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    映画評『ペルセポリス』:もしも今、宗教革命が起きたら。
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      JUGEMテーマ:政治

       

      シンガポールでは今週末まで仏大使館主催によるフランス文化振興フェスティバル「Voilah!」開催中。エスプリの国フランスだけあって気のきいた催しが目白押しなので、毎年楽しみにしています。

       

      今年はフランスのアニメ映画数本が上映されたので、そのうち2本を観てきました。1本目は娘と一緒に楽しんだ『パリの猫』という映画。そして2本目が今回ご紹介する『ペルセポリス』です。

       

      『ペルセポリス』はイラン革命勃発のちょうど10年前、1969年生まれのコミック作家、マルジャン・サトラピによるフランス語による自伝コミックを映画化したもの。

       

      前国王から続いた王政下、お酒や西洋文化の流入はあり、ヒジャブはなしの自由な生活を謳歌していたイラン人の一般庶民たちが、革命をきっかけにイスラム原理主義に生活をすべてコントロールされていく様子が描かれます。

       

      主人公マルジはブルース・リーが大好きな活発な小学生。インテリらしき両親と筋金入りの進歩主義者の祖母の元伸び伸びと育ちますが、革命を境に生活は激変。前体制で共産主義者として投獄されていた大好きな叔父が解放されて喜んだのも束の間、獄死。

       

      また、女性はすべてヒジャブ&体のラインを隠す衣服が義務づけられ、お酒はもちろんご法度。男女交際や欧米文化もすべて禁止されます。そしてイラン・イラク戦争が勃発。テヘランの街は爆撃に晒され、数十万人の若者や市民が死んでいきます。

       

      型にはまらない発想と信念を曲げない頑固さを併せ持つマルジは体制や戦争に疑問をもって教師や宗教警察にマークされるようになり、心配した両親はマルジをオーストリアに留学させることに。

       

      しかし、そこでもイラン人という自分のアイデンティティを消化できないマルジは行き場を失くしていったん帰国。テヘランの大学に入学するもやはり自分の居場所をみつけることができず、再度フランスにわたって新たな人生を始める、というところでお話は終わります。

       

      アニメーションは最初と最後を除き、ほぼ全編がモノクロで描かれます。これは人種や国の違いに関わらず、こんな状況に人々が追いやられる可能性がいつもある、ということを知ってほしかったためだといいます。この作者(兼監督)の希望通り、ペルセポリスのコミック単行本は世界各国で出版されて累計150万部の大ヒット作となり、映画は2008年のアカデミー賞候補にもなりました。

       

      パンク音楽が大好きで、ピュアな恋愛に憧れるちょっと反抗的で理屈っぽいけれどいたって普通な思春期の少女のマルジの姿は、まるで私自身の子ども時代を見ているようで、もしも自分が日本でなくイランで彼女のように育ったらどうなっていただろう、と本気で考えてしました。

       

      もう一つ、映画の中で最も印象に残ったのは、困難の中で奮闘するマルジを温かく見守る祖母の存在。

       

      結婚したものの夫婦仲がうまくいかず悩むマルジを「1回目の結婚なんてただの練習。分かれてからのほうが本番よ」と誰も離婚などしなかった時代に離婚した過去を話して励まし、夫や息子が投獄された話を淡々と語るいっぽう、宗教警察に隠れて密造酒を作って販売したりとしたたかな面も見せてくれます。

       

      マルジが自分の身を守るためにまったく関係ない見知らぬ人を悪者に仕立て上げ、宗教警察に通報したという話を聞いた時には激昂し、「人生で一番大切なのはインテグリティ。そんなことをするなんて恥を知れ!」と叱り飛ばし、マルジが一人で異国に旅立つ前の晩には一緒に寝て「これから人からひどい扱いを受けることもたくさんあるだろうけれど、そんな人たちに関わっていてはだめ。自分のことだけを考えなさい」とやさしく諭します。

       

      映画の中でたびたび描かれるジャスミンの花のモチーフはこの祖母の象徴であり、たとえ傍にいなくても常に祖母が守ってくれているという安心感がマルジの心の支えでもあるのです。

       

      ヨーロッパに残ることを決意したマルジはこの作品により成功を収めて初心を貫きますが、イラン政府が上映を決定した映画祭に抗議するなど、作者にとっても決して問題のすべてが解決した、というわけではありません。

       

      しかし、2016年のオバマ大統領による米イランの核合意により、現在のイランの政治状況は体制派と開放派の勢力がせめぎ合っています。その中で、ヒジャブを脱ぎ捨てる女性の写真が海外メディアのニュースに掲載され、イラン庶民の生活も変わりつつあることが推察されます。

       

      戦争や政治状況によって私たち庶民の生活はいとも簡単に大きく変えられてしまいますが、そんな中でも「インテグリティ」を保ち、常に正しいと信じることを勇気をもって行い続けることこそが最終的には絶対に変わらないと思われる政治の変化にもつながるのだ、ということをこの作品が教えてくれるような気がします。

      | Yuriko Goto | グローバル社会と宗教 | 19:19 | - | - |
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