ASIAN NOMAD LIFE

日本、香港、中国で生活・仕事をしてきてシンガポール在住7年目。
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「やり抜く力(グリット)」に関する考察(後編)〜「やり抜く」薬をみんな飲んだなら
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    JUGEMテーマ:幸せなお金と時間の使い方

     

    <前編>はこちら

     

     

    ■「やり抜く力」は脳の機能の働きで決まる?

    「やり抜く力」はどこから出てくるのか、という疑問を再認識させてくれたのが、最近読んだこの本です。

     

    ADHDとアスペルガー両方の発達障害をもち、漫画家、作家、コメンテーター、歌手とマルチに活躍するさかもと未明さんと主治医の共著であるこの本では、さかもとさんがこれまで辿ってこられた人生の成功と挫折を語り、それを主治医の星野医師が医学的に解説する、という形をとっています。

     

    さかもとさんは、まったく勉強しないのに小学校で転校してから中学卒業までは100点しか取ったことがない、という非常に高い知能を生まれつきもった方で、教科書などを映像的にすべて記憶してしまう、教室にいる全員の話していることがすべ耳に入ってしまう、といった自閉症に時折みられるサヴァン症候群の傾向も併せもっています。

     

    「空気が読めず人とのコミュニケーションが苦手」「自分のこだわりにとことんこだわる」というアスペルガー症候群に特徴的な性向と人並み外れた集中力で、漫画家、作家、歌手、ホステス、画家と短期間にプロとして成功するにもかかわらず、一定期間がたつと次の興味対象にすっかり夢中になってしまうのは、多動傾向のADHDの特徴といっていいでしょう。

     

    しかし、さかもとさんは何事にものめり込みすぎる過集中と、周囲の人々とのコミュニケーションが円滑にできないために鬱状態やアルコール依存となり、不治の難病である膠原病を患ってしまいます。その中で救いを求めたのが星野医師との出会いでした。

     

    ■「やる気」を引き出すドーパミン促進剤メチルフェニデート

    星野医師の処方により、さかもとさんはメチルフェニデートという成分が入ったコンサータという薬を服用します。すると、「薬を出していただく前は一日四時間くらいしか起きていられなくて、体が動かなかった。薬を飲んだとたん、体がラクになって元気に動くようになり、意識もはっきりしてきた。脳内の物質がこんなにも体を支配しているなんて、びっくりしました」というほど劇的に症状が改善します。

     

    メチルフェニデートという成分は神経伝達物質ドーパミンの働きを促進する効果をもち、「やる気」や「幸福感」を誘引します。逆にドーパミンが不足するとやる気がなくなったり、無気力になったり、抑うつ状態も引き起こすそうです。

     

    自然にドーパミンを増やすには運動や瞑想などが効果的と言われますが、ドーパミンを持続させる作用で最も効き目が劇的なのは覚せい剤やコカインなどの麻薬だそうです。

     

    実際、メチルフェニデートの一種であるリタリンという薬は、「合法ドラッグ」として使用する人が増えてしまったため、現在は厳しい規制の対象になっています。

     

    覚せい剤が戦時下の日本で特攻隊員に与えられたのは有名な話ですし、コカインはハリウッドスターやウォールストリートのビジネスマンなど、強いプレッシャーに晒される職業の人に常用されることが多いようです。彼らはもともと「やり抜く力」が強かったためにスターや一流のビジネスマンになったのだと思いますが、その集中力ややり抜く力を維持して成功し続けるため、「情熱」や「たゆまぬ努力」を人工的に再現できる麻薬に溺れてしまうのではないでしょうか?

     

    逆に言えば、「やり抜く力」を人生の全期間において維持し続けるのは、大変困難なことと言えるのだと思います。

     

    ■なろうとして、なれない時

    尼崎連続変死事件は、殺人や行方不明など10数人に及ぶ被害者を出した恐ろしい事件でしたが、この本によれば、主犯の故角田容疑者は長年にわたり覚せい剤を常用していたといいます。

     

    角田容疑者が亡くなってしまった現在では、何のために彼女がこのような事をしたのか、どうしてここまで非道な犯罪を続けられたのか、答えられる人はいません。しかし、この事件はある意味、麻薬によって人工的に作り出された「やり抜く力」が強すぎるまま継続すると、通常の人間の想像力を超えた、恐ろしい領域に入ってしまう可能性があるということを示唆しているのではないかと思います。

     

    私が尊敬する上林順一郎牧師(現日本キリスト教団江古田教会牧師)の著作に、『なろうとして、なれない時』という説教集があります。

     

    この本で上林牧師は、どんなにしなくてはいけない、ならなくてはいけない、と思っても、願っても、できない時がある。人間は不完全で弱い存在であるけれど、神様はその、ありのままのあなたを受け入れてくれる、と繰り返し語ります。

     

    「やり抜く力」は確かに大切には違いありません。

     

    しかし、やり抜きたいと思ってもできない、情熱や努力が続かない、といつも嘆いて自己嫌悪に陥ったり、最悪の場合は麻薬にすがってしまったら、自分自身を滅ぼすばかりか、最愛の人たちまで傷つけることになります。

     

    やり抜けないとき、情熱がもてないとき、努力できないとき、そういうときこそ、「人間だから」と開き直り、次にできるようになるまで自分自身を甘やかし、励ましていく力もまた、私たちの人生にとって「成功」以上に大切なものではないでしょうか。

     

    | 後藤百合子 | グローバルビジネスと人材 | 12:37 | - | - |
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