ASIAN NOMAD LIFE

日本、香港、中国で生活・仕事をしてきてシンガポール在住8年目。
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「天命」を信じる首相夫妻をもった日本がすべきこと
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    大阪学校用地売却に関するスキャンダルで渦中の人となった安倍首相。

     

    政界のサラブレットでありながら、明らかにこれまでの日本の政治とは違う手法で政治を動かしており、そのバックグラウンドを知りたいと一心で話題の『安倍三代』(青木理著)を読みました。

     

    ■「凡庸なお坊ちゃま」が最強の政治家に変容した理由

    本書の中で、著者の青木氏は安倍首相の祖父寛氏、父晋太郎氏と晋三首相が決定的に違う点の一つに、選挙基盤である山口の選挙区で育っていない、ということを挙げています。祖父は村長を務め人望を一身に集めた地元の名士、父は二代目でありながらも若くして両親を失い、天涯孤独で地盤を再構築した苦労人、それに比べて三代目の晋三首相は東京で育ち、母方の祖父岸元首相の寵愛を受けてぬくぬくと育った「凡庸なお坊ちゃま」と切り捨てているのです。

     

    しかし、一面、晋太郎氏がそうであったという証言が語るように、晋三首相もお坊ちゃま育ちであるとはいえ、苦労人の父の薫陶を受け、非常にバランスのとれた、誰からも「憎まれない」政治感覚に優れて政界をわたってきた結果、今日の地位を得たのではないかと示唆されます。

     

    反面、「凡庸なお坊ちゃま」と評される人物がなぜ、無謀とも思えるアベノミクスのいくつかの経済政策実施に踏み切ったり、長く憲法違反とされてきた集団的自衛権を認める安保法案、特定秘密保護法案等を半ば強引に次々と可決していったりと、非常に強権的な政治家になっていったのかが描き切れていない、という意味で、少なからぬ人が物足りなさを感じているようであり、私も判然としない気持ちをもちました。

     

    ■「宗教」と「純粋さ」がキーワードの安倍夫妻

    いっぽう、今回のスキャンダル以前から、昭恵夫人の言動や行動は「奔放な」とか「型破りな」といった形容詞つきでよく取り上げられていましたが、安倍首相の「妻は私人」閣議決定や、国会での答弁を見ている限り、保身のためというより(むしろそれが野党の攻撃材料になったりしているので逆効果になっていますが)たいへんに妻を思いやり、どこまでも庇う姿が印象的です。また、2人が並ぶ映像や写真をみても、いつもとても仲睦まじく、傍からみていても微笑ましいほど良い夫婦関係を築かれていることがわかります。

     

    昭恵夫人には「来世でもまた夫(安倍首相)と結婚したいと思った」という発言もあるそうですが、それよりも気になるのは、本書でも触れられている彼女のスピリチュアルなものへの傾倒です。

     

    「天命だということは、本人も自覚していると思います。(中略)周りに努力している政治家はごまんといて、自分より頭のいい政治家がたくさんいるのも主人はわかっています。でも、主人がいま総理大臣になっているということは、やはりなにか、主人が成し遂げなければいけないものがあり、そのための使命を与えられていると、感じていると思います」

    失礼ながらスピリチュアルというかオカルトというか、政治の3代世襲というものを昭恵なりに表現すればそういうことになるのだろうが、もともと深遠で強固な政治思想があるわけでもない晋三とは、そういう意味では波長が合うのかもしれないと私は思った。

    『安倍三代』より

     

    今回のスキャンダルでは幼稚園園長夫人とのメールのやり取りで「神様」や「祈ります」という言葉がたびたび出てきて驚かれた方も多いと思いますが、Blogosの社会学者西田亮介氏との対談では

     

    新しいイノベーションが生まれているし、可能性として、日本はとてもポテンシャルが高いと私は思っています。その日本の精神性が世界をリードしていかないと「地球が終わる」って、本当に信じているんです。

     

    とまで言い切っています。この中で、安倍首相自身も毎晩、大きな声で祈りを唱えているという話をされており、夫婦ともにどちらかといえば「宗教的な」「純粋な」「善意の」人であるのではないかとうかがわれるのです。

     

    ■安倍首相の「美しい国」とは?

    このような安倍首相の傾向は、「美しい国」という概念にもつながります。

     

    ただ、本書の中でも繰り返し安倍首相の恩師たちが述べているように、それを支えるべき論理があまりにも貧弱で空虚です(昭恵さんは説明を求められると「直観です」という答えを繰り返しますが、さすがに首相はそういうわけにもいきませんので一応の理屈はつけようとします)。

     

    例えば、アベノミクスの巨額国際発行(+日銀買い取り)政策について「1万円札を刷ると20円がコストで9,980円が政府の利益になる」というような理屈を本気で信じているかのような発言を聞くに及び、本当に安倍首相が実現したいのは、現在日本に起こっている待ったなしの危機を克服するための現実的な諸政策の実現ではなく、昭恵夫人と同様に「日本の精神性が世界をリードする」曖昧でぼんやりした「美しい日本」なのではないかと思わざるを得ません。

     

    本書では地元で安倍三代を代々支援してきた方々の取材を広範囲にされていますが、安倍首相の祖父や父が「地元民の代表」として期待を一身に集めたのに比べ、三代目の安倍首相については、首相という最高権力に登りつめた地元の誉であってもおかしくないはずなのに、冷めた目で見ており批判的です。

     

    その理由の一つに、首相も首相夫人も東京育ちで選挙地盤の山口に実体験に基づいた愛着をもてず、それを地元の支援者たちも感じているという、動かしがたい事実があると思います。

     

    それを象徴するのが、安倍首相が「美しい日本」の原風景と賞賛する、山口の山間にも広がる棚田です。

     

    棚田は観光客が見る分には美しいかもしれませんが、実際には他に耕作地がないため仕方なく開墾された土地であり、首相自身も認めているように農業生産性向上、ひいては農業を生業とする人々の生活の向上に資するものではありません。にもかかわらず安倍政権下では、「美しい農村再生事業」として多額の税金が投入されています。このような政治感覚について地元選挙区の方々は「しょせん東京の人が考えること」と見ているような気がしてなりません。

     

    また、もう一つ恐らく夫妻にとってインパクトが大きかったのではと思われるのが、子供ができなかったことです。

     

    安倍 そうですね。もう、ずいぶん前のことですので遠い記憶ではあるのですが……。やはり言われることはありましたね。自分の親や主人の母といった近しい人からは何も言われませんでしたが、後援者の方々からは年がら年中、言われていました。

    酒井 かなり直接的な感じでおっしゃるのでしょうか?

    安倍 普段の生活の中では、「まだですか?」くらいの感じなんですが、酔っぱらったりすると「安倍家の嫁として失格だ」とか、「非国民!」などと言われることもあって……。「それはちょっと、どうなのだろう」と思うこともありましたね。

    https://www.bookbang.jp/review/article/509688

     

    天真爛漫でお嬢様育ちの昭恵夫人も、気を張る選挙で地元に帰る度にこのようなプレッシャーに晒されていたことにより、夫婦の絆は深まったかもしれませんが、一方で何かに救いを求める気持ちも働いたでしょう。

     

    このような支援者たちとの微妙な感情のすれ違いの積み重ねによって、祖父や父とは別の何かに政治的レーゾンデトールを求め、その結果として現在のような安倍夫妻の思想的バックボーンが形成されていったのではないかと思うのです。

     

    ■国のグランドデザインを国会と国民全体がもう一度シビアに議論すべき

    繰り返しになりますが、私は安倍首相も昭恵夫人も、純粋に善意の方々であり、日本の将来を明るいものにしたい、国民が幸せな良い国にしたいという気持ちは市井の人々以上に強いと思っています(もちろん、そういう方々だから首相夫妻になったわけだと思いますが)。

     

    しかし、いっぽうで、私たちには精神主義だけを信じて愚かな戦争に突き進んでしまったという忘れてはならない過去もあります。

     

    愚かな戦争に一貫して反対し、その過ちを繰り返さないようにと、敗戦後70年間の日本の平和を築いてきたのが、安倍一代、安倍二代であり、現在も、与野党を問わず、そのような政治家が消えてしまったわけではないはずです。

     

    長期政権になる可能性が高い安倍政権が「純粋に」「天命を」果たすために祈る首相が率いる内閣であるのならば、その内閣が真にこれからの日本に資する政策を実現していけるよう、徒に政争に明け暮れるのではなく、政策を一つひとつきっちり国会で論議して決議していくことこそ、現在の日本が改めて真剣に取り組まなければならないことであり、国民もまた議論しつつ立法府に要求していかなくてはならないこととだと思います。

    | 後藤百合子 | 書評 | 09:17 | - | - |
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