ASIAN NOMAD LIFE

日本、香港、中国で生活・仕事をしてきてシンガポール在住7年目。
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「最初から辞めるつもり」で働いてみる。-- リクルート38歳定年制が生み出したもの
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    ■バブル時代のリクルート社の現場にみなぎっていた熱気
    ブロガーのイケダヤハトさんが「ワークライフバランスを気にする人は超一流になれない」という記事を書いていらっしゃいます。記事の内容は、「ある分野で超一流になりたかったら一定期間、他のことは何も考えずにそのことだけにうちこむ時間が必要」というもので、少なくとも10年くらいの時間がかかると述べています。

    これを読んで思わず、以前私が外注で仕事をさせていただいていた25年ほど前、バブル期のリクルート社を思い出しました。

    当時、ほとんど夕方6時以降の指定だった打ち合わせにオフィスに赴くと、営業職の人たちが続々と外回りから帰ってきます。そのうち「わーっ」という声とともにあちこちで大きな拍手が起こり、そちらを振り向くと天井に吊るされたくす玉が割れて「目標達成おめでとう!」の文字が書かれた紙が垂れ下がり、紙吹雪が盛大にあたりに舞っている。当時のリクルート社では日常的に目にする光景でしたが、「まるで高校の学園祭のようだなー」と感じたのをよく覚えています。この後、そこにいた社員のほとんどが深夜まで残業をしていたのは言うまでもありません。

    ■リクルート社の「限りなくブラックに近い」メソッドの数々
    この他にもリクルート社には独自の文化がいくつもありました。それは特に新人教育に特徴的です。

    まずトレーニングの最初の難関である数週間にわたる電話営業。受話器をガムテープで手にくくりつけ、食事のときもトイレに行くときも決して受話器を離させません。この期間、新人には電話をかけること以外いっさい許されなかったそうです。最初は非常につらいこの訓練も、終わることには電話営業への恐怖心(怒鳴られることやすぐに切られることも含め)がなくなり、お客様へのとっさの対応も格段に上達します。

    営業の実施訓練では「ビル倒し」というメソッドがありました。これは、オフィスビルの最上階からビル内にあるすべての会社に飛び込み訪問してセールスを行うものです。私自身もたまに行いますが、少し前にシンガポールで就職活動をしていた若い女性にこの「ビル倒し」を紹介したところ、彼女は行きたい業界の企業が集まっている地域で実施し、(求人していなかったにもかかわらず)みごと希望の会社の仕事をゲットしました。採用してくれた会社のトップからは「君のような野武士の志をもった人材を探していた!」と絶賛されたそうです。

    極めつけは38歳定年制です。38歳で絶対に辞めなければいけないわけではありませんが、この年齢までに退職すると退職金が最大になり、それを元手に起業や転職しやすくなる、という一面もあったようです。リクルート社出身の企業家や起業家の数が非常に多いのはよく知られています。

    最初にお話しした日常的な長時間残業をはじめとして、このようなリクルート社の文化は現在だったらパワハラも含め「ブラック企業」の代名詞のように聞こえるのではないでしょうか? しかし私の目には、ほとんどの社員は嬉々として過酷な業務に勤しみ、誇りをもって仕事をしているように映りました。まるで学園祭のようだ、と私が感じたように、大部分が20代だった当時のリクルート社の社員たちにとっても、この頃の記憶はきっと全力を出し切ってぎりぎりまで頑張った大切な人生の思い出となっているのではないかと想像するのです。

    ■日本だけではない、大手一流企業若手社員の仕事漬け人生
    10/16付のロイター配信の記事によると、フェイスブック社とアップル社が女性社員に対し卵子凍結を推奨する方針を打ち出しました。これは「仕事にうちこみたい」女性が産み時を逃してしまっても大丈夫なように、という措置でアップル社は1人あたり卵子凍結と維持に必要な2万ドルを提供。その他に養子を受け入れる社員のための費用負担や育休の延長も発表しています。フェイスブック社は卵子凍結補助制度のほか、男女ともに4か月の有給の育休に加え、4千ドルの出産祝い金も支払うそうです。

    このようなシリコンバレーの大手企業の支援措置から透けて見えるのは、男性か女性かを問わず能力が高く「超一流をめざす」人たちには「仕事が一番できる20代から30代前半にかけては仕事に専念してもらい、能力に翳りがみえてきたら家庭でもなんでも作って勝手にしてね。そのためには多少の補助もするから」という、少々利己的な考え方のようにみえます。

    日本の大手商社など一流企業でも、20代〜30代にかけては転勤につぐ転勤と長時間勤務で社員を酷使し、50代ともなれば(早い人は40代半ばくらいから)関連子会社への出向、転籍が当たり前。妻は高学歴でも夫の転勤のために仕事を辞めざるをえず、家庭は母子家庭状態、などという例は枚挙にいとまがありません。

    それに比べればリクルート社のようにはっきりと38歳と区切り、そこを転換点として自分の人生をいやでも考えさせるシステムは、独創的というだけでなく、非常に社員のことを考えた制度ではなかったかと思うのです(現在は少し変わっているようですが)。

    ■アドレナリン放出状態で仕事ができるのは最高15年
    中野円佳さんの『「育休世代のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか?』では、有名大学を卒業、総合職として大企業や有名企業に就職し、20代で結婚・出産を経て仕事と家庭の両立を模索する女性たち15人を調査・分析しています。その中でも特に興味深かったのは、「卒業後、数年間は悔いが残らないよう思い切り仕事だけをして、出産してから育児と両立できる仕事に転職する」と最初から明確なプランをたてて就職している人がいたことです。

    イケダさんは寝食も忘れて一つのことに没頭し、超一流になるには、最低10年かかるといいますが、こんな状態はおそらく最高でも15年以上は続かないのではないでしょうか? 体力があり、アドレナリンが放出されまくっている興奮状態を続けられる若い頃ならいざ知らず、30代後半から40代にかけてもそれを続けていけば間違いなく健康を害します。だからこそリクルート社は38歳定年を推奨したのでしょうし、イチロー選手のようにストイックに自分自身のコンディションを律し、限界を超えて活躍するスポーツ選手は世界中から驚嘆と尊敬で迎えられるのだと思います。

    そのことを意識せずに会社が求めるままに無理をして健康を害したり、過労死したりしてしまった方々を身近で見てきただけに、若い方々にこそ、ぜひこの点を意識してほしいと思うのです。

    ■最初から辞めるつもりで働いてもいい
    男女を問わず、仕事で大きな実績を残したい、という明確な目標があるのであれば、そのような企業で、期間を最初から決めて、のめりこむように仕事をし、満足のいく結果が出たら潔く退職し、その経験を活かして次のキャリア・ステップを歩み出し、マイペースで仕事とプライベートを両立させる、というライフコースがあってもいいように思います。

    家庭と仕事を両立させたい女性の多くはすでに熟考していることなのかもしれませんが、イケダハヤトさん自身が実践しているように、男性にも「仕事のみが自分の人生の中心と考えない、こんな人生のコースがあるのだよ」と気づく人がもっともっと増えていくと日本社会もずいぶん変わっていくのではないかと思います。
    | 後藤百合子 | 転職 | 18:33 | - | - |
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