ASIAN NOMAD LIFE

日本、香港、中国で生活・仕事をしてきてシンガポール在住8年目。
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TPPこそ農業の救世主に!――シンガポールのスーパーマーケットから見える日本の農産物が売れる理由
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    ■膠着状態に陥ったTPP交渉
    2014年の経済ニュースで最後まで気になっていたのがTPP交渉の行方でした。
     
    結果からいうと「確実に年内合意をめざす」との当初の経産省の意気込みにもかかわらず、2,014年度中に合意には至りませんでした。シンガポールで交渉が行われたこともあり、JETRO主催のセミナーで直接交渉担当官の方からお話をお伺いする機会もありましたが、壮大なフリートレードゾーンの青写真にもかかわらず、交渉内容や進捗状況についてはすべて秘密のベールに包まれており、結局、長期間をかけたものの昨年は不調に終わり、今後も事態打開の兆候は簡単に見えそうにありません。そんな中、交渉国の一つであるシンガポールからは「もう日本をはずした11か国でTPPをまとめたほうがよいのでは」というような意見さえ出るような状況になっています。
     
    ■他国から本音を見透かされるTPP締結を望まない安倍政権
    年末の衆院解散総選挙はアベノミクスの是非が最大の争点になっていたようですが、TPPについてはほとんど話題に上りませんでした。日本政府としてTPP対策本部を作り交渉に臨んでいるいっぽうで、自民党政権内にはTPPに真正面から反対する議員が多数います。つまり「TPPを締結したい」というポーズの裏で「いちおうTPP締結には努力するけれど実際には合意しないほうがいい」という本音が他の交渉に本気で取り組んでいる国々に見透かされてしまっているのではないかと思うのです。
     
    安倍内閣で要職を歴任する稲田朋美自民政調会長は筋金入りのTPP反対論者でしたし、法相に再任された上川陽子氏もつい最近まで「TPP反対」とHPに記載していました。このようなメンバーが政府要人として起用されていれば、交渉妥結に日本が及び腰の姿勢になっていることも不思議ではありません。
     
    ■世界各国から農産物を輸入するシンガポール
    TPPに反対する方々の最大の論拠は「安い輸入農産物が入ってくることにより日本の農業が壊滅する」ということです。しかし、世界各国からほぼ100%農産物を輸入しているシンガポールに住み、地元のスーパーマーケットで毎週買い物をしている私から見るととてもそうは思えません。
     
    よく知られているようにシンガポールはフリートレードゾーンであり、車や酒などごく一部のものに輸入税がかかる以外、関税率はすべて0%です。そのため、スーパーマーケットには世界各地からの輸入食品があふれています。
     
    葉物野菜は隣国マレーシア産が多いですが、中国産も半分近くあります。果物はマレーシアはもちろん、インドネシア、タイ、ベトナムなどからトロピカルフルーツ、中国や韓国から梨や柿など、オーストラリアやニュージーランドからキウイフルーツやりんごなどが輸入されており、アメリカ産オレンジやブルーベリー、スペイン産ザクロやイスラエル産スィーティーなども見かけます。
     
    米はインディカ種(長米)のタイ米が圧倒的な人気でいろいろなブランドのものがありますが、ジャポニカ米(短米)も徐々に種類が増えています。以前はカリフォルニア米しか選択肢がなかったのに、最近はスーパーのPBをはじめいろいろなブランドが買えるようになってきました。一部の高級スーパーでは日本米も販売しています。
     
    気になる日本からの農産物ですが、高級品を置いているスーパー(日本人向けの店ではない)にはオーガニック野菜の隣に日本農産物のコーナーがあります。健康食として和食を好んで食べる人が多いためか、日本から直輸入された野菜が日本の2〜4倍程度の価格で販売されており、少しずつですが種類も増えています。
     
    ふつうのスーパーでも少し大きい店になると必ず日本の調味料のコーナーがあります。人気のカレールーはもちろん、海苔やみりん、すし酢なども買えます。ここで調味料を揃え、もっとこだわりたい人は日本からの輸入野菜まで購入するというところでしょうか。
     
    ■企業努力で躍進するホクトのぶなしめじ
    その中で私が注目しているのは沖縄産もずくとホクトのぶなしめじです。
     
    沖縄産もずくは私がシンガポール人の夫と結婚した15年ほど前からすでに一部スーパーでみかけていましたが、現在はほとんどのローカルスーパーに置かれています。価格も日本で買うのとあまり変わらず、シンガポールの一般家庭の食材として根付いたといってもいいと思います。
     
    いっぽうホクトの日本産ぶなしめじは最近、急激にスーパーのきのこコーナーに出回りはじめました。2パックで200円強のプロモーションをしょっちゅう行っており、その分韓国産のえのきコーナーが縮小する事態にまでなっています。輸送費を入れても日本と変わらないような値段ですからコストダウンの企業努力は相当なものだと思いますが、このままぶなしめじもシンガポールで欠かせない食材として残っていくのは間違いないのではないのでしょうか。
     
    ■競争があることによって農産物も進化する
    TPPの話題が出るたびにいつも思い出すのが、GATTウルグアイラウンドでの牛肉オレンジ自由化です。これは80年代後半にアメリカの圧力に負ける形で日本政府が牛肉とオレンジの自由化を認めたものでしたが、協議中は「日本の畜産農家とみかん農家は壊滅する」と国を挙げて自由化に反対するキャンペーンが張られました。私の友人の実家も大きなみかん農家を経営していましたが、父上が「もうみかんの将来はない」と泣きながら農場のみかんの木を伐り、経営意欲まで失ってしまい、自由化からほどなくして失意のうちに早逝してしまいました。このような方々がいらっしゃったことを思うと、決して他人事とは思えません。
     
    しかし自由化にもかかわらず、日本の牛肉は「和牛」ブランドの御旗のもとに素晴らしい進化を遂げ、市場で勝ち残ってきました。日経新聞の記事によると、1990年度に約39万トンだった国内牛肉生産量はいったんアメリカ産牛肉に圧されて減少するものの、2013年度には36万トンまでに回復し、和牛だけをみると90年度の14万トンから13年には16万トンに逆に増えているのです。昨年末に熊本から初のハラル(イスラム教の教えにのっとって屠殺)和牛がインドネシアに出荷されたというニュースが流れましたが、年々豊かになるアジア諸国で本場日本の最高級「和牛」への需要が高まっていることは見逃せません。
     
    残念ながらみかんのほうは年々耕作面積が減っており、自由化前に比べると生産量は4分の1程度と低迷しています。しかし先月、日本に帰国したときに食べた地元のみかんが格段に美味しくなっており驚きました。静岡県はみかんの産地として有名ですが、三ヶ日など西部みかんは高級品で、私の地元東部ではジュース用など安価なものしか作れないというのが長い間、常識でした。それが今年は三ヶ日みかんを上回る価格で売られていたのです。これも生産者の方々の危機感を伴った多大な努力の成果だと思います。
     
    このように、やむにやまれず熾烈な競争の中に放り出されても希望を失わず、将来に向けて努力をする生産者の方々には、必ず未来が開けるものではないでしょうか。
     
    ■食糧自給率を上げる試みを始めたシンガポール
    いっぽう、つい最近になって、やはりシンガポールのマーケットでみかけるようになったのがシンガポール産の葉物野菜です。ごく一部の有機野菜農場などを除き、地価が異常に高く、賃金もアジアトップクラスの都市国家シンガポールでは農業は不可能と思っていましたが、よく見てみると昨年安倍首相が訪問して話題になった、オランダ型の工場栽培の野菜のようです。価格もマレーシア産のものとあまり変わらないので、何度か買って食べてみたところ、新鮮な分より美味しく感じられました。この試みがうまくいけば、飲料水を自給できるようになったように、シンガポールでも食料自給率が今後上がっていくことと思われます。
     
    また、農業先進国オランダの農産物はこれまでほとんど見かけたことがありませんでしたが、こちらも最近になってアメリカ産などと並んで販売されるようになりました。オランダ型農業は生産地に近いヨーロッパ内のみで成り立つ、という論調もあるようですが、遠く離れたシンガポールでも販売できているところをみると、そうともいえないと思います。オランダ産じゃがいもをみながら、ここにもし北海道産のキタアカリが同じくらいの価格で並んだら、飛ぶように売れるのではないかと勝手に想像しています。
     
    ■必要なのは円安政策と流通対策
    昨年10月には訪日観光客数が1100万人を超え、空前のブームに小売業界が湧きました。シンガポールでもこれまで「ちょっと高いから」と敬遠されていた日本への旅行がプチブームになっており、お客さんからも「みんな日本へ行って買ってしまうので日本の品物が売れない」などと文句を言われて複雑な気持ちになりました。
     
    しかしこの潮流は日本の農産物輸出にとって大きなチャンスになると思います。日本でも欧米への旅行者が増えておいしいパンやパスタなどへの需要が増えたように、日本で食べた美味しかったものを自国に帰ってもまた食べたい、という需要は必ず増えるからです。
     
    少子高齢化で日本の市場が縮小する中、地道な経営努力を重ねつつ世界でもじゅうぶん通用する高品質の農産物を作ってきた農家の方々にとって、TPPにより販売機会が増大することはチャンスでこそあれ決してマイナスにはならないと思います。
     
    しかしそれには条件があります。まず、円安の維持。これまで農家に限らず国内の製造業がどうにもならない環境として必死に耐えてきたのが異常ともいえる円高でした。アベノミクスの金融緩和により現在は人肌のちょうどいい円安になっていますが、安定した輸出量維持するには円安が必須です。
     
    また、もう一つは流通の問題です。最近、楽天がアジアでの拡販にテコ入れをし、毎日定期的に空輸することにより、これまで輸出の最大の課題であった物流コストを下げる試みを始めたそうです。我が社にも楽天と提携した静岡県からプロジェクト参加の打診があり、今回は見送りましたが、将来的には大いに期待できるシステムだと思います。このように、官民を挙げての輸出促進がいっそう進展すれば、これまで輸出などとは無縁だった小規模事業者にも大きなチャンスが広がってくると思います。
     
    「アジアの時代」と呼ばれて久しいですが、まだまだ日本が位置するアジア地域には成長の推進力が渦巻いています。「アメリカ対日本」の対決図式だけではなく、アメリカを利用したアジア地域全体での国としての生き残りをかけて、ぜひTPP交渉には再度積極的に参加してほしいと願っています。

    【参考記事】
    シンガポールの言論の自由とは?
    貧困家庭サポートNGOが超豪華パーティー主催!? 福祉も民間主導のシンガポール
     

     
    | 後藤百合子 | 日本経済 | 12:31 | - | - |
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