。

     

    安いアンドロイド端末を作るのもi-phoneを作るのも、(多少はいい材料を使っているかもしれませんが)たいして製造コストは変わりません。十数倍ものコストの違いは絶対に出ません。また、従業員数が十数倍になることもあり得ません。つまり、アップル社の社員の1人あたり労働生産性は、安価なアンドロイド端末のメーカーに比べ数倍も労働生産性が高くなる可能性があるということになるのです。

     

    これこそ、冒頭に紹介したアメリカと日本の労働生産性の差が開きつつある最大の原因ではないでしょうか?

     

    ■どうやって付加価値額を上げるかをもっと真剣に考えるべき。

    ホワイトカラーの労働生産性を上げる、という場合、ムダな残業を削減して効率よく仕事するという議論にはもちろん全面的に賛成します。

     

    しかし、これまでと同じ仕事をしてただ早く帰ればいい、というのでは時間あたりの労働生産性は上がるかもしれませんが、1人あたり労働生産性は上がりません。そこが上がらなければもちろん給料も上がりませんし、デフレからも脱却できないでしょう。

     

    もちろん、日本にもキーエンス、ファナック、浜松ホトニクスなど、それぞれの分野で他社の追随を許さない独自の技術をもち、非常に高い世界的シェアを誇る会社はいくつもあります。しかし、残念ながら、総労働者数や総企業数に対してこのように高付加価値額を稼ぎだすことができる企業の数が少なすぎるのが現状なのです。

     

    シャープの鴻海への身売り、東芝の経営危機をはじめ、これまで日本を代表してきた名門日本企業が次々と経営難を迎える中、これからの日本経済をどうやって持続させていくかを考えるとき、もう一度原点に立ち返って、付加価値額を上げ、労働生産性を高める方策を国民レベルで議論していくことが重要なのではないでしょうか。

    | 後藤百合子 | 企業経営 | 17:09 | - | - |
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