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    大韓航空ナッツ事件にみる社員と経営者のあるべき関係について
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      ■チョ前副社長はただのドラ娘だったのか?
      24日、ナッツ・リターン事件の大韓航空チョ・ヒョン・ア前副社長に逮捕状が請求されました。

      事件の詳細については情報が氾濫しており、国際的にも大きなニュースになっています。その中で、シンガポール紙The Straits Timesに興味深い記事が署名入りで掲載されていました。これまでチョ前副社長は単なる大金持ちの甘やかされたドラ娘のように報道されてきましたが、この記事によると実際にはなかなかの実力派経営者だったようです。

      3人兄弟の長女であるチョ前副社長は1999年に大韓航空に入社。機内のインテリアや制服、機内誌、機内食、サービスなどの大胆な改革に取り組んできました。特に顕著な改善を遂げたのが機内免税品販売で2005年には売上が1億5千800万米ドルとなり、当時としては世界最高額。今年度はさらに高い1億9千万米ドルを予定しているほか、商品の高級化にも力を入れており、超高級スキンケアブランド、ドゥ・ラ・メール導入の際には3年を費やして相手ブランドを説得したといいます。

      また「アジア最高のファーストクラスエアライン」賞に4年連続選ばれるなど、数々の賞を受賞してきた実績があり、本業以外でも韓国でのハイアットホテルチェーングループを含む大韓航空グループのホテル事業責任者をつとめ、シンガポールのナンヤン・ビジネススクールの顧問にも着任するなど、彼女がただのお飾りではなく、若干40歳にして自他ともに認める実績をあげてきた経営者であることがわかります。

      この記事の筆者は「明らかにアルコールの影響と思われる馬鹿げた行為のために、これまでの彼女のすべてのハードワークが帳消しになり、大韓航空のイメージダウンを招いたのは悲しむべきである」と結んでいます。

      ■「マニュアルを見せなさい!」の言葉が出てきた背景
      報道では、チョ前副社長はナッツが袋で出されたことについて、執拗にマニュアルを見せるように乗務員に迫ったとされています。なぜ彼女はそこまでマニュアルにこだわったのでしょうか? ここからは私の想像ですが、彼女がそれだけの業績をあげてきた背景には、社員と相当な確執があったのではないかと思います。

      私の記憶では、1980年代から1990年代にかけての大韓航空は、貧乏バックパッカーが必ずお世話になっていた、今でいうLCCのようなイメージの航空会社でした。チョ前副社長が大韓航空に入社した1999年は、1997年から1998年にかけてのアジア通貨危機の直後であり、韓国経済はまだIMF支配下にありました。同年には韓国で2番目の財閥であった大宇グループが解体されています。日本のバブル崩壊後と同様「大企業だから安泰」という時代ではなくなっていたのです。

      そんな自国の経済状況にあって、世界中から富裕層の子弟が集まることで有名なアメリカの南カリフォルニア大学ビジネススクールを卒業してきた彼女が「このままではいけない。会社を改革しなければ」という強い危機感を抱いたことは想像に難くありません。初産が39歳とかなり高齢なことからみても、これまでの15年あまり、私生活も顧みず猛烈な勢いで仕事に打込んできたのではないかと思われるのです。

      問題はそんな彼女と社員との関係です。

      「改革」というと外部への聞こえはいいですが、実際に組織の内部にいる人々からは決して歓迎されません。まして儒教文化が根強く残る韓国のことです。まだ30代前半の社長の娘がいくら改革を声高に叫ぼうと、国内航空会社トップのプライドの高い社員たちにはなかなか響かなかったのではないでしょうか。

      しかし逆境にもめげず、チョ前副社長は全力をあげて改革に取り組み、業績を上げてきました。その彼女の努力の象徴が「マニュアル」だったのではないかと思います。面従腹背の社員たちに囲まれる中、彼女にとってはマニュアルに従って業務を行っているかどうかだけが実際に改革が進んでいるかどうかを測る指標であったのではないかと私には思えるのです。

      ■経営環境が悪くなると必ず不満が噴出する
      チョ前副社長の努力と韓国経済の躍進に伴い、通貨危機で落ち込んでいた大韓航空の業績は徐々に回復していきます。2007年には1998年の底値と比べて株価が26倍にもなり、いったんリーマンショックで落ち込むものの2010年には再び最高値をつけます。

      しかし、ここにきて韓国経済の低迷により大韓航空もまた業績は低空飛行を続けており、株価も急落しています。低迷しているのは本体だけでなく、グループの海運会社赤字穴埋めのために今年、大規模なリストラも行っています。このような経営環境下で社員たちの不満がくすぶっていたのは当然でしょう。政治も同じですが、景気がよく、給料もボーナスも上がっているときには多少不満があっても皆あまり口にしないものです。が、いったん景気が悪くなるとたとえリストラされなくとも、いろいろなストレスが会社や経営者に不平不満となって向かうものなのです。

      しかし、いくら経営者とはいえ、明らかに理不尽なことを言い、違法な要求を突きつけてきたチョ前副社長に対し、なぜ機長をはじめ乗務員がまともな進言をせず、まして後々問題となることがわかりきっている命令に唯々諾々と従ったのでしょうか? 特に機長は法律上は前副社長に勝る権限をもっていたはずの人物であり、うがった見方をすれば後の顛末もすべて予測したうえでわざとゲートに戻ったのではないかとまで思えてしまいます(パイロットは世界的に不足しており、万が一解雇されても再就職は難しくありません)。単に「独裁的な経営者には逆らえない」という以上の社員の不信感を感じたのは私だけではないと思います。

      ■会社に不祥事が起これば経営者が叩かれるだけでなく社員も損をする
      今回のチョ前副社長の言動や行動は明らかに違法であり、社会的にも許されるものではありません。しかし同時に、酔っ払って無理難題をふっかけてきた前副社長と社員である乗務員との間に、もしも日頃から信頼関係が築けていたならば、そもそもそこまで彼女は怒り狂わなかったのではないか、もしくは乗務員がうまく彼女をなだめてその場をおさめることも可能だったのではないかと思います。残念ながら、彼女と乗務員との間にそんな信頼関係はありませんでした。

      今回の事件の影響は副社長にとどまらず、大韓航空全体に波及すると思われます。日頃から不満をためこんでいた社員たちも、経営陣が面目を失った瞬間こそ快哉を叫ぶかもしれませんが、結局、最終的には同じように被害を被ることになります。実際、この事件以降、大韓航空株は5%近く下がり、競争相手のアシアナ株は5%以上上がっています。今後しばらくの間は、乗客数も激減するのではないでしょうか。場合によってはさらなるリストラも行われるかもしれません。

      ■日頃からの信頼関係構築こそ求められる
      私自身も過去に継続の危機に瀕していた事業を立て直すために、ありとあらゆる改革を実施していた時期がありました。その最中、一部の社員から「今の社長のやり方にはついていけない。社長が変わらないのだったらみんなで辞める」と直談判されたことがあります。さすがにその時はショックでしたが、今思い返すとあのとき社員にそう言ってもらったことに心から感謝しています。経営者も人間ですから時に間違った判断や行動もしてしまいます。それを身近で見てくれ、正してくれるのは、同じ会社で運命を共にする社員しかいないのです。

      ナンヤン・ビジネススクールのチョ前副社長のプロフィールには「大韓航空に新しい企業アイデンティティを確立するため精力的に働いてきた」と書かれています。しかし、悲しいことに、実際には経営者も社員も、変わりきれていなかったようです。

      社員も経営者も別々の個性をもった人間である限り100%価値観を共有することはできませんが、日頃から忌憚なく意見を述べ合い、価値観のすり合わせをすることにより、信頼関係を築いていくことは可能です。特に経営が軌道にのっていろいろなことがうまくいっているときことこそ、経営者も社員も、互いに気をひきしめ、いっそうの努力をして意思疎通を図り、誰もが会社の方針について真剣に考えて実行していける社風を意識して創り上げていくことこそが必要なのではないでしょうか。
      | Yuriko Goto | 企業経営 | 18:37 | - | - |
      製造業の海外生産がいよいよ曲がり角に。
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        ■ついに始まった対中投資の大幅減少
        2014年、ついに日本の対中直接投資が大幅に減少し始めました。

        下記の図は2005年からの推移を示したものです。トヨタ自動車など大型投資が一息ついた2007年以降、リーマンショックにもほとんど影響されずに続いていた対中直接投資でしたが、円高もあり過去最高額となった2012年の73.8億ドル(為替レート80円で約5,900億円)をピークに2013年には4.3%減の70.6億ドル、今年は1月〜10月までですでにその約半分の36.9億ドルで前年同期比43%減となっていますので、最終的には昨年の半分前後の大幅減になると予測されます。
        対中投資グラフ

                                         ※外務省レポートより作成

        投資額減少の背景には過去2年間の急激な円安の影響もないとはいえませんが、産業界では過去数年間急激に中国以外のアジアの国々への生産シフトを進めてきており、今年からいよいよ本格的に脱中国の流れが目に見える形で表れてきたのではないかと思います。

        実際、2013年のアセアン5か国(インドネシア、マレーシア、シンガポール、フィリピン、タイ)への海外からの直接投資は初めて中国を上回り、1,284億ドルとなりました(中国投資は1,176億ドル)。International Business Timesは対中直接投資は2011年の1,240億ドルをピークに減り続けており、今後もその傾向は続くと報じています。

        ■中国を離れ、東南アジアシフトが進む工場投資
        なぜ世界的な対中投資離れが起き始めているのでしょうか?

        外務省レポートによれば、中国の生産労働人口は来年あたりから縮小に向かうとされます。中国では一人っ子政策によりこれまで「世界の工場」を担ってきたワーカー数が減少傾向にあるのに加え、「小皇帝」と呼ばれ甘やかされて育ってきた若年労働者の質の低下も、第一線の現場で働く方からよく耳にします。また、全国的には東南アジア諸国と比較してワーカーの賃金は高くないとはいえ、インドネシアやベトナムと比べればやはり割高であることも挙げられます。日本企業に限っていえば特にこの2年の急激な円安で、米ドルにペッグしている人民元も上がっていますので、人件費の大幅な高騰にもつながってきたのです。

        その結果、数年前から軽工業ではじわじわと中国から東南アジア各国に製造拠点を移す動きが広がってきました。重工業に比べ投資金額が少額ですむ軽工業は身軽ですし、インフラがまだまだ未整備の国でも比較的容易に進出できます。

        興味深いことに、この傾向の先鞭をつけたのは中国企業が多く、自国での生産コストが合わないと早い時期から見切りをつけて東南アジア諸国に大挙して工場を建設し始めたのです。ジーユーが2009年に990円の激安ジーンズを販売して大ヒットしましたが、このジーンズもカンボジアで中国企業が生産したものでした。

        ■「賃金が安い地域への工場移転」というビジネスモデルはもはや通用しない
        中国が過去20年近くにわたり「世界の工場」の地位をキープし、驚異的な成長を遂げられたのはひとえに13億人を超える巨大な労働人口によるものでした。1994年にはわずか5兆元程度だったGDPが20年後の2014年には64兆円と10倍以上になりましたが、賃金の上昇は緩やかで10%前後にとどまってきました。ワーカーの需要が増えてもそれを上回る数の労働者が農村地帯から続々と沿岸部の工業地帯に出稼ぎにやってきたからです。

        しかし、中国に代わる製造拠点として注目される東南アジアではそうはいきません。人口が最大のインドネシアで2憶5千万人、フィリピンで1億人、ベトナムで9千万人、カンボジアにいたってはたった1500万人しかいません。インドネシアの人口が多いとはいえ1万3千もの島に分かれて暮らしているため一か所に集めるのは容易ではありませんし、英語を話せるフィリピン人は海外で需要が多く、優秀な人材は出稼ぎで外国に出てしまっています。ベトナム人は勤勉で器用な国民性が好まれ世界中から進出してきた企業で労働者の奪い合いが発生しています。

        そのため東南アジア各国では賃上げデモやストライキが頻繁に行われており、シンガポールのお隣、インドネシアのバタム島では50%の賃上げを求めて10月に大規模なデモが勃発しました。バタム島では昨年にも同様のデモが起き40%前後の賃上げとなっています。ベトナムでもここ数年の賃金上昇はすさまじく、毎年15〜30%の賃上げとなっており、2014年の最低賃金は15%前後引き上げられました。また、昨年カンボジアで操業を開始したある日系工場では、操業開始早々従業員の賃上げストライキに遭遇し、1年間ほとんど生産できなかったという話も聞いたことがあります。

        このような現象からもわかるように、過去20年間、中国で当たり前だった「賃金がより安い地域へ工場を移転していく」ジプシーのようなビジネスモデルはすでに限界を迎えているといっても過言ではないでしょう。

        ■グローバルなジプシー工場経営は働く人にとって幸せか?
        1990年代半ばに、広東省深センの日系玩具工場を訪れたことがあります。玩具業界は軽工業の中でも非常に早い時期から海外工場に移転が進みました。それは小売価格が安いのにもかかわらず極端な労働集約型産業のため、バブル時代以前にすでに日本では生産コストが合わなくなっていたからです。

        その会社ももともと都内で玩具を製造していましたが、最初は韓国、次に台湾、そして香港と少しでも賃金が安い国・地域を求めて転々とし、深センでもすでに2回工場を移っていました。働く人々は、ワーカーこそ中国人でしたが、日本人の社長を筆頭に日本人、韓国人、台湾人、香港人の管理職が生産を仕切っており、工場内で使用される仕様書も日本語、韓国語、中国語、英語の4か国語で作成されていました。

        営業担当の社長の息子さんは教育は日本で受けたもののすでに日本に帰るべき家や工場はなく、お見合いで日本からやってきた夫人は香港のマンションに住み、息子さんは週日は深セン工場の寮に住んで、週末だけ香港に帰る生活を続けているとおっしゃっていました。韓国や台湾からやってきた他の幹部の方々の家庭事情は聞きませんでしたが、同じような暮らしをされていたのではないかと思います。

        その工場は玩具工場としては異例の大規模工場で、日本の大手メーカーの仕事を次々と引き受け、非常に技術が高いと評判でしたが、社長を筆頭に働かれている方々のご苦労を察すると胸が痛む思いでした。

        グローバルに人材獲得ができ、安定期以降は主要人材のローカライズも可能な大企業ならいざしらず、トップや幹部が先頭にたって生産を支えなければならない中小企業の海外生産では、このように働く人たちの生活基盤を根底から変えてしまうリスクがつきまといます。

        2000年に我が社も中国に現地法人を作り8年間中国で生産しましたが、決断のきっかけは「日本製の製品は不要なので、中国で生産できないのなら営業に来る必要はない」とあるお客様に断言されたことでした。また、知り合いの中小企業の社長さんは数年前にベトナムに工場を設立しましたが、日本での仕事が激減しており「行くも地獄、行かないも地獄なので、行くことを決断した」とおっしゃっていました。このように中小企業では好んで海外に工場を設立した会社はむしろまれで、私の知る限りではコストダウンを求めるお客様の強い要請により、会社存続のためにやむにやまれず海外生産を始めたところがほとんどであったと思います。

        ■モノづくりの原点に帰って日本人の得意を見直す
        『週刊ダイヤモンド』2014年11月1日号で、早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問の野口悠紀雄さんが日本の現在の産業構造の問題点として、就業者全体に対する製造業就業者の比率が日本ではまだまだ高い(16.5%)と言及されています。以前に比べて減っているとはいえ、脱工業化が進んでいるアメリカと比べて製造業従事者が多く、金融や専門・技術サービス業などが低いため経済が低迷している、という論旨です。

        野口さんは「製造業人口を減らすべき」とはおっしゃっていませんが、経済成長のために従来の工業生産から付加価値の高いサービス産業に就業構造を変えていくべきだ、という考え方には私は賛成しません。それは日本人の国民性が工業生産にこそ向いていると考えるからです。

        ある国がどのような産業を伸ばしていくべきかを考えるとき、国民性は非常に重要です。20世紀半ばから現在に至るまでIT産業で世界を席巻してきたアメリカの底力はこれまでにない新しい産業を創造するイノベーション力にあったと思いますし、機をみるに敏でプレゼンテーションも得意な中国・華人系の本領はやはり商業にあります。その中で、「私が私が」と自己主張をするのは下手ですが、実直にこつこつと努力を積み上げて「カイゼン」に励むことができる日本人の国民性こそ工業生産にぴったりであり、それが戦後、日本の自動車や工作機械、家電製品などの世界的な評価につながってきたと考えるのです。

        現在、コスト削減のためにメキシコで生産されたタカタのエアーバッグ問題を契機に日本の自動車メーカーが窮地に立たされています。この話を聞き、日本人だからこそできたことを忘れ、コストカットに頼り利益だけを追い続けたツケが回ってきたのだと感じるのは私だけではないと思います。どんなに最先端の車でも機械でも、たったひとつの不良部品が原因で大事故が起こる可能性があることを、この事件が教えてくれているのだと思います。

        再生医療もクールジャパンも悪くはないですが、それが日本の基幹産業となってこれから何十年も1億人以上の高齢化していく日本人の生活を支えていけるとは私にはとうてい思えません。ローテクと呼ばれても、付加価値が低いと嘲られても、今こそもう一度日本人の得意なモノ作りの原点に立ち返り、これからの産業を考えていく好機ではないのでしょうか?
        | Yuriko Goto | 企業経営 | 19:03 | - | - |
        トヨタ自動車空前の黒字でも日本人の給料が上がらない理由
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          ■トヨタ値下げ要請見送りで下請け企業の給料アップ!?
          10月25日付の日経新聞にトヨタ自動車が2014年度下半期の下請け企業への値下げ要求を見送る、という記事が掲載されていました。
           トヨタ自動車は継続して調達する部品の購入価格について、2014年10月〜15年3月分は取引企業に値下げを求めない方針を固めた。年2回の価格交渉で一律に値下げを見送るのは初めてとみられる。数万社に及ぶトヨタの全ての取引先に値下げ見送りの恩恵が広がれば、国内の景気回復を後押しする賃上げなどにつながる可能性がある。

          「国内の景気回復を後押しする賃上げなどにつながる可能性がある」と書いてありますが、本当にそうなのでしょうか?

          記事はさらに続きます。
          足元の円安で輸出採算が改善することなどに伴い、トヨタの14年4〜9月期の連結営業利益(米国会計基準)は1兆3000億円程度と過去最高を更新したもよう。15年3月期も2期連続で最高益を更新する見通しだ。
           一方、電気料金の引き上げや円安による資材費の上昇などに苦しむ中小企業の業績は低迷している。14年10月〜15年3月分の部品の価格を決める交渉では9月時点で平均1%を切る値下げを求める計画だった。この値下げを見送ることで本来生じるはずの数百億円の収益改善分を取引先に還元する。


          ■トヨタ空前の黒字でも上がらない下請け企業の部品価格
          トヨタの値下げシステムは業界では有名で、毎年2回必ず部品を納入する下請け企業にコストダウンを要求するものです。つまり、下請け企業はトヨタに対し同じ商品を納品しているにもかかわらず、販売価格は毎年2回ずつ確実に下がっていくのです。値下げ要求はその車種が販売中止になるまで続きますので、5〜7年程度は同じ品質の同じ商品であるにもかかわらず、下請け企業の部品価格は下がり続けることになります。

          もちろん販売価格は日本円ですから、下請け企業は円安の恩恵はまったく受けません。逆に円安により円ベースでは樹脂や金属などの原料価格、そして電気料金が大幅に上昇していますので、その分のコストアップも含めて決められた価格の中でやり繰りしていかなければなりません。

          記事には「この値下げを見送ることで本来生じるはずの数百億円の収益改善分を取引先に還元」と書いてありますが、これはトヨタの立場にたってみた話で、下請け企業にしたら「製造原価は上がっているのに販売価格は上がらないどころか下がっている」状況に変わりはないのです。こんな状態で、下請け企業が賃上げできるはずがありません。

          ■円安と海外生産拡大で過去最高益に
          もう一つ、トヨタ自動車の最高益ですが、実はこちらもほとんど日本には関係ありません。

          トヨタ自動車のHPによると、トヨタ、ダイハツ、日野を合わせたグループ全体の自動車の輸出台数は、過去5年間一貫して減り続けています。

          2010年 484万台
          2011年 446万台(地震の影響で生産台数減)
          2012年 480万台
          2013年 467万台
          2014年 372万台(1〜10月までの合計)

          いっぽう、海外でのトヨタ車の生産は増加の一途をたどっています。

          2003年には海外生産台数256万台、国内生産台数352万台と国内のほうが100万台ほど多かったのですが、2007年には海外431万台、国内423万台と逆転。この傾向は猛スピードで進み、わずか5年後の2012年には海外524万台、国内349万台と海外生産が国内の1.5倍となっているのです。

          ですから、トヨタの最高益も国内で稼いだものではなく、海外での利益が大部分を占めるといっても過言ではないでしょう。この場合も、国内のトヨタ社員の給料が大幅に上がるとはとうてい考えられません。稼いでいるのは日本の社員ではなく、海外のトヨタの社員なのですから。

          ■国は原点に帰って国内産業育成を
          トヨタ自動車1社をとってみても、現在の日本の産業構造では「円安→輸出増→従業員の給与アップ」という図式が当てはまらないのは明らかです。過去20年近くにわたり国内での産業育成をないがしろにし、「企業の海外生産を後押しする」政策を続けてきた結果が現在の国内不況につながっているのです。

          昨日の報道によると、官民ファンドのクールジャパン機構はラーメン店の一風堂に10億円以上の資金提供を決めたそうですが、非常に残念だと思います。なぜなら、サービス業の輸出は日本国内での雇用を産まないからです。同じ税金を使うのであれば、ぜひ日本国内での安定した雇用を創出し、かつ輸出につなげられる企業に使ってほしいと願います。
          | Yuriko Goto | 日本経済 | 18:35 | - | - |
          「最初から辞めるつもり」で働いてみる。-- リクルート38歳定年制が生み出したもの
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            ■バブル時代のリクルート社の現場にみなぎっていた熱気
            ブロガーのイケダヤハトさんが「ワークライフバランスを気にする人は超一流になれない」という記事を書いていらっしゃいます。記事の内容は、「ある分野で超一流になりたかったら一定期間、他のことは何も考えずにそのことだけにうちこむ時間が必要」というもので、少なくとも10年くらいの時間がかかると述べています。

            これを読んで思わず、以前私が外注で仕事をさせていただいていた25年ほど前、バブル期のリクルート社を思い出しました。

            当時、ほとんど夕方6時以降の指定だった打ち合わせにオフィスに赴くと、営業職の人たちが続々と外回りから帰ってきます。そのうち「わーっ」という声とともにあちこちで大きな拍手が起こり、そちらを振り向くと天井に吊るされたくす玉が割れて「目標達成おめでとう!」の文字が書かれた紙が垂れ下がり、紙吹雪が盛大にあたりに舞っている。当時のリクルート社では日常的に目にする光景でしたが、「まるで高校の学園祭のようだなー」と感じたのをよく覚えています。この後、そこにいた社員のほとんどが深夜まで残業をしていたのは言うまでもありません。

            ■リクルート社の「限りなくブラックに近い」メソッドの数々
            この他にもリクルート社には独自の文化がいくつもありました。それは特に新人教育に特徴的です。

            まずトレーニングの最初の難関である数週間にわたる電話営業。受話器をガムテープで手にくくりつけ、食事のときもトイレに行くときも決して受話器を離させません。この期間、新人には電話をかけること以外いっさい許されなかったそうです。最初は非常につらいこの訓練も、終わることには電話営業への恐怖心(怒鳴られることやすぐに切られることも含め)がなくなり、お客様へのとっさの対応も格段に上達します。

            営業の実施訓練では「ビル倒し」というメソッドがありました。これは、オフィスビルの最上階からビル内にあるすべての会社に飛び込み訪問してセールスを行うものです。私自身もたまに行いますが、少し前にシンガポールで就職活動をしていた若い女性にこの「ビル倒し」を紹介したところ、彼女は行きたい業界の企業が集まっている地域で実施し、(求人していなかったにもかかわらず)みごと希望の会社の仕事をゲットしました。採用してくれた会社のトップからは「君のような野武士の志をもった人材を探していた!」と絶賛されたそうです。

            極めつけは38歳定年制です。38歳で絶対に辞めなければいけないわけではありませんが、この年齢までに退職すると退職金が最大になり、それを元手に起業や転職しやすくなる、という一面もあったようです。リクルート社出身の企業家や起業家の数が非常に多いのはよく知られています。

            最初にお話しした日常的な長時間残業をはじめとして、このようなリクルート社の文化は現在だったらパワハラも含め「ブラック企業」の代名詞のように聞こえるのではないでしょうか? しかし私の目には、ほとんどの社員は嬉々として過酷な業務に勤しみ、誇りをもって仕事をしているように映りました。まるで学園祭のようだ、と私が感じたように、大部分が20代だった当時のリクルート社の社員たちにとっても、この頃の記憶はきっと全力を出し切ってぎりぎりまで頑張った大切な人生の思い出となっているのではないかと想像するのです。

            ■日本だけではない、大手一流企業若手社員の仕事漬け人生
            10/16付のロイター配信の記事によると、フェイスブック社とアップル社が女性社員に対し卵子凍結を推奨する方針を打ち出しました。これは「仕事にうちこみたい」女性が産み時を逃してしまっても大丈夫なように、という措置でアップル社は1人あたり卵子凍結と維持に必要な2万ドルを提供。その他に養子を受け入れる社員のための費用負担や育休の延長も発表しています。フェイスブック社は卵子凍結補助制度のほか、男女ともに4か月の有給の育休に加え、4千ドルの出産祝い金も支払うそうです。

            このようなシリコンバレーの大手企業の支援措置から透けて見えるのは、男性か女性かを問わず能力が高く「超一流をめざす」人たちには「仕事が一番できる20代から30代前半にかけては仕事に専念してもらい、能力に翳りがみえてきたら家庭でもなんでも作って勝手にしてね。そのためには多少の補助もするから」という、少々利己的な考え方のようにみえます。

            日本の大手商社など一流企業でも、20代〜30代にかけては転勤につぐ転勤と長時間勤務で社員を酷使し、50代ともなれば(早い人は40代半ばくらいから)関連子会社への出向、転籍が当たり前。妻は高学歴でも夫の転勤のために仕事を辞めざるをえず、家庭は母子家庭状態、などという例は枚挙にいとまがありません。

            それに比べればリクルート社のようにはっきりと38歳と区切り、そこを転換点として自分の人生をいやでも考えさせるシステムは、独創的というだけでなく、非常に社員のことを考えた制度ではなかったかと思うのです(現在は少し変わっているようですが)。

            ■アドレナリン放出状態で仕事ができるのは最高15年
            中野円佳さんの『「育休世代のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか?』では、有名大学を卒業、総合職として大企業や有名企業に就職し、20代で結婚・出産を経て仕事と家庭の両立を模索する女性たち15人を調査・分析しています。その中でも特に興味深かったのは、「卒業後、数年間は悔いが残らないよう思い切り仕事だけをして、出産してから育児と両立できる仕事に転職する」と最初から明確なプランをたてて就職している人がいたことです。

            イケダさんは寝食も忘れて一つのことに没頭し、超一流になるには、最低10年かかるといいますが、こんな状態はおそらく最高でも15年以上は続かないのではないでしょうか? 体力があり、アドレナリンが放出されまくっている興奮状態を続けられる若い頃ならいざ知らず、30代後半から40代にかけてもそれを続けていけば間違いなく健康を害します。だからこそリクルート社は38歳定年を推奨したのでしょうし、イチロー選手のようにストイックに自分自身のコンディションを律し、限界を超えて活躍するスポーツ選手は世界中から驚嘆と尊敬で迎えられるのだと思います。

            そのことを意識せずに会社が求めるままに無理をして健康を害したり、過労死したりしてしまった方々を身近で見てきただけに、若い方々にこそ、ぜひこの点を意識してほしいと思うのです。

            ■最初から辞めるつもりで働いてもいい
            男女を問わず、仕事で大きな実績を残したい、という明確な目標があるのであれば、そのような企業で、期間を最初から決めて、のめりこむように仕事をし、満足のいく結果が出たら潔く退職し、その経験を活かして次のキャリア・ステップを歩み出し、マイペースで仕事とプライベートを両立させる、というライフコースがあってもいいように思います。

            家庭と仕事を両立させたい女性の多くはすでに熟考していることなのかもしれませんが、イケダハヤトさん自身が実践しているように、男性にも「仕事のみが自分の人生の中心と考えない、こんな人生のコースがあるのだよ」と気づく人がもっともっと増えていくと日本社会もずいぶん変わっていくのではないかと思います。
            | Yuriko Goto | 転職 | 18:33 | - | - |
            インフレと少子化で目減りする年金。いよいよ導入される「マクロ経済スライド」
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              ■物価スライド特例措置を2年で解消
              年金のことをもっと知ろうと日本年金機構のHPを見ていたところ、見慣れない用語をみつけました。「物価スライド」という言葉です。このページには下記のように説明があります。
               
              物価スライド特例措置について

              公的年金の年金額は、物価・賃金の変動に応じて年度ごとに改定されることになっており、平成26年度の改定率は、平成25年の全国消費者物価指数と過去3年間の賃金変動率から、プラス0.3%となりました。
              また、現在の年金は、過去に物価が下落したにもかかわらず年金額を据え置いたことで、本来の水準よりも1.5%高い水準(特例水準)で支払われていることから、平成24年の法律改正で段階的に特例水準を解消することとしています。
              このため、平成26年4月分としてお支払いする年金額から、平成26年度の改定率(プラス0.3%)と特例水準解消分(マイナス1.0%)を合わせ、3月までの額に比べ、マイナス0.7%の改定が行われます。
              ※今回の改定の結果、残る特例水準(0.5%分)の解消は、平成27年4月に実施される予定です。(実際の年金額の改定については、物価・賃金の状況により、決まります。)

              日本年金機構HPより引用


              「物価スライド」という言葉からは、物価上昇(インフレ)に合わせて年金額も上昇するような印象を受けますが、どうもそれだけではないようです。文面をみる限りでは「これまでが特例でデフレのときに本来なら下げなければいけないのが下がっていないので、平成26年と27年の2年に分けて年金を下げます」と読めます。そういえば「年金額が下がった」という声を今年はあちこちで聞きました。

              ■マクロ経済スライドとは何か?
              しかし、この措置が終わったら年金は現在進行しているインフレに合わせて単純に上がっていくのでしょうか? もう少し理解したいと思い厚生労働省のHPを見てみたら、今度は「マクロ経済スライド」という言葉がみつかりました。

              公的年金のスライドには「物価スライド」「マクロ経済スライド」「賃金スライド」の三種類の方式があり、現在の日本の公的年金で採用されているのは「物価スライド」と「マクロ経済スライド」だけだそうです。

              そうなると「物価スライド」はインフレになっても年金額が物価に同調して上がるのでよいとして、「マクロ経済スライド」ではどうなるのでしょうか?
               
              マクロ経済スライドとは、そのときの社会情勢(現役人口の減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みです。 

              厚生省HPより引用

              このページの説明を読む限り、どうも物価上昇分から一定の料率を引いて年金額を計算するのがマクロ経済スライドのようです。ただ、具体的にどのような計算をするのか説明を読んでもいまひとつわからなかったため、次は厚生労働省に電話をかけて聞いてみました。

              ■インフレかつ年金加入者が減れば減るほど目減りする年金給付金
              以下が担当者の方にうかがった話の要約です。

              平成16年の年金改革で公的年金制度維持のため、マクロ経済スライドを導入した(厚生年金保険法34条および国民年金法16条の2、27条の5)。平成16年以降はほとんどデフレが続いており、本来ならば年金額を下げなければいけなかったが、特例措置で据え置かれた。しかしそれを解消して支給額を引き下げ、2014年はインフレが見込まれるため(IMFによる10月時点の推計では2.66%)、初めてマクロ経済スライドを来年度から導入する見込み。具体的な計算方法は、物価上昇分から、2年度前の年金保険料負担者数を5年度前の負担者数で割った数字を引く(ただしこの計算方法はHP等に掲載されていないため検証はできませんでした)。

              お話を私が理解したところでは、物価が上がった分は上昇率と同じく年金額も上げます、ただしそこから保険料を払っている人が減った分を引きますよ、というものだと思います。実際にどれだけ減るのかは来年になってみなければわかりませんが、インフレになればなるほど、保険料納付者数が減れば減るほど、名目支給額こそ上がりますが、実質的に支給される年金は目減りすることになるのです。

              ■年金目減りに備えるシニア世代に見習おう。
              前回、65歳以上で就業する方々がたいへんな勢いで増えているということをお伝えしました。すでに年金給付が始まっている世代では、マクロ経済スライド導入も視野に入れて今後の生活設計を考えていらっしゃるのではないかと思われます。

              従来のままで公的年金制度を維持するのが不可能なのは火の目をみるより明らかですし、シニア世代の方々が着々と準備を進めているのに見習い、その下の世代でもこれまでの年金給付額や給付率を元にした将来設計をするのではなく、もっとシビアな老後プランをたてていくことが必要になってくるのではないでしょうか。
              | Yuriko Goto | 老後と年金 | 18:32 | - | - |
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