ASIAN NOMAD LIFE

日本、香港、中国で生活・仕事をしてきてシンガポール在住7年目。
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    「やり抜く力(グリット)」に関する考察(後編)〜「やり抜く」薬をみんな飲んだなら
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      JUGEMテーマ:幸せなお金と時間の使い方

       

      <前編>はこちら

       

       

      ■「やり抜く力」は脳の機能の働きで決まる?

      「やり抜く力」はどこから出てくるのか、という疑問を再認識させてくれたのが、最近読んだこの本です。

       

      ADHDとアスペルガー両方の発達障害をもち、漫画家、作家、コメンテーター、歌手とマルチに活躍するさかもと未明さんと主治医の共著であるこの本では、さかもとさんがこれまで辿ってこられた人生の成功と挫折を語り、それを主治医の星野医師が医学的に解説する、という形をとっています。

       

      さかもとさんは、まったく勉強しないのに小学校で転校してから中学卒業までは100点しか取ったことがない、という非常に高い知能を生まれつきもった方で、教科書などを映像的にすべて記憶してしまう、教室にいる全員の話していることがすべ耳に入ってしまう、といった自閉症に時折みられるサヴァン症候群の傾向も併せもっています。

       

      「空気が読めず人とのコミュニケーションが苦手」「自分のこだわりにとことんこだわる」というアスペルガー症候群に特徴的な性向と人並み外れた集中力で、漫画家、作家、歌手、ホステス、画家と短期間にプロとして成功するにもかかわらず、一定期間がたつと次の興味対象にすっかり夢中になってしまうのは、多動傾向のADHDの特徴といっていいでしょう。

       

      しかし、さかもとさんは何事にものめり込みすぎる過集中と、周囲の人々とのコミュニケーションが円滑にできないために鬱状態やアルコール依存となり、不治の難病である膠原病を患ってしまいます。その中で救いを求めたのが星野医師との出会いでした。

       

      ■「やる気」を引き出すドーパミン促進剤メチルフェニデート

      星野医師の処方により、さかもとさんはメチルフェニデートという成分が入ったコンサータという薬を服用します。すると、「薬を出していただく前は一日四時間くらいしか起きていられなくて、体が動かなかった。薬を飲んだとたん、体がラクになって元気に動くようになり、意識もはっきりしてきた。脳内の物質がこんなにも体を支配しているなんて、びっくりしました」というほど劇的に症状が改善します。

       

      メチルフェニデートという成分は神経伝達物質ドーパミンの働きを促進する効果をもち、「やる気」や「幸福感」を誘引します。逆にドーパミンが不足するとやる気がなくなったり、無気力になったり、抑うつ状態も引き起こすそうです。

       

      自然にドーパミンを増やすには運動や瞑想などが効果的と言われますが、ドーパミンを持続させる作用で最も効き目が劇的なのは覚せい剤やコカインなどの麻薬だそうです。

       

      実際、メチルフェニデートの一種であるリタリンという薬は、「合法ドラッグ」として使用する人が増えてしまったため、現在は厳しい規制の対象になっています。

       

      覚せい剤が戦時下の日本で特攻隊員に与えられたのは有名な話ですし、コカインはハリウッドスターやウォールストリートのビジネスマンなど、強いプレッシャーに晒される職業の人に常用されることが多いようです。彼らはもともと「やり抜く力」が強かったためにスターや一流のビジネスマンになったのだと思いますが、その集中力ややり抜く力を維持して成功し続けるため、「情熱」や「たゆまぬ努力」を人工的に再現できる麻薬に溺れてしまうのではないでしょうか?

       

      逆に言えば、「やり抜く力」を人生の全期間において維持し続けるのは、大変困難なことと言えるのだと思います。

       

      ■なろうとして、なれない時

      尼崎連続変死事件は、殺人や行方不明など10数人に及ぶ被害者を出した恐ろしい事件でしたが、この本によれば、主犯の故角田容疑者は長年にわたり覚せい剤を常用していたといいます。

       

      角田容疑者が亡くなってしまった現在では、何のために彼女がこのような事をしたのか、どうしてここまで非道な犯罪を続けられたのか、答えられる人はいません。しかし、この事件はある意味、麻薬によって人工的に作り出された「やり抜く力」が強すぎるまま継続すると、通常の人間の想像力を超えた、恐ろしい領域に入ってしまう可能性があるということを示唆しているのではないかと思います。

       

      私が尊敬する上林順一郎牧師(現日本キリスト教団江古田教会牧師)の著作に、『なろうとして、なれない時』という説教集があります。

       

      この本で上林牧師は、どんなにしなくてはいけない、ならなくてはいけない、と思っても、願っても、できない時がある。人間は不完全で弱い存在であるけれど、神様はその、ありのままのあなたを受け入れてくれる、と繰り返し語ります。

       

      「やり抜く力」は確かに大切には違いありません。

       

      しかし、やり抜きたいと思ってもできない、情熱や努力が続かない、といつも嘆いて自己嫌悪に陥ったり、最悪の場合は麻薬にすがってしまったら、自分自身を滅ぼすばかりか、最愛の人たちまで傷つけることになります。

       

      やり抜けないとき、情熱がもてないとき、努力できないとき、そういうときこそ、「人間だから」と開き直り、次にできるようになるまで自分自身を甘やかし、励ましていく力もまた、私たちの人生にとって「成功」以上に大切なものではないでしょうか。

       

      | 後藤百合子 | グローバルビジネスと人材 | 12:37 | - | - |
      「やり抜く力(グリット)」に関する考察(前編)〜成功に並外れた才能は要らない
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        ■生まれついた才能ではなく、「やり抜く力」が決める人生の成功

        話題作『やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける 』は、スポーツやビジネスなどでずば抜けた業績を残すには、IQや生まれつきの運動能力ではなく「やり抜く力」が最も重要だ、ということを心理学の分野から証明した著作です。

         

        こちらはTEDで著者のアンジェラ・ダックワース博士が話している映像ですが、上掲の著書のハイライトであり、このプレゼンテーションの中でも語られている一つのエピソードがあります。

         

        それはアメリカの士官候補生が受ける「ビースト」と呼ばれる過酷な訓練の結果、どんな人が脱落するかを追跡した調査結果です。

         

        博士は全国から選りすぐられた1,218名の志願者たちに「グリット」を測定するテストを実施。訓練最終日までに71名の脱落者が出ましたが、グリット・スコアをチェックしてみると脱落者は相対的にスコアが低かったそうです。これはその年だけでなく、翌年も同じでした。逆に、学力、体力、適性など総合評価スコアについては、脱落者と完遂者に差異はほとんど見られなかったといいます。

         

        これ以外にも、リゾート会員権販売会社の営業職の男女を対象にした調査で、グリット・スコアの高い人は半年後にも辞めずに残っており、公立高校2年生対象の調査では、中退せず卒業した生徒のグリット・スコアが相対的に高かったという結果が紹介されています。

         

        さらに、アメリカ人を対象とした大規模調査では、大学院の学位を取得した人は4年生大学卒業の人よりも「やり抜く力」が強く、4年生大学を卒業した人は、学位を取得していない人に比べて「やり抜く力」が強いことがわかったそうです。

         

        つまり、学業や仕事などの成功にはすべて、このグリット、「やり抜く力」が密接に関わっており、生まれつきIQ、体力、容姿などに恵まれて高い評価を受けている人でも、最終的な成功にはグリットの力が必要不可欠だというのです。

         

        ■やり続ければ誰でも成功できる。

        ダックワース博士の理論は、コラムニストのマルコム・グラッドウェル氏が提唱する「100万時間の法則」でも裏打ちされています。

         

        このインタビュー記事でグラッドウェル氏は、1万時間の練習さえすれば誰でもプロになれる、と語ります。「好きこそものの上手なれ」と言いますが、プロスポーツ選手やオリンピック選手が長時間、長期にわたる厳しい練習に耐えて大きな成果を出していくのは常識ですし、上記の調査にもあるように、アメリカの大学や大学院を卒業して学位を取るには大変な勉強量をこなさなければならない、というのは留学経験者からよく聞く話です。

         

        また、経営者として事業の成功をめざすときの絶対条件は「決して途中でやめない」ことです。

         

        新たに始めた事業から途中で撤退してしまったら永遠に成功しませんが、失敗を重ねながらも試行錯誤してあきらめず、最後までやり抜けば、多くの場合成功に至ります。これもある種の「グリット」と言えるでしょう。

         

        ■「やり抜く力」も生まれつき備わった能力では? という疑問

        「人間は自分の持っている能力をほとんど使わずに暮らしている。さまざまな潜在能力があるにもかかわらず、ことごとく生かせていない。自分の能力の限界に挑戦することもなく、適当なところで満足してしまう」

         

        『やり抜く力 GRIT』で著者が紹介するのは、プラグマティズムの哲学者、ウィリアム・ジェームズの言葉です。文字通りに読めば、グリットさえ伸ばせばだれでも潜在能力を引き出せるように聞こえますが、水を差すように次の引用が続きます。

         

        「人間は誰でもはかり知れない能力を持っているが、その能力を存分に生かし切ることができるのは、ごくひとにぎりの並外れた人びとにすぎない」

         

        私自身も20年近い経営者という仕事の中で、いろいろな人を見てきました。

         

        その経験の中で、ダックワース博士の研究を待つまでもなく、伸びる社員というのは、グリットの高い社員、どんなにつらくてもやり抜く力をもっている社員だということが自然に理解できました。

         

        兎と亀のたとえではないですが、IQや学力、適性がそれほど高くなくても、仕事に打ちこみ、失敗しながらもこつこつとすべきことをし続けていると、いつの間にか、当たり前のように以前はできなかった仕事ができるようになっている人がいます。

         

        逆に、とても器用で最初から楽々と仕事をこなせても、途中で飽きてしまったり熱意がなくなり、手を抜くようになってしまう人もいます。その結果、亀社員に次々と抜かれていき、最後には本人が面白くなくなって辞めてしまうケースもありました。まさに、グリットに不可欠な「情熱」と「粘り強さ」が欠落した場合の典型例です。

         

        しかし、彼らも決して最初からそうだったわけではありません。自分でも気づかないうちに、時間の流れとともに「情熱」が失われてしまい、「粘り強さ」もなくなってしまうのです。それを取り戻さなければならない、と頭ではわかっていても、実際にはできない。いっぽう、亀社員はそんなことはまったく考えずに、黙々と「情熱」と「粘り強さ」をもって仕事を続けます。

         

        「仕事を好きと思えるかどうか」という適性の問題も全くないとは言えませんが、このように人によりはっきりと結果が出てくるのを見ていて、「やり抜く力」(当時は「努力できる能力」と呼んでいました)もまた、IQや運動能力と同じく、各人が生まれもったものではないかと強く感じました。 

         

        後編>へ続く。

         

        | 後藤百合子 | グローバルビジネスと人材 | 12:28 | - | - |
        「販売員の接客は超高級店だけ」な時代の到来!?
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          JUGEMテーマ:経営のヒントとなるニュースを読み解く

           

          4/22付の日経新聞電子版に、日経新聞とフィナンシャル・タイムズ紙の共同調査結果として、「ロボットと仕事競えますか 日本は5割代替、主要国最大 」という記事が掲載されました。

           

          これまでも今後ロボットやAIに置き換えられると予測される職業に関する記事は散見されましたが、この記事では職種ごとに「置き換え可能」と「置き換え不可能」な業務内容が細かく記述されており非常に具体的です。

           

          また、「日本はロボットの導入余地が主要国の中で最も大きいことが明らかになった。マッキンゼーの試算では自動化が可能な業務の割合は日本が55%で、米国の46%、欧州の47%を上回る。農業や製造業など人手に頼る職業の比重が大きい中国(51%)やインド(52%)をも上回る結果となった。」と、かなりショッキングな調査結果も紹介されています。

           

          今回の共同調査の結果開発されたというツールをさっそく見てみました。さまざまな職種が選べるようになっていますが、現在、人手不足が深刻な職種の一つ「小売販売員」を選んでみると、約半数の48.4%の業務がロボットで代替できるとされています。

           

          <代替できる業務>

          販売その他の取引を処理する

          販売その他の商取引の記録を維持管理する

          販売その他の金融取引の記録を照合する

          製品やサービスのコストを計算する

          営業窓口などの連絡先を用意する

          商品展示台を設置する

          顧客ニーズを判断するために顧客情報や製品情報を収集する

          作業エリアを清掃する

          建物や商品の状態を調べる

          商品や部品を仕入れる

          顧客から商品注文を取る

          販売その他の取引の正確性を評価する

          商品や物資の在庫を購入する

          商品・サービスの配達を手配する

          顧客の信用情報を照合する

           

          <代替できない業務>

          技術的な商品・サービス情報を顧客に説明する

          商品やサービスを販売する

          商品やサービスに関する顧客の質問に答える

          顧客や得意客、ビジターにあいさつする

          製品やサービスの利用について顧客に助言する

          お金を支給したり、クレジットやバウチャーを発行したりする

          消費者に商品の特徴を説明する

          顧客にサービスや製品を推奨する

          安全を確保するために作業エリアを監視する

          製品や資材の在庫を監視する

          販売員を訓練する

          販売のコストや条件を見積もる

          販売活動を監視する

          顧客に金融情報を説明する

          セールス・サポート人員を監督する

          専門知識を維持するために法律や規制を学ぶ

           

          ロボットに置き換わる可能性があるのは、売り上げ処理や記録の維持管理など経理事務的作業、売り場のチェックや作業台の設置など物理的な売り場管理・設営作業、注文受付から発注・納品までの業務処理作業など、顧客との関りがないかほとんどない、バックヤードの仕事が大部分を占めます。

           

          反対に置き換わらないものは、実際に顧客に商品知識を伝えたり、最適と思われる製品を勧めたりという営業業務と、販売員の訓練や監視などのスタッフ管理業務で、どちらも「人に関わる」業務であるのが特徴です。

           

          しかし、例えば、Amazonを見ればわかるように、オンラインショッピングでは商品説明や顧客へ商品を勧める作業がほぼ自動化されていますし、店頭でもQRコードを使って商品説明を行うサービスも今や珍しくありません。また、店頭で販売員が顧客とコミュニケーションをとりながら顧客の欲しい商品を探す、という業務も、Pepperのような対人専門に開発されたロボットを使えば、下手に商品知識のない店員を配置するよりずっと売り上げ効率が高まるでしょう。

           

          もちろん、レジでの会計は自分で行ってもらうことになりますが、これもICタグとスマホ決済を組み合わせれば、自分で商品を袋に入れるだけで何もせずにそのお店を去ることも可能です。

           

          そう考えていくと、「代替できない業務」に分類されている業務もほとんどがロボットに置き換え可能になり、唯一残った「管理・監督」業務も、将来的には複数の店舗を集中管理室で同時に管理する(一部ロボットに監視させる)のも夢物語ではなくなりそうです。

           

          ユニクロを展開するファーストリテイリングは今後AIに集中的に投資していくことを発表しましたが、できるだけコストを下げて商品を販売するためには今後このような取り組みが不可欠になっていくでしょう。また、副次的な効果として「ブラック企業」評価など雇用に関するさまざまな問題も解決できることが期待されます。

           

          先進国の消費の多くは、「必要商品」ではなく「満足消費」です。人は「買う」という行為に対して満足を求めます。そして満足を支える一つの要素は販売員による接客です。

           

          ロボット接客が当たり前になってしまえば、生きている人間が接客をしてくれる店はそれ自体が差別化戦略となり、価格に上乗せできる付加価値をもつサービスとなるかもしれません。

           

          実際に、外食チェーン店などでは、ホールには店長が一人いるだけで、注文はテーブルで客が入力、配膳はコンベアーやパートの女性がカートで運んでくる、などといったお店が珍しくなくなっています。

           

          私たち日本人はずいぶん長い間「お客様は神様」の接客を当たり前と考えてきましたが、ごく一部の高級店でしか「生身の人間が接客してくれる」というサービスが受けられない時代が、もうそこまできているのかもしれません。

          | 後藤百合子 | グローバルビジネスと人材 | 15:29 | - | - |
          書評:「プライベートバンカー カネ守りと新富裕層」〜シンガポールの中の日本
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            JUGEMテーマ:シンガポール

             

            ■日本人の口座開設に厳しい目を光らせるシンガポールの銀行

            昨年夏、ちょうどこのドキュメンタリー小説(実名で登場する人もいますし、ほぼノンフィクション。文体は小説タッチ)が出版された頃、シンガポールの地元銀行で新しく銀行口座を開きました。

             

            これまでも個人用や会社用にいくつも銀行口座を開いてきましたが、初めて「私はアメリカ合衆国市民権やグリーンカードをもっていない」という宣誓書(もっているとシンガポールで発生した所得に対しアメリカ合衆国政府に納税義務がある)以外に、「日本に住所を有さず1年の半分以上シンガポールに在住している」旨の書類にもサインさせられました。

             

            私は日本に住民票がないのでマイナンバーをもっていませんが、もし持っていたら今後はその書類に番号も書かされることになるでしょう。

             

            本書には、日本とシンガポールの国税局が2010年に租税協定を改正し情報交換制度を確立した、と書かれています。その成果がこの文書であり、シンガポールで新しく銀行口座を開く日本人、国税局の視点では、日本から不正に海外へ資金を持ち出そうとする可能性のある個人を捕捉するためのものであることがわかります。

             

            また、以前は「投資家ビザ」と呼ばれる、シンガポールで百万ドル(当時のレートで6千5百万円くらい)を投資すれば簡単に滞在許可をもらえる時代もありましたが、現在では投資金額も2.5百万ドル(日本円で約2億円)に上がった他、3年にわたる自分の会社の財務資料の提出、その間の売り上げが年間40億円以上等々の厳しい条件があり、本書に出てくる節税目的でシンガポールに移住した方々の一部には要件に当てはまらなそうな方もいらっしゃいました。

             

            その意味で、本書が描写する「究極のタックスヘイブン、シンガポール」という状況はすでにだいぶ様変わりしているのではないでしょうか(実際、主人公のプライベートバンカー杉山氏は「もうシンガポールで学ぶものはない」と2013年に日本に帰国しています)。

             

            ですので、これからシンガポールに節税目的で移住しようという方々にはあまり参考にならないかもしれません。

             

            ■「お金」目的でシンガポールに移住してきた富裕層

            それにしても違和感をもったのは、本書に登場する人々のほとんどが、シンガポールに定住する日本人(2015年時点で約37,000人)コミュニティーの中のみで暮らしているという事実です。

             

            シンガポールには私のようにシンガポール人やその他の外国人配偶者をもつ日本人が多く、恐らく千人単位の方が暮らしていると思われます。しかし、そのほとんどは、個人的な繋がりで他の日本人とコンタクトをもっていることはあっても、生活の基盤はあくまでもシンガポールであって、シンガポール人やその他の外国人との関わりは不可避です。

             

            これは欧米でもかなり一般的な状況で、例えばアメリカやヨーロッパ諸国などで働いたり、日本の会社から派遣されて駐在されたりしていても、会社の同僚や地域コミュニティーなど、ある程度までは現地の人々に溶け込んでいる方がほとんどだと思います。

             

            ですので、本書に出てくるようにシンガポール人やその他の外国人とは仕事や生活でほとんど関わりをもたず、日本人社会の中ですべてが完結している様子には驚くとともに、「お金」だけが目的で海外に移住すると生活はこうなるのだ、という姿をまざまざと見せつけられた気がしました。

             

            ■タックス・ヘイブンへの道

            シンガポールで、当時のレートで約6千5百万円程度を持ち込めば比較的簡単に永住権が取れる、という政策(Financial Investor Scheme)が始まったのは、2004年、ゴー・チョクトン氏に続き、現首相のリー・シェンロン氏が首相兼財務省に就任した年。垂涎の的の米グリーンカードと違い、随分簡単だな、と感じた記憶があります。

             

            それに先立つこと13年前、私が初めてシンガポールを訪れたのは1991年でした。

             

            東南アジア随一の大都会とはいえ、まだまだのんびりとした牧歌的な空気が漂うシンガポールは香港、台湾、韓国と並び「アジア四小龍」と呼ばれていました。めざましい経済成長が世界的な注目を集めていましたが、いっぽう、その1年前に訪れた香港の、誰もが小走りで走り、世界中から集まった外国人が闊歩する雑然とした雰囲気に比べると、南国特有のゆったりした時間が流れていたのです。

             

            おりしも1992年の小平の南巡講和の直前。これをきっかけに、中国、ひいては中国の来料加工貿易の中継地となった香港は飛躍的な成長を遂げます。ここから中国返還の97年までの香港発展には、間近で見ていて質・量ともに凄まじいものがありました。

             

            いっぽうのシンガポール経済は右肩上がりではあったものの、同時期の香港に比べると成長のスピードは緩やかで、1997年のアジア通貨危機の際には15%もGDPが下落。2000年代に入っても経済は低迷しました。

             

            これに追い打ちをかけるように2003年にはSARSが大流行。観光客やビジネス客が激減する中、シンガポール国民でさえも感染を恐れて家から出ないようになり、ショッピングセンターやレストランから人が消えるという深刻な事態に陥ったのです(私が夫と結婚したのは2001年。SARS騒ぎの時にはマンション価格も暴落したので、今でも「あの時マンション買っておけばもっと都心に住めたね」と話をすることがあります)。

             

            ライバルの香港に大きく水をあけられ、SARSで国内が混乱する中、起死回生の策として出されたのが、富裕層の取り込み→シンガポールへの投資促進案であったのではないかと私は考えています。シンガポールには香港と同じくキャピタルゲインやインカムゲイン課税はありませんでしたが(日本も89年までありませんでした)、2008年には相続税を廃止。世界各地からの富裕層の流入を促進し、彼らが持ってくるお金により、シンガポール経済を再生しようとしたのです。

             

            政府の思惑通りここを境にシンガポールのGDPは急ピッチで拡大し、ついに2010年、香港のGDPも抜くことになります。私はその前年の2009年から家探しなどでシンガポールを頻繁に訪問していましたが、ちょうどこのあたりからシンガポールが人も街も非常に変わってきたという実感があります。

             

            本書に登場する方々の多くは、その前後にシンガポールに移住された方なのではないでしょうか。

             

            ■「社会とのつながりを持たずに生きて、それで幸せなのだろうか。」

            彼らの多くは、遺産相続やキャピタルゲインの節税のためにシンガポールに住み、人と交わることもなく、無聊をかこっています。大金を手にして新たに事業に挑戦する気も起きず、ただただ日々を過ごすだけの「あがり」の人々に対し、著者やまだ若く現役の登場人物は同情の念を隠せません。

             

            暮らしのレベルや年齢が違うので、彼女たちと富裕層では比較にもならないが、咲子や佐藤が経験的に気づいたことがある。それは、税金を逃れてきた日本人で幸せになったという話はあまり聞かないことだ。(中略) 咲子は「あがり」の富裕層で家庭円満な人をほとんど見たことがない。(中略) 仕事、目標、友人ーー。新富裕層の溜息は、それらが欠ければ異国で生きるのは辛いことを教えている。

             

            彼らとはまったく逆に、咲子さんや佐藤さんという若い女性たちは、独立起業したり、英語ブログで発信を続けて有名になったりと、ローカルコミュニティの中で確実に地歩を固めていきます。また、主人公の杉山さんも、ヘッドハンティングされて日本人上司との関係を断ち、シンガポール人やその他の外国人たちとより広い人間関係をもつことによりプライベートバンカーとして成長していくのです。

             

            また同じく、実名で登場するトレーダーの阿部さんは、2013年放送のNHKスペシャルにも出演されていましたが、シンガポールのフェラーリ愛好家グループに参加し、たくましくコミュニティーに溶け込んでいる様子がわかります。

             

            本書によると「永住権をとらないか」と阿部さんにもちかけたのはシンガポール政府金融局であり、期待を裏切らず腕利きの投資家として活躍されているのです。

            能力のある人間はしばしば人と違う金儲けや遊びをする。そうした異能と突出した人材を祖国はなかなか認めないが、シンガポールは逆に歓迎した。当地には阿部のようなトレーダー関係者が十数人も流入しているという。

            かくして、人材とカネ、そして税収は日本からオフショアへと流れる。

             

            日本の厳しい税制を逃れるため、何不自由なく、無為徒食で異国の毎日を過ごす「あがり」の人々と、自身の可能性に賭け、日本にはないチャンスを掴もうと同じ異国で孤軍奮闘する人々。

             

            自国という括りから解き放たれたときこそ、人は自分が一番生きたいと思う人生を生きる、ということを本書は伝えようとしているのかもしれません。

             

            | 後藤百合子 | 書評 | 01:47 | - | - |
            Japanブランド海外進出の死角
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              JUGEMテーマ:海外進出

               

               

              先週末のイースター3連休、義父母も一緒にマレーシア有数の観光地、マラッカに家族旅行をしてきました。

               

              マラッカはマレーシアの首都クアラルンプールから約150辧ポルトガル、オランダ、イギリスの植民地として文化的影響を受けた歴史をもち、ペナンと並び華人が多いことでも知られます。フランシスコ・ザビエル教会などエキゾチックな街並みが評価されて2008年にユネスコ文化遺産に指定されて以来、マレーシアを代表する観光地にもなっています。

               

              我が家では6年前に初めてマラッカ旅行をしてからいたく気に入り、年に一度は必ず訪れています。特にマレー半島に古くから住みつく華人が作ったパラナカン文化の華、パラナカン料理が食べたくなると「この週末に行こう!」とさっと車で向かいます。さしずめ東京人が伊豆半島に行くような感覚です。

               

              ■「北海道ベイクドチーズタルト」は日本ブランド?

              マラッカ市街は近年再開発の動きが著しく、毎年訪れるたびに新しいマンションや商業ブロック、ホテルやお店などが雨後のタケノコのようにできています。昔ながらののんびりしたマラッカもよかったのですが、新しくオープンしたお洒落なお店を見てまわるのも楽しみの一つです。

               

              そんなマラッカに今年は新しくチーズタルトのお店が2店オープンしていました。

               

              1店はマラッカ屈指の観光街”ジョンカーストリート”入口のお土産屋さんの店頭に、もう1店はマコタ・パレードという大きなショッピングモールの1Fです。

               

              商品は一種類、一口サイズのチーズタルトのみ。ずらっと並べられたおいしそうなチーズタルトに、「あれ、これってひょっとしたら日本の会社のお菓子じゃない?」と思い至りました。

               

              日本でお洒落なチーズタルト店が全国展開していて話題になっている、という話は数年前から聞いていましたし、「Hokkaido Baked Cheese Tart」と北海道が店の名前についている他、パッケージにも日本語で「ベイクチーズタルト」とあります。特にマコタ・パレードはタミヤやファイテン、エドウィンなど日本のブランドを以前からテナントとして多く迎えていたので、次は食品ブランドも進出か、と嬉しく思ったのです。

               

              ところが、ホテルに戻ってネットで調べてみても、このお店が日本ブランドであることを証明するサイトがみつかりません。逆に、私が「このブランドでは?」と勘違いをしていた日本の本家「BAKE Cheese Tart」はシンガポールやタイには出店しているもののマレーシアには店舗がありません。「Hokkaido Baked Cheese Tart」のホームページを見ても会社情報はまったくありませんし、いったいこの会社の正体は何だろうと訝っていたときに、この記事を見つけました。

               

              ■実はマレーシア企業だった「Hokkaido Baked Cheese Tart」

              記事によると「Hokkaido Baked Cheese Tart」の運営母体はマレーシアのSecret Recipeという会社。

               

              もともとケーキメインのカジュアルフードレストランとしてマ東南アジア全域で展開しており、マレーシア最大のカフェチェーンでもあるそうです。そして「Hokkaido Baked Cheese Tart」の店舗は2016年10月時点ではマレーシアに11店舗、シンガポールに2店舗、インドネシアの1店舗となっていました。

               

              記事中でも商品のみならずパッケージもそっくりなためコピーキャットではないかと疑念を呈していますが、本家の「BAKE」が進出していないマレーシアでの躍進ぶりはすさまじく、現在は46店舗とわずか半年の間に4倍以上に店舗数を拡大。シンガポールでは1店舗増やしたのみですが、インドネシア、ブルネイと、やはり本家が出店していない国に進出した他、タイ、上海にも本家を追うように出店済みです。

               

              そして昨年末にはアジアを飛び出してオセアニアにはばたき、現在はオーストラリアに8店舗、ニュージーランドにも進出予定だそう。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの出店攻勢と言えるでしょう。

               

              オーストラリアのHokkaido Baked Cheese TartのHPによれば、

              Inspired by the distinct cheesy taste of Hokkaido dairy, and using a traditional recipe from Japan’s dairy heartland, it is not surprising that the famed ‘Hokkaido Baked Cheese Tart’ has been a huge hit throughout Asia having successfully launched in Shanghai, Singapore, Indonesia, Brunei, and Malaysia. After tireless taste testing using local ingredients, the Hokkaido Baked Cheese Tart has succeeded in recreating a Hokkaido cheese flavour perfectly.

              北海道酪農独特のチーズの味にインスパイアされ、日本酪農の中心地の伝統的なレシピを使いつつ、高い評価を受けた「Hokkaido Baked Cheese Tart」は上海、シンガポール、インドネシア、ブルネイ、マレーシアとアジア全体で大きな成功をおさめてきました。地場の素材を何とか使おうという地道な努力により、「Hokkaido Baked Cheese Tart」は北海道のチーズのフレーバーを完璧に再現することに成功しました。

              まるで北海道を発祥の地とする本家「BAKE」を挑発するような文章で、コピーキャットにもかかわらず、あまりにも堂々とした態度に逆にあっぱれ感すら感じられます。

               

              ■コピーキャットに先を越された「BAKE」

              この間、本家の「BAKE」も決して指をくわえてライバルの動きを見ていたわけではありません。

               

              日本では有名デパートなどを中心に14店舗しか出店していないいっぽう、現時点で海外店舗は韓国、香港、タイ、シンガポール、台湾、中国に18店舗。着々と海外展開の歩を進めている他、商品の品質保持にもぬかりはなく、上述の記事中でも「BAKE」のほうがチーズが滑らかで美味しい、と高評価を受けています。

               

              しかし、新興国のマーケットでは両者の製品の約20%の価格差は大きく、また、市場シェアやブランド力を比べたら現時点では圧倒的に後発の「Hokkaido Baked Cheese Tart」に成功の軍配は上がるでしょう。

               

              しかも、「Hokkaido Baked Cheese Tart」は「BAKE」がまだ出店していない国々にも積極的に出店していることから、今後、「BAKE」が新たにそれらの国に出店しようとしても、今度は「後発ブランドで高価である」という二重の弱みを克服していかなければならないのです。

               

              そのような状況を総合的に判断すると、今後の「BAKE」の海外展開の要はいかに本家としてのブランドイメージを高め、「Hokkaido Baked Cheese Tart」とは一線を画したオリジナル商品を投入していくかにかかっているのではないかと思われます。

               

              ■海外展開の死角

              これまでも中国に進出したものの、すぐにコピーキャットが現れてあっという間に市場を席捲されてしまい、やむなく撤退したという苦い経験をもつ日本企業は少なくないと思います。

               

              一部の中国企業のように商号や商品をそっくりそのまま模倣するようなただのコピー商法は論外ですが、今回の「Hokkaido Baked Cheese Tart」のような場合は著作権や商標権で取り締まれるような種類のものではなく、マネをされても法的手段に訴えることはまず不可能でしょう。

               

              さらに恐ろしいのは、地元企業であるという強みを活かして短期間のうちに一斉に出店してシェアを押さえ、あたかもコピーのほうが元祖である、というようなイメージを作り上げられてしまうことです。(ブランド名に「Hokkaido」が入っていたりパッケージに日本語が入っていたりすることにより、消費者のブランド信認度は元祖より恐らく高いと思われます)

               

              せっかく苦労して商品やブランド作りを行い、満を持して海外進出を始めた道半ばでこのような被害にあってはたまりません。

               

              それを未然に防止するためには、とにかくスピード感をもった販売戦略をたてて実践すること、もしくはニッチに特化して他社に簡単にマネできない商品や販路を作ること以外にないのではないかと思います。

               

              日本式ビジネスの美徳である「じっくり」「着実に」「堅実に」のモットーが、海外展開では却って足元をすくわれる弱点になりかねない、ということを忘れるべきではないと思います。

              | 後藤百合子 | グローバルビジネスと人材 | 19:38 | - | - |
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