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ASIAN NOMAD LIFE2017.09.01 Friday
人生100年時代に「稼げる国民」を作る「Skills Future」というシンガポールの社会実験
JUGEMテーマ:シンガポール
2015年予算で、シンガポールは政府は、『「経済体として次なる未知の領域に到達しなければならない」とし、技術革新、労働者の技術力向上を所得増のけん引役とする方針を示した。』として、非常に大胆な予算案を編成しました。
まず、政府傘下の投資会社テマセクからの歳入を大幅に増やして財源を確保し、東南アジアのハブ空港であるチャンギ空港の新ターミナルなどインフラ事業に重点投資(この効果はすでに出始めており、昨日のニュースではオーストラリアのカンタス航空が今後、チャンギ空港をベース空港とすることが発表されました)。
賃上げ補助や企業への海外販売支援金の増額、年金制度(政府管掌の個人年金)の上限引き上げと柔軟化、高額所得者への税率引き上げ(といっても最高税率22%ですので世界的水準と比較するとまだまだ低い)、低所得者高齢者に対する恒久的支援制度の創設などが大きく変わったところですが、なんといってもこの予算案の白眉は「Skills Future」プログラムの創設にあります。
■生涯教育と技術習得 Skills Future(未来のスキル)プログラムは、生涯を通じて国民が職業スキルをアップしていくためのプログラムです(創設当初は25歳以上が対象でしたが、現在は修学中の学生にも対象が拡大しています)。
このプログラムに登録されている講座を受講するため、全国民にSGD500(約4万円分)のポイントが授与され、コースによっては受講料も9割以上が政府補助になるため、驚くほど安価で職業教育を受けることができます。
しかも政府系職業訓練校のみならず、民間の専門学校にも委託した講座数はオンラインも含めて10,000以上あるとも言われ(すべて数えたことがないので正確なところはわかりませんが)、とにかくありとあらゆる分野、初心者向けで1日で終わるコースから、シンガポール国立大学や南洋理工大学のMBAコース、さらに非常に高度な専門技術を教える(部外者がタイトルを見ただけでは何のことだかわからない)長短の各コースまで多種多様。
2015年には35万人、2016年は38万人がこのプログラムを利用していますので、シンガポール国民約390万人のうち約10%が毎年何らかの勉強をしたということになります。しかし政府担当者は「まだまだ端緒についたばかりで、これからさらにプログラムを拡大し、生涯学習していくというマインドセットと技術の習得をシンガポール国民に周知していく」と語っています。
シンガポールの失業率は2%程度と世界でも最低レベルですが、特に中高年においてスキルのミスマッチングのため職探しが難しくなっているという背景もあり、政府としては、すべてのレベルの労働者において、知識やスキルのアップデートを図り、職業カウンセリングも交えながら就労させていくという方針です。
■人生100年時代の国民の働き方を変えるポテンシャルをもつ壮大な社会実験プログラム 私も今年に入って、政府から受託してSkills Futureのコースを開設している専門学校で、5日間のコースを2回受講しました(私はシンガポール国民ではありませんが、永久住民ビザをもっているためこのプログラムが利用できます)。
5日間の基礎的な実技を中心としたコースでしたが、政府補助が9割だったため、受講料は8,000円程度。4日の実技、1日の実技及び理論のアセスメント(テスト)の期間、20人弱のクラスメートは1人も欠席することなく、真剣に受講していました。
クラスメートの中には転職を考えているため有給休暇をとって参加したという中高年や、軍隊訓練中(シンガポールは皆兵制のため高校卒業後にNational Serviceに2年間従事する義務がある)だけれど今後の進路を決めるためにいろいろなコースを受講しているという若者もいました。いっぽうで、特に職業にする予定のない人が趣味のために、という目的で参加していたりもしていましたので、将来、受講者のうちどれだけの人がここで学んだスキルを仕事に結びつけられるかは未知数です。
しかし、そこは政府もわかったもので、専門学校での講座終了後アンケート以外にも、個別にオンラインでサーベイ要請があり(数回は無視したのですが何度もしつこくメールが送られてくるので仕方なく回答)、PDCAをしっかり回している様子がうかがえます。
Skills Futureプログラムは、現在、インドネシアなど周辺諸国でも注目を集めていますが、もしもこの制度が軌道に乗り、国民が職業人生の中で段階的にスキルアップして高度人材を輩出し、失業率を低減させ、就業期間を延ばして年金に頼らず生活していける期間を延長する実力を身につけることができれば、生活保護などの社会保障費を大幅に削減することができます。
「転ばぬ先の杖」と言いますが、まだ学習能力があるうちに企業が求める人材を育て、将来かかる可能性のあるコストを未然に削減するという意味で、コンセプト的にも規模的にもこれまでどこの国も行ったことがない、壮大な社会実験であると思います。
人生100年時代、常に厳しい国際競争を生き抜くための国としてのスキルを磨いてここまで成長したシンガポールの、現在進行形の実験を、注意深く見守っていきたいと思っています。 |
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