ASIAN NOMAD LIFE

日本、香港、中国で生活・仕事をしてきてシンガポール在住8年目。
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書評:『産まなくても、育てられます 〜 不妊治療を超えて、特別養子縁組へ』後藤絵里(著)
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    我が家のもうすぐ8歳になる娘はカンボジアから迎えた養子です。

     

    養子だということを話すとたいていの人から似たような反応が返ってきます。

    日本人:「人が産んだ子を育ててるなんて偉いねー。とてもできない」

    シンガポール人:「この子は養子にしてもらって幸せだねー。運がいいよ」

     

    「子どもを預けてくれた産みの母親にはとても感謝してるし、その決断を尊敬してるんですよ」とか「育てていると自分が生んだ子とか養子とかは全然感じないんですよ」とか「この子より子どもを授かった私たち夫婦のほうがよっぽど幸せで運がいいんですよ」とか答えているのですが、どうもしっくりこないらしく、怪訝な顔をされてしまうことのほうが多いです。

     

    子どもを産んだことがない私が出産の苦しみを想像することができないように、養子を育てたことがない人が養子と養親の関係を想像することも難しいと思いますが、決して子育てしながら社会貢献しているつもりはないですし、子どもが我が家にきて運がいいのかどうかもわかりません。一言でいって「まったく普通の親子と変わらない」が私たち夫婦の実感です。

     

    この本に登場するほとんどの養親さんと同じく、私たち夫婦も結婚後まもなく不妊治療を始め、(たった1年程度でしたが)精神的にも肉体的にも疲労困憊しました。もう子供はいなくてもいい、2人だけで生きていけばいい、とあきらめかけたところで縁があり、生後1週間の娘を引き取って育てることになりました。

     

    国際養子でしたので養子縁組手続きだけでなく、パスポートを作るところから始め、カンボジアとシンガポールの法律で定められている諸手続きやアセスメントなどを1年近くかけてクリアしていきましたが、二人とも日本で仕事を続けながらの作業でしたので、いろいろな事務手続きの壁や感情的な波にぶつかりました。それでも何とか乗り越えて正式に養子縁組が成立し、これまで8年近く子供の成長を見守ることができたのは、ひとえに子ども自身の生きようとするパワーを私たち夫婦のみならず、周囲のすべての人たちが浴び続けてきたからではないかと思うのです。

     

    自分で産むにせよ、養子を迎えるにせよ、わが子と出会うことは「奇跡」なのだと思います。取材を通して、多くの特別養子縁組の現場に立ち会ううち、特別養子縁組とは、そんな奇跡を生み出すしくみなのだと感じるようになりました。子どもとの出会い方が出産とは違っても、子育てにともなう不安や葛藤、それが吹き飛ぶほどの喜びや楽しさは、あったく変わりません。特別養子縁組がなければ出会うことのなかった夫婦と子どもが、ごく自然に「親子」となる姿が、そこにあるのです。

     

    著者の後藤絵里さんには、ライフワークとなった「養子」というテーマを彼女が追いかけ始めたころから折に触れて話を聞いてきましたが、自らも子育てと記者/編集者としての仕事に忙殺されながらも、粘り強くこのテーマに取り組んできた背景には、やはり、乳児院や児童養護施設に預けられたまま「家族」の生活を知らずに成長していく子供たちの不幸や、子供を強く望んで辛い不妊治療に耐えても子宝に恵まれなかった多くの夫婦の絶望を解決したい、という強い使命感とともに、子供の生命力に対する純粋な驚嘆の念があったのだと思います。

     

    ところが、里親に登録してからが長い道のりでした乳児院や移動養護施設にどれだけたくさんの子どもがいても、生みの親の承諾がとれて、特別養子縁組の対象になる子どもは、管轄の児童相談所で年間数人だというのです。乳児院での研修では、一緒に遊んだ子どもたちから別れ際に「帰らないで」と袖を引っ張られ、後ろ髪を引かれる思いがしました。「こんなに親を必要としている子どもがいるのに……」と思うと、泣けて仕方ありませんでした。

     

    いっぽう、このように、子や養親を、親は養子を望んでいるのに生みの親の親権が強いためになかなかマッチングがうまくいかないケースも取材されています(このご夫婦も最終的には養子縁組ができたのですが)。私たち夫婦も娘の生みの母親と実際に対面しているため、自分が生んだ子どもを手放したくないという気持ちは痛いほどよくわかりましたが、それでも子どもの成長のためには施設より家庭のほうがいいことは間違いありません。

     

    厚労省の調査では、2015年時点で、移動養護施設で4年以上暮らしている子どもは全体の5割、8年以上暮らす子も2割以上いました。また、福岡市の児童相談所が2015年に独自に調べたところ、9年以上施設で暮らす子の半数が、乳児院からそのまま施設に移行した子どもたちだったそうです。

     

    施設に預けられっぱなしになっている子たちの中から、運よく生みの親の了解をもらって養親が引き取っても、手続き中に生みの親が心変わりして子供が施設に戻ってしまったり、長期間にわたり養子縁組に同意しなかったりでつらい思いをする養親の話も登場します。

     

    特別養子縁組が成立するまでの7年間、クミちゃんは夫婦の「普通養子」でもなく「里子」でもない、単なる「同居人」でした幸いにもクミちゃんは健康な子で、大きな病気もしませんでしたが、大きなけがや病気で手術が必要な場合は、親権者の承諾が必要になります。承諾がなければ、パスポートもとれません。「親権とは本当に大きなものです。私たちは法の狭間で7年も宙ぶらりんの状態でした。子どものための法律のはずなのに、法律をつくり運用する人たちは、何を見てきたのかと思います」

     

    我が家でも最初に養子にするはずだった1歳の女の子は、夫が会いに行った直後に生みの親の心変わりがあり、養子縁組が実現しませんでした。私は会ったこともないにもかかわらずそれなりにショックを受けたことを考えると、7年もいつ連れ去られるかわからないという不安に耐えたこの養親さんの心労は想像に余りあります。

     

    この本の中では、このように実際に養子縁組をした方々のケーススタディーとともに、現在の養子縁組の状況、具体的な手続きの方法から、さまざまな支援団体の方々の話まで、特別養子縁組に関わるさまざまな情報が詳細に取材されています。

     

    私たちがシンガポールで養子縁組手続きを行ったときも、煩雑ではありますがほとんどの情報がウェブ上で公開されていて困りませんでした。逆に、当初日本で手続きを行おうとしたときにはまったく情報がなく、法務局に電話したり、行政書士さんに意見を聞いたりしましたが、手続きの全容がつかめず、ほぼお手上げの状態でした。

     

    本書では、具体的な法的手順や民間の養子縁組推進団体などの資料も併せて紹介されており、これから養子縁組を考える人たちには大きな助けになると思います。

     

    いっぽう、養子縁組と不妊治療の問題は本書のもう一つの大きなテーマです。

     

    昨年から不妊治療への助成制度が変更になり、43歳以降の不妊治療への助成が打ち切られました。「43歳になったらもう無理して不妊治療をしなくてもいい」というメッセージにもなりますが、それまでずっと不妊治療を続けてこられた夫婦にとっては「もう産むことが難しい年齢」であるという厳しい事実を改めて突き詰められることになります。その意味で、著者が推奨する「不妊治療」と並行して「養子縁組」も視野に入れていくことが必要ではないでしょうか。

     

    初対面の人に「うちの娘、養子なんですよ」といったとき、「お宅もですか、うちもなんですよ」と返され、子育ての楽しさやグチの四方山話に花が咲くような社会が早く実現することを、著者ともども私も願っています。

    | 後藤百合子 | 書評 | 13:59 | - | - |
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