ASIAN NOMAD LIFE

日本、香港、中国で生活・仕事をしてきてシンガポール在住8年目。
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シンガポールの言論の自由とは?
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    JUGEMテーマ:シンガポール
    2015年、東南アジアの小国、シンガポールは建国50周年を迎えます。
     
    カウントダウンまでの2時間半、シンガポール国内のコメディアンや人気歌手をはじめ、マレーシアの国民的歌手シティ・ヌハリザや、リー・シェン・ロン首相や文化相まで参加してのショーはトニー・タン大統領のカウントダウンで建国50周年の記念すべき年のスタートを祝いました。
     
    ■シンガポールは「明るい北朝鮮」か?
    シンガポールは「明るい北朝鮮」と揶揄されることもあるほど、建国の父リー・クアン・ユー元首相を中心に50年の歴史を刻んできた国です。現首相リー・シェン・ロン首相は息子。その他の息子や嫁も政府系企業の要職を務めてきました。いわゆる「同族国家経営」です。
     
    また、mdaMedia Development Authority)という政府の検閲機関があり、国民に有害な影響を与える出版物などの検閲・規制を行っています。一昨年からは新たにオンラインのニュースサイトもmdaへの登録を義務付けられ、話題になりました。
     
    実際、20年ほど前になりますが、アメリカのヘッジファンドのシンガポール店に勤務していたオーストラリア人で金融関係の博士号をもつ知人が、シンガポールの金融政策を批判する論文を専門誌に書いたところmdaのチェックにひっかかり、就労ビザを更新できない事態になったため香港に移住したというエピソードも、本人から直接聞いたことがあります。ヘイトスピーチも含め言論の自由が完全に保証されている日本人の私からみたら信じられない思いでした。
     
    実はシンガポールの憲法では「言論と表現の自由」が保証されていますが、あくまでも限定つきです。
     

    Article 14 of the Constitution of the Republic of Singapore, specifically Article 14(1), guarantees to Singapore citizens the rights to freedom of speech and expressionpeaceful assembly without arms, and association. However, the enjoyment of these rights may be restricted by laws imposed by the Parliament of Singapore on the grounds stated in Article 14(2) of the Constitution.
    シンガポール共和国憲法14条は1)シンガポール国民に言論と表現、武器をもたない平和的集会と会合の権利を保証する。しかし、2)条に表明される理由によりシンガポール議会により執行される法によりこの権利は制限されることがある。 

    この2)条の中には実にさまざまな条項が含まれ、実質的に議会がNoの意思表示をすれば何も認められなくなります。現実に、シンガポールでは日本でよく政治家が行っているような駅前演説や署名活動などを見たことがありません(選挙キャンペーン中の立候補者のキャンペーンは別)。
     
    このような情報から、15年前にシンガポール人の夫と結婚したときも「この国にはあまり住みたくない」ということを言い、夫からひんしゅくを買ったこともありました。
     
    ■政府の政策を皮肉るコメディアンが大人気
    毎週火曜日の夜に放映されている人気コメディ番組、The Noose(絞首台のロープの意)はシンガポール社会を風刺する番組として絶大な人気を誇っており、2007年から続く長寿番組です。登場するコメディアンの数はほんの数人で、低予算で作られているのが明らかにも関わらず、かなり際どいギャグも連発することがあります。また、主要メンバーがやはり国民的コメディアンである女装芸人でゲイのKumarと定期的に行っている舞台では、ユーモアの鎧をまとっているとはいえかなり辛辣な政策批判をすることも珍しくありません。ただ、その批判は決して他人や政治家を揶揄するものではなく、「こういうの困ってるんだから何とかしてよ」というようなニュアンスのことが少なくありません。
     
    同じく人気舞台コメディアンの女性トリオDim Sum dolliesもラスベガスのような豪華な舞台が売りではありますが、やはり根底にあるのは鋭い風刺精神です。
     
    今回のカウントダウン番組でも、The Nooseの看板コメディアン3人と、Dim Sum dollies3人が交代で進行役をつとめ、途中、ときどき辛辣な政治ギャグを飛ばし観客から大いに受けていました。日本でいえば紅白歌合戦のような番組で、進行役のお笑い芸人が「(国民に不人気でなくなってしまった政策を指して)あの時の政策はほんとひどかったよね」と言い、観客が大笑いするというようなものですから、いかにおおらかな雰囲気かおわかりいただけると思います。
     
    ■mdaの審査官は「普通のおばさん」
    以前、私は実はmdaで検閲をする審査官の方々と数回、お会いしたことがあります。昨年まで日本のコミックをシンガポールに輸入する仕事を依頼されて行っていたのですが、シンガポールでは出版物の輸入には必ずmdaの許可が必要なため、許可基準のレクチャーを受けたのです。
     
    許可されない出版物の条件にはいろいろなものがあるのですが、それだけではわかりにくいため、具体的にひとつひとつ「これはどうですか?」と聞いていったものがありますので、少しご紹介します。
     
    <不許可>
    『課長 島耕作シリーズ』 性描写が頻繁に描かれ、主人公が家庭を顧みずに不倫ばかりしている。シンガポール国民の大多数は家族を大切にする価値観をもっており、国民感情に反する。
    『罪に濡れたふたり』 近親相姦のテーマはNG
    『快感フレーズ』 性描写が多すぎて不適当。
     
    <「未成年不適当」のシール付きで許可>
    『進撃の巨人』 残虐シーンが多く、子供向けでない。
    『痛々しいラヴ』 芸術性はわかるが、性描写が多く子供には見せられない。
    『クレヨンしんちゃん』 親を敬わない表現が多く、子供の教育上よくない。
     
    <問題なし>
    『まことちゃん』 この程度のグロテスクはOK
    『無能の人 日の戯れ』 性描写はあるが芸術的なのでOK
    手塚治虫の作品群 20年前はNGなものもあったが、現在はすべて問題なし。
     
    丁寧に対応してくださった担当官の方は、柔らかな物腰と20代女性とその上司の40代女性で、こちらが「これはどうでしょう?」ともっていったコミックや作者はほとんどご存じ。よく勉強されている様子がわかりました(人気コミックは英語や中国語にも翻訳されているものが多いので実際に内容も把握しているものが多いようです)。
     
    その上で、「あなたには理解できないかもしれないけれど、親として子供に読ませたくないもの、自分の判断力がしっかりと確立しないうちは遠ざけておきたいものはこうして規制しておく必要があるのです」とおっしゃったのが印象的でした。私も母親として、ヌードや幼児ポルノ漫画が氾濫している日本の漫画やウエブサイトは決して子供に見せたいと思えません。
     
    巷間で「シンガポールの情報警察」のようなイメージが流布されているmdaの審査官とは、実はこういう普通の人たちなのです。
     
    ■シンガポールは大人が責任をもって作っている国
    日本に9年暮らしたシンガポール人の夫がよく言うのは、「言論の自由はわかる。しかし、無責任に何を言ってもいいというものではない」という言葉です。日本にいるときにはこの意味がよくわかりませんでしたが、シンガポールに暮らして5年目になる現在、夫が何を言いたかったのか少しずつわかるようになってきました。
     
    コメディアンやmdaの審査官のエピソードからもおわかりいただけたかと思うのですが、何かを言うとき、表現するときに「そのことによって何が起こるか」「それにより被害を受けたりダメージを受けたりする人がいないか」をまず考えてものを言う、表現する、ことがシンガポールでは第一に考えられているということです。
     
    言論や表現を自由に行うことは重要である、しかし、それにより社会がよりよい方向に向かっていくのでなければ意味がない、という共通認識をシンガポール国民がもっているからこそ、この国はここまでの50年、バランスのよい発展を遂げてきたのではないかと思います。

    【参考記事】
    貧困家庭サポートNGOが超豪華パーティー主催!? 福祉も民間主導のシンガポール
    | 後藤百合子 | シンガポール社会 | 18:55 | - | - |
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