ASIAN NOMAD LIFE

日本、香港、中国で生活・仕事をしてきてシンガポール在住8年目。
小池百合子都知事が放つ言葉の力とその限界
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    JUGEMテーマ:政治

     

    昨晩、シンガポールのニュースチャネルChannel News AsiaのMaverick Politicians(一匹狼の政治家たち)シリーズで小池百合子氏が取り上げられました

     

    番組はナンヤン工科大学のNaoko Kumada氏、ジャパンタイムズ紙のReiji Yoshida氏、テンプル大学のJeffery Kingston教授のコメントと共に、小池百合子氏のインタビューを軸に構成。制作時期が昨年前半と古いことから衆議院選挙の件には触れられていませんでしたが、改めて小池百合子というこれまでにないタイプの政治家を知る意味で、得るものが多い内容でした。

     

    番組前半では、小池氏の日本人2人目というカイロ大学卒業までの経緯や、ニュースキャスター時代にリビアのカダフィ大統領やパレスチナのアラファト議長インタビューに成功したこと、1992年に政治家に転身してから順調なキャリアを歩み、小泉内閣時に環境大臣としてクールビズを成功させ、女性初の防衛大臣となったこと、そして2016年7月に女性初の都知事として圧倒的な勝利を収めたことを紹介していきます。

     

    コメンテーターたちは小池氏の政治手腕を「非常に辛抱強い」「空気を読むのがうまい」「劇場型の政治」などと評しますが、一番私の印象に残ったのは、小池氏本人が「大義ある政策を(国民/都民の)共感をもって進める」そのためには「政治・行政の言葉と一般の人の言葉が違う」という壁を乗り越え、わかりやすい言葉で国民/都民に語りかける必要があるという主張でした。

     

    確かに、番組の中で紹介される選挙運動中の小池氏の演説には聴衆を引き込む力強さがあるのみならず、主張を伝えた後に「皆さんいかがでしょうか?」と観衆に語りかけるテクニックにも、老練な政治家としての技量だけでなく「この人についていけば何とかなるかもしれない」という強いリーダーシップを感じます。

     

    そのいっぽうで非常に残念に感じたのは、ソフトな口調を保って力強く人の心を引き込む話術をもちながら、インタビュー中も政治活動中の映像からも、その表情から小池氏が繰り返し訴える「共感」性が伝わってこなかったことです。

     

    こちらは小池氏が昨年、希望の党を立ち上げたときの記者会見のビデオですが、私は日本にいたため、リアルタイムでラジオで聴いていました。演説に非常に感銘を受け「ぜひ小池さんの党に投票したい」と思ったのをよく覚えています。しかし、このビデオを改めて観てみると、小池氏の言葉と表情のアンバランスさが際立ちます。言葉にこめられている熱意が表情にまったく反映されず、とてもちぐはぐな印象を与えるのです。

     

    小池氏を重用した小泉純一郎元首相の演説ビデオと比べてみるとその差は一目瞭然です。小泉氏は目尻を下げて冗談を言った後には、細い目をいっぱいに見開いて「敵」を攻撃する強い口調になり、手振り身振りを交えて聴衆の心を鷲掴みにします。そして「うなずいてくれましたね」と聴衆の一人に語りかけて共感をさらに強めるのです。

     

    希望の党はこの会見後いったんは大きな支持を得たものの、その後一気に失速して衆議院選挙では惨敗。失速の契機となった「排除」という言葉に象徴されるように、「共感」とはほど遠い何かの匂いを国民が嗅ぎ取ったからではないかと思います。

     

    同じことは、一昨年の米大統領選でトランプ氏に僅差で敗れたヒラリー・クリントン氏にも言えます。

     

    クリントン氏のファーストレディーや国務長官時代からの政治手腕や実績はトランプ氏とは比較にならないほど立派であり、また、貧困層や子どもなど社会的弱者を支援するための活動にも若い頃から真剣に取り組んできた政治家として知られています。しかし「民主党は支持するけど彼女だけは絶対に嫌」という人たちがいるのも事実。その大きな理由の一つに、彼女の表情があるのではないかと思うのです。

     

    小池氏はクリントン氏と同じく、これまでの政治家としての実績をとっても過去の選挙の得票率をとっても、現在も初の女性首相に最も近いポジションにいる方です。

     

    しかし「(政治家として)女性であることが支障になったことはない」語るのとは裏腹に、小池氏にしてもクリントン氏にしても、政治という権謀術策が横行する男性社会の中で「一匹狼」の政治家として生き残るために、自分の心を決してさらけ出さず、言葉を選びながら慎重に自分を律することが必要だったのだと思います。その長年の積み重ねが、現在のような「共感性を感じられない表情」につながってしまったのではないでしょうか。

     

    番組の最後に登場する「リボンの騎士」扮装姿では、小池氏はいつになく満面の笑顔で「子どもの頃『なかよし』で読んでいた」とインタビューに答えます。この笑顔が国民に向けられるときこそ、初の女性総理が誕生する瞬間になるのではないかと思います。

    | 後藤百合子 | 女性の働き方 | 11:53 | - | - |
    企業投資動向にみるお金の行方
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      JUGEMテーマ:ビジネス

       

      西暦の正月に関してはカウントダウン以外ほとんどお祝いムードがないシンガポールでは、本日から通常の日常が始まりました。

       

      そんな中で年末にかけてたびたびニュースになり気になっていたのが日本の銀行に関する話題。

       

      メガバンク3行が合計で3万人以上分の業務量削減により今後人員を縮小。また、業務にかかる手数料を上げていくなど、根本的な収益体制の見直しを行っていくことを相次いで発表しました。

       

      マイナス金利政策の影響を受けて銀行の収益性が悪化している現状は否めませんが、最大の事業である企業の設備投資は歴史的な水準のはずでは? と疑問を感じて調べてみました。

       

      こちらに、日本政策銀行の資本金10億円以上の企業に対する設備投資計画の調査が掲載されていますが、その概要をダウンロードして読んでみると、設備投資大幅増の影に微妙なニュアンスの違いが見えてきます。

       

      例えば、製造業の投資動機で最も高いのが「維持・補修」で28.1%。1990年から一貫してこの項目が増加していて、2015,16,17年の3年だけをみても大きく伸びています。逆に「能力の増強」は大幅減。「新製品・製品高度化」「研究開発」「合理化・省力化」はほぼ横ばい。

       

      一方、海外投資に目を転じると、国内投資が前年比11.2%の伸びに対し14.3%と上回っており、中期的な国内外の供給能力は、6割の企業が海外を強化、国内については6割が維持と回答しています。自動車産業単体では、国内生産拠点の生産能力維持が8割近くを占めるものの、10年後の国内供給能力について26%が縮小という数字も気になります。

       

      また、金額ベースでいくと、2010年を境にして全産業で海外設備投資が大幅に増加しており、製造業で2倍強、非製造業では3倍近くになっているのです。

       

      日本企業の投資資金の相当の割合は日本の銀行からの融資と考えられますが、せっかく異次元の緩和をしてもお金がこのように大量に海外に流れてしまうのでは、銀行の国内人員は余っても不思議ではありません。実際に、この調査の人材投資の項目では、製造業の63%が「海外展開に必要な国際人材」の育成が重要と回答し、非製造業でも24%が同様の回答をしていますので、設備だけでなく人材も海外に流れるいくことが推測されます。

       

      ここ20年以上、中国をはじめアジア各国のいろいろな企業を見てきましたが、製造業・非製造業に関わらず、やはり勢いのある企業は設備投資を行って最新の機械や設備を導入しています。古い設備を大切に維持・補修しながら使い続けるのも悪くはありませんが、長期的な視点に立てば設備投資にお金をかけていない企業は必ず負けます。同じことは人材投資にも言えるでしょう。

       

      2018年は世界経済が好調の見通しで、北朝鮮情勢やアラブ諸国のリスクを除けば日本経済もその恩恵を大きく受けると思われますが、このような時こそ、長期的展望をもって日本の産業を強化・育成していく方策を、官民一体となって模索してほしいと願います。

      | 後藤百合子 | 高齢化社会とビジネス | 16:50 | - | - |
      大人の一人旅の勧め
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        JUGEMテーマ:幸せなお金と時間の使い方

         

        旅行会社HISの澤田社長が来年、3か月から6か月の一人旅に出ると発表しました。

         

        澤田社長は66歳。上場会社のトップが長期間不在にするという異例の事態に「とても考えられない」という声もあるようですが、私は素晴らしい決断だと思います。

         

        ■若者の旅と大人の旅の違い

        「かわいい子には旅をさせろ」という格言の通り、若い時の旅には、それまで育った世界の中で培ったものの見方を根本から見直し、新しい世界観や価値観を身につけられるというメリットがあります。

         

        今年の夏の大半を私は沖縄の離島で過ごしたのですが、その時に出会った若い旅行者たちといろいろな話をする中で、やはり彼らが「人生とはこういうもの」と思い込んでいた固定観念から解き放たれ、いろいろな価値観に触れて成長していく様子を目の当たりにしました。

         

        逆にカップルになったり、結婚して子どもが生まれて家族連れの旅行になると、どうしても旅は新しい発見のためというより余暇の側面が強くなってきます。家族の安全を慮って少しでも危険な場所は避けるようになりますし、旅そのものも計画的になり、新たな人々との出会いもぐっと抑えられます。

         

        我が家でも子連れでこのような旅をよくしますので決して否定するわけではありませんが、得られるものの多さからいうと断然、若者の旅スタイルのほうが多いと思います。

         

        ■「百聞は一見に如かず」が旅の神髄

        澤田社長はもともと旅が大好きで、ご自身のバックパッカー旅行の経験を活かして旅行会社を立ち上げられた方ですが、世界的に有名な投資家で、現在はシンガポール在住のジム・ロジャーズ氏も旅好きで知られます。

         

        ロジャーズ氏は40代からオートバイで中国をはじめ世界中を単独で旅して歩き、1999年から2002年にかけてはメルセデス・ベンツで116ヵ国を走破。2つのギネスブック記録をもっているそうです。彼はこれらの旅を通して世界の現状を把握し情報を収集して、シンガポールに移住を決断。中国語を含めてシンガポール式の教育で子どもたちを育て、現在もアジア圏での個人投資を盛んに行っています。

         

        やはり格言に「百聞は一見に如かず」とありますが、雑誌やテレビなどメディアから得られる情報と、実際にその現場で得られる経験の情報量は圧倒的に違います。まさに100倍以上の価値があるのです。

         

        単にガイドブック片手に観光地をめぐるだけでなく、その土地の人が行く場所に行き、そこに住む人々と直接話をして自分とは異なる世界観や価値観を知り、翻って自分自身をもう一度見つめ直す旅は、若者だけでなく、大人のもう一段の人間的成長にも貢献してくれるはずです。また同時に、今後の仕事や人生の計画にも大きな影響を与えてくれるでしょう。

         

        ■人生後半戦に備えて一人旅を。

        2018年は世界的に好況になり、日本経済もその恩恵を受けると言われています。

         

        その一方で、「ゆでガエル世代」と呼ばれてリストラに怯える人も多い40代後半から50代前半、そして第一線で働いてきた人生から次の人生への移行期にある50代後半から60代にかけての大人たちこそ、いま一番、来し方をしっかりと振り返り、行く末を真剣に自分で考える必要に迫られていると思います。その環境には一人旅が最適ではないでしょうか。

         

        澤田社長の今回の決断も、そこに最大の目的があると私は思っています。

         

        折しも2018年は日本でLCCが開業してちょうど20年。LCCを使えば、国内旅行とさして変わらない値段で世界中の国々を旅することができる世の中になりました。

         

        身近になったとはいえまだまだ世界は広く、出会ったことのない人も考えつかなかった発想も世界にはあふれています。

         

        私自身も来年はもっと一人旅をして、しっかりと人生後半戦に備えたいと思っています。

        | 後藤百合子 | ワークライフバランス | 14:04 | - | - |
        従軍慰安婦問題に関する国際世論と日本の今後の対応に期待すること
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          JUGEMテーマ:政治

           

          韓国従軍慰安婦問題の2015年日韓合意について、韓国が27日、検証報告書を発表しました。

           

          日経の記事によると、報告書は合意について「被害者の意見を十分聴かないまま、政府の立場で合意した」、「被害者が受け入れないかぎり、政府間で慰安婦問題の最終的・不可逆的解決を宣言しても、問題は再燃するしかない」と結論づけています。

           

          同日の晩、シンガポールのニュースでもこの問題が取り上げられましたが、従軍慰安婦は朝鮮半島からだけではなく中国など他のアジア諸国などからも従事していた女性がいたこと(言外に彼女たちは十分な補償や謝罪を受けていないことを匂わせています)、合意によって安倍首相が正式に謝罪をしていること、元従軍慰安婦のための基金900万USドルを日本政府が拠出し、「受け入れられない」としている元従軍慰安婦の被害者数も生存者は数十人にとどまっていることを伝えました。

           

          また、米ウォール・ストリート・ジャーナルの記事ではさらに詳しくこの問題が取り上げられ、安倍総理自らが2013年に訪韓してパク・ウネ前大統領と公式に話し合い、2015年の合意で「電撃的な」解決を図って以来、元慰安婦やその遺族に対し、韓国の基金管理団体からすでに400万USドルが支払われていることが報道されています。

           

          この記事についてのコメントでは、「70年以上も前の解決済の問題をまた蒸し返すのか?」という論調が多く、以前のような「日本は正しい歴史を教えず戦争被害者を無視している」という非難は少数にとどまっています。

           

          さらに中国の新華社通信の記事もいつになく客観的で、一般の韓国人には日韓合意は「感情的に」受け入れ難いとしながらも、両政府の合意が「最終かつ不可逆的」とされていたこと、そのために日本政府が10億円の基金を拠出したことが書かれています。

           

          従軍慰安婦問題についてはこれまで、戦時中の日本最大の汚点の一つとして世界中から非難を受けてきましたが、今回の各メディアの対応をみる限り、国際世論はおおかた日本の側についているとみていいと思います。この状況は安倍政権外交政策における非常に大きい成果であると高く評価します。

           

          今回の報告書の結果に関する韓国政府の公式見解はまだ発表されていませんが、報道によると河野外相が韓国外相に対して合意遵守を粘り強く説いているところのようです。

           

          慰安婦問題は単に日韓二国間の問題にとどまらず、女性の人権侵害という点で、これまでも世界中から大きな注目を集めてきました。

           

          特に北朝鮮問題が日々深刻化する中、この問題について短絡的な非難の応酬に走ることなく、国際世論を味方につけながら慎重かつ決然とした態度で対処することが政府にも国民にも求められていると思います。

          | 後藤百合子 | 日本の将来 | 11:41 | - | - |
          書評:「ゲノム解析は「私」の世界をどう変えるのか? 生命科学のテクノロジーによって生まれうる未来」
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            JUGEMテーマ:ビジネス

            ■進化論から二重らせん、そしてヒトゲノム解析へ

            19世紀のダーウィンの進化論から、20世紀半ばのワトソンらによるDNA二重らせんの発見、そして1980年代に構想されて1990年から実際に着手された、人間のもつDNAの遺伝情報をすべて解析するヒトゲノム計画へ。

             

            私の学生時代にはドーキンスの「利己的な遺伝子」がローレンツの「攻撃」と共に人文系学生必読の書でしたが、いっぽうでゲノムに関してはまだ言葉そのものが普及し始めたばかりで、「ヒトゲノム計画が始まって人間の遺伝情報が解析されたらこれからすごいことになるかもしれない」段階でした。

             

            著者の高橋祥子さんは1988年生まれ。

             

            物心ついたときにはヒトゲノム計画が始まっており、ご本人も書いておられるように中学卒業の頃にはすでにヒトゲノムの解析が終了(2003年)。2006年に京都大学農学部に入学する頃には、パーソナルコンピュータの処理速度が飛躍的に上がってインターネットが広く普及し、ヒトゲノムに関する膨大なデータが国家プロジェクトで使われるような巨大コンピュータではなく、アマゾン、グーグルなどのクラウド環境に蓄積されて利用される素地が整いつつありました。

             

            国際プロジェクトだったヒトゲノム計画で人間1人のヒトゲノムを解析するために必要だった年数は10年以上、費用は3500億円もかかっていますが、解析機器の登場により解析スピードが向上し、現在では1人分のゲノム解析が10万円以下でできるようになりました。将来的には1人あたり1万円程度、しかも一瞬でゲノム解析ができるようになるといいます。

             

            まさに長足の進歩ですが、問題はこうして一般庶民に手の届くコストになったゲノム技術で、これからの科学が何をしていくか、ということです。

             

            ■「私のすべてがデータ化されていく」

            2013年、女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、ゲノム解析の結果をふまえて乳房を切除し、その後卵巣も摘出しました。

             

            アンジェリーナさんがこの手術を受けたのはBRCA1という遺伝子に変異があることがわかったからで、この変異により白人女性では障害に乳がんになる確率が87%、卵巣がんになる確率が50%であるといいます。

             

            著者はこの例を、遺伝子情報の特許によって解析料金が高額になっている、という文脈の中で引用しており、結果として切除手術が正しい選択かどうか、ではなく、どれだけ多くの人がこの検査を受けられる価格になるか、という点に力点を置きます。

             

            また、著者が経営する会社でのゲノム解析サービスで、遺伝子情報に基づいた300種類以上の特定の病気になる確率や体質を知らせると同時に、ヤフー株式会社と提携して500問のアンケートを実施し、身長や体重、既往症、年収、一人暮らし歴、性格などを調べてデータ化し、遺伝子との関連を探っていくという意欲的な試みを語ります。

             

            このようなゲノム関連のデータ収集は世界的な潮流になっており、2016年には南カリフォルニア大学の研究チームが約30万人を対象にした解析により、学業成績に関係する遺伝子解析情報を発表しているそうです。

             

            また、2015年にアップル社が始めたiphoneやアップルウォッチで採取した健康や運動に関するデータを研究者に自動的に送信するシステムや、その他のアプリで集められたデータが遺伝子解析応報と結びついたら、更にどのゲノムが特定の病気に関連しているのかがわかるようになる、つまりビッグデータとゲノム解析データの結合により、「私」全体がデータ化され、解析されることが可能になるというのです。

             

            ■「私」の行動ビッグデータと遺伝子ビッグデータが結びつくとき

            ここまできたら次の段階で何が起こるのか? という象徴的な出来事が本書で紹介されています。

             

            2015年、中国の研究チームがヒトの受精卵にゲノム編集をした、という研究事例です。

             

            この事例発表により研究チームは世界中から非難されたといいますが、その後も中国から同様の事例が2件あり、2017年にはアメリカでも同様の実験を行ったといいます(受精卵は受精1週間後まで正常に細胞分裂をすることが確認されてから破棄)。

             

            受精卵の遺伝子情報操作については、「どのような悪影響が生じるのか未知数な中、生殖細胞や受精卵にゲノム編集するのは無責任ではないか、というのが多くの研究者の見解です」と著者は語りますが、「テクノロジーの登場によって不可能だったことが可能になり、想像でしかなかった出来事が現実のものになるかもしれない事例でもあります」と続けます。

             

            私がこれで思い出したのは、ウォール・ストリート・ジャーナルのこの記事です。

             

            独立運動が沈静化しない中国ウィグル自治区では、至るところに監視カメラが設置され、個人の行動がすべて特定されます。これらのデータは個人を特定するビッグデータとなり、個人のプライバシーや行動の自由は存在しません。

             

            ここまで極端でなくても、スマホのGPS機能やSNS情報、ショッピング情報などにより、現在、世界中の人々の行動や性向もデータ化され日々、蓄積されています。

             

            ゲノム情報のクラウド保存先二大大手がアマゾンとグーグルという事実に象徴されるように、「遺伝子の一本釣りから底引き網漁法へ」変化するゲノム解析ビッグデータが、行動や性向情報の行動ビッグデータと結びついたとき、私たちが庶民がこれまで経験してきた「匿名性」の世界は音をたてて一挙に崩れ落ちることでしょう。

             

            ■テクノロジーの進化に歩を合わせた生命科学倫理の議論を

            著者が繰り返し語るように、テクノロジーの進化は誰にも止めることができません。技術には進化するという本質があるからです。

             

            しかし、著者が「サイエンスは、私にとって純粋で崇高なものに該当します」と書くと同様に、著者より少しだけ長く生きてきた私のような者には、純粋で崇高なはずのサイエンスが濫用されたことによって引き起こされた悲劇の数々も頭を離れません。

             

            折しも、昨日、親族のクリスマス会でいろいろな話をした際、来年シンガポール国立大学に入学することが決まっている甥っ子が、生命科学を専攻したいので願書を出している、と嬉しそうな顔で話をしてくれました。

             

            著者をはじめ、科学の未来を信じて疑わない若い人たちの希望が絶望に変わらないよう、テクノロジーの進化スピードに負けない、国を超えた生命科学倫理の早急な議論とノーム構築が必要とされています。

            | 後藤百合子 | グローバル社会と宗教 | 18:09 | - | - |
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