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大韓航空ナッツ事件にみる社員と経営者のあるべき関係について
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    ■チョ前副社長はただのドラ娘だったのか?
    24日、ナッツ・リターン事件の大韓航空チョ・ヒョン・ア前副社長に逮捕状が請求されました。

    事件の詳細については情報が氾濫しており、国際的にも大きなニュースになっています。その中で、シンガポール紙The Straits Timesに興味深い記事が署名入りで掲載されていました。これまでチョ前副社長は単なる大金持ちの甘やかされたドラ娘のように報道されてきましたが、この記事によると実際にはなかなかの実力派経営者だったようです。

    3人兄弟の長女であるチョ前副社長は1999年に大韓航空に入社。機内のインテリアや制服、機内誌、機内食、サービスなどの大胆な改革に取り組んできました。特に顕著な改善を遂げたのが機内免税品販売で2005年には売上が1億5千800万米ドルとなり、当時としては世界最高額。今年度はさらに高い1億9千万米ドルを予定しているほか、商品の高級化にも力を入れており、超高級スキンケアブランド、ドゥ・ラ・メール導入の際には3年を費やして相手ブランドを説得したといいます。

    また「アジア最高のファーストクラスエアライン」賞に4年連続選ばれるなど、数々の賞を受賞してきた実績があり、本業以外でも韓国でのハイアットホテルチェーングループを含む大韓航空グループのホテル事業責任者をつとめ、シンガポールのナンヤン・ビジネススクールの顧問にも着任するなど、彼女がただのお飾りではなく、若干40歳にして自他ともに認める実績をあげてきた経営者であることがわかります。

    この記事の筆者は「明らかにアルコールの影響と思われる馬鹿げた行為のために、これまでの彼女のすべてのハードワークが帳消しになり、大韓航空のイメージダウンを招いたのは悲しむべきである」と結んでいます。

    ■「マニュアルを見せなさい!」の言葉が出てきた背景
    報道では、チョ前副社長はナッツが袋で出されたことについて、執拗にマニュアルを見せるように乗務員に迫ったとされています。なぜ彼女はそこまでマニュアルにこだわったのでしょうか? ここからは私の想像ですが、彼女がそれだけの業績をあげてきた背景には、社員と相当な確執があったのではないかと思います。

    私の記憶では、1980年代から1990年代にかけての大韓航空は、貧乏バックパッカーが必ずお世話になっていた、今でいうLCCのようなイメージの航空会社でした。チョ前副社長が大韓航空に入社した1999年は、1997年から1998年にかけてのアジア通貨危機の直後であり、韓国経済はまだIMF支配下にありました。同年には韓国で2番目の財閥であった大宇グループが解体されています。日本のバブル崩壊後と同様「大企業だから安泰」という時代ではなくなっていたのです。

    そんな自国の経済状況にあって、世界中から富裕層の子弟が集まることで有名なアメリカの南カリフォルニア大学ビジネススクールを卒業してきた彼女が「このままではいけない。会社を改革しなければ」という強い危機感を抱いたことは想像に難くありません。初産が39歳とかなり高齢なことからみても、これまでの15年あまり、私生活も顧みず猛烈な勢いで仕事に打込んできたのではないかと思われるのです。

    問題はそんな彼女と社員との関係です。

    「改革」というと外部への聞こえはいいですが、実際に組織の内部にいる人々からは決して歓迎されません。まして儒教文化が根強く残る韓国のことです。まだ30代前半の社長の娘がいくら改革を声高に叫ぼうと、国内航空会社トップのプライドの高い社員たちにはなかなか響かなかったのではないでしょうか。

    しかし逆境にもめげず、チョ前副社長は全力をあげて改革に取り組み、業績を上げてきました。その彼女の努力の象徴が「マニュアル」だったのではないかと思います。面従腹背の社員たちに囲まれる中、彼女にとってはマニュアルに従って業務を行っているかどうかだけが実際に改革が進んでいるかどうかを測る指標であったのではないかと私には思えるのです。

    ■経営環境が悪くなると必ず不満が噴出する
    チョ前副社長の努力と韓国経済の躍進に伴い、通貨危機で落ち込んでいた大韓航空の業績は徐々に回復していきます。2007年には1998年の底値と比べて株価が26倍にもなり、いったんリーマンショックで落ち込むものの2010年には再び最高値をつけます。

    しかし、ここにきて韓国経済の低迷により大韓航空もまた業績は低空飛行を続けており、株価も急落しています。低迷しているのは本体だけでなく、グループの海運会社赤字穴埋めのために今年、大規模なリストラも行っています。このような経営環境下で社員たちの不満がくすぶっていたのは当然でしょう。政治も同じですが、景気がよく、給料もボーナスも上がっているときには多少不満があっても皆あまり口にしないものです。が、いったん景気が悪くなるとたとえリストラされなくとも、いろいろなストレスが会社や経営者に不平不満となって向かうものなのです。

    しかし、いくら経営者とはいえ、明らかに理不尽なことを言い、違法な要求を突きつけてきたチョ前副社長に対し、なぜ機長をはじめ乗務員がまともな進言をせず、まして後々問題となることがわかりきっている命令に唯々諾々と従ったのでしょうか? 特に機長は法律上は前副社長に勝る権限をもっていたはずの人物であり、うがった見方をすれば後の顛末もすべて予測したうえでわざとゲートに戻ったのではないかとまで思えてしまいます(パイロットは世界的に不足しており、万が一解雇されても再就職は難しくありません)。単に「独裁的な経営者には逆らえない」という以上の社員の不信感を感じたのは私だけではないと思います。

    ■会社に不祥事が起これば経営者が叩かれるだけでなく社員も損をする
    今回のチョ前副社長の言動や行動は明らかに違法であり、社会的にも許されるものではありません。しかし同時に、酔っ払って無理難題をふっかけてきた前副社長と社員である乗務員との間に、もしも日頃から信頼関係が築けていたならば、そもそもそこまで彼女は怒り狂わなかったのではないか、もしくは乗務員がうまく彼女をなだめてその場をおさめることも可能だったのではないかと思います。残念ながら、彼女と乗務員との間にそんな信頼関係はありませんでした。

    今回の事件の影響は副社長にとどまらず、大韓航空全体に波及すると思われます。日頃から不満をためこんでいた社員たちも、経営陣が面目を失った瞬間こそ快哉を叫ぶかもしれませんが、結局、最終的には同じように被害を被ることになります。実際、この事件以降、大韓航空株は5%近く下がり、競争相手のアシアナ株は5%以上上がっています。今後しばらくの間は、乗客数も激減するのではないでしょうか。場合によってはさらなるリストラも行われるかもしれません。

    ■日頃からの信頼関係構築こそ求められる
    私自身も過去に継続の危機に瀕していた事業を立て直すために、ありとあらゆる改革を実施していた時期がありました。その最中、一部の社員から「今の社長のやり方にはついていけない。社長が変わらないのだったらみんなで辞める」と直談判されたことがあります。さすがにその時はショックでしたが、今思い返すとあのとき社員にそう言ってもらったことに心から感謝しています。経営者も人間ですから時に間違った判断や行動もしてしまいます。それを身近で見てくれ、正してくれるのは、同じ会社で運命を共にする社員しかいないのです。

    ナンヤン・ビジネススクールのチョ前副社長のプロフィールには「大韓航空に新しい企業アイデンティティを確立するため精力的に働いてきた」と書かれています。しかし、悲しいことに、実際には経営者も社員も、変わりきれていなかったようです。

    社員も経営者も別々の個性をもった人間である限り100%価値観を共有することはできませんが、日頃から忌憚なく意見を述べ合い、価値観のすり合わせをすることにより、信頼関係を築いていくことは可能です。特に経営が軌道にのっていろいろなことがうまくいっているときことこそ、経営者も社員も、互いに気をひきしめ、いっそうの努力をして意思疎通を図り、誰もが会社の方針について真剣に考えて実行していける社風を意識して創り上げていくことこそが必要なのではないでしょうか。
    | Yuriko Goto | 企業経営 | 18:37 | - | - |
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