ASIAN NOMAD LIFE

日本、香港、中国で生活・仕事をしてきてシンガポール在住8年目。
「民族混在」公団住宅政策で老後の不安がなくなったシンガポール
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    JUGEMテーマ:シンガポール
    今年独立50周年を迎えるシンガポールでは、現在、国立博物館で「シンガポール700年」記念展示を行っています。先週末、日本から友人が訪問してくれたのを好機に見に行ってきました。
     
    ■独立までの道程
    14世紀までのシンガポールはマレー半島の先端、ジョホールに隣接する「テマセック」というひなびた漁村で、マレー系の小さな部族の王たちが統治してきました。いっぽうで地理的要因からさまざまな国の船が寄港する土地だったようです。
     
    ラッフルズ卿が上陸してイギリスの植民地支配が始まるのが1819年。「シンガポール」となり人口が急増。東南アジア地域におけるイギリス植民地経営の要所となります。コロニアル風の建造物が次々と建設され、近隣諸国のみならず中国からも多くの移民が押し寄せ、貿易港として大きく発展していきました。
     
    しかし、太平洋戦争が始まり、1942年に日本軍により陥落。「昭南島」と改名され、日本による植民地経営が始まります。イギリス植民地時代と違い日本統治時代には貧困、飢餓、衛生環境の悪化、失業などに苦しめられ、いまだにシンガポール人にとってこの時代は「暗黒時代」と認識されています。
     
    1945年に日本が降伏すると再びイギリス植民地となりましたが、東南アジア全体に独立気運が高まります。1959年にイギリスから独立。1963年にマレーシア連邦の一員となりますが、シンガポール住民の多数派である華人系の自治を求めるPAPPeoples Action Party)リーダーで、シンガポール初代首相であるリー・クアン・ユーの政治方針がマレーシア政府の逆鱗に触れ、1965年にマレーシア連邦から追放され、やむなく独立に至ったという、一風変わった建国の経緯をもつのです。
     
    ■「住」を基礎にしたシンガポール独立後の発展
    印象的だったのは、それぞれの時代、一般の人々がどんな家に住んで何を食べていたのか、という展示が非常に多かったこと。例えば、「カンポン・ハウス」と呼ばれる昔ながらの農村の家が大きな写真で紹介されていたり、独立当時の人々の食事が具体的にいくらしたかがメニュー入りで紹介されています(野菜とご飯、野菜と肉とご飯、野菜と卵とご飯の順に高くなっていくので、卵が当時いかに高級品だったかわかりました)。シンガポール人がどれだけ住と食にこだわっているかの表れだと思います。
     
    人間の生活に欠かせない条件として「衣食住」が挙げられますが、熱帯気候のシンガポールにおいて「衣」はほとんど問題になりません。逆に、「住」の問題は非常に深刻でした。1949年のイギリスの報告によるとシンガポールは「世界最悪のスラムの一つ」と指摘され、1947年の統計では1軒の家に住む人数は平均18.2人だったそうです。太平洋戦争末期の日本軍の植民地経営ではインフラ整備の余裕はとてもなく、住宅の確保はもとより衛生的な環境を保つための上下水道の整備も喫緊の課題でした。
     
    そこでシンガポール政府が設立したのがHDBHousing and Development Board)です。日本の公団住宅供給公社によく似ていますが、違うのはその規模。政府主導で低コストの高層団地を作り、全ての国民に近代的で快適な住宅を提供するというプロジェクトが大々的に始まったのです。このプログラムの強力な推進により住宅問題はほぼ解消され、一時は90%以上の国民がHDB住宅に住むようになりました(最近では富裕層が普通のマンションに住むケースも増加し比率が下がっています)。
     
    ■全国民が所有するHDB住宅
    シンガポールはアジアでは香港に次いで不動産価格が高騰していることで知られています。日本人駐在人家庭が多く住んでいるオーチャード付近のマンションなら通常、数億円はしますし、少し離れた郊外でも億ションは珍しくありません。
     
    しかし、HDB住宅となると価格は半分以下。さらに若年層や低所得者のための政府補助が非常に厚いため、シンガポール国民であればほぼ全員がHDB住宅を買うことができます。また、CPFCentral Provident Fund)という強制加入の個人年金制度があり、HDB住宅購入時にはここから頭金が使えるためローン期間が短くて済み、比較的余裕をもって返済できます。ですので、シンガポール国民はごく一部の例外を除き、全世帯がHDB住宅を所有しています。何ともうらやましい限りですが、実際、私もシンガポール人から住に対する悩みを聞いたことがありません。彼らにとって若いうちにマイホームを持つことは当たり前で、プロポーズが「HDBを申込みに行こう」という言葉だったという話も聞くほど、「結婚したら夫婦でHDB住宅を買って住む」ことはシンガポール人にとって常識なのです。
     
    HDB団地に伴って整備された「食」と「行」
    HDB団地は日本の団地と同じく、複数の棟が集まってブロックを作っていますが、その中に必ず「ウェットマーケット」と呼ばれる市場があり、「ホーカーセンター」と呼ばれる公営フードコートが併設されてます。家賃が低く抑えられているため、生鮮食品や乾物が安価に求められ、ホーカーセンターでも低価格の料理を楽しめますので、3食ここで済ませる家庭も珍しくありません。また、主食である米は、政府が販売価格を統制していて低く抑えられており、国際的に米価が上がっても高騰することはありません。
     
    「衣食住」に加え、華人がもう一つ重要とするのが「行」=交通手段です。
     
    シンガポールでは地下鉄路線が徐々に増えてきていますが、これもHDB政策に密接に関係しています。主要なHDB団地を作るときには必ずHDBハブと呼ばれるセンターを中心に配置され、ここに地下鉄の駅を作るのです。HDBハブにはショッピングセンターや図書館、公民館などの公的施設が併設されていることが多く、通勤帰りに買い物や用事をすませてから帰宅するというライフスタイルも定着しています。自分の住む棟にはさらにここからバスに乗らなくてはいけないことも多いのですが、バスは頻繁に来ますし、バス停が多いので雨が降っても傘をささずに家まで帰れる人がほとんどです。比較的小規模のHDB団地には地下鉄駅がないケースもありますが、この場合でも必ずバスルートは確保されています。さらにバスや地下鉄などの交通公共機関は政府がコントロールしており、片道50円から100円程度でどこにでも行くことができます。
     
    HDB政策により民族対立と無縁になったシンガポール
    もう一つ、シンガポールが進めてきたHDB政策で見逃してはならないのが、HDB入居者の民族混合政策です。HDB住宅に入居しようとするカップルは、複数の希望を書いて申し込みます。この中には建設中の物件や、中古で空きとなっているものも含まれます。基本的には抽選で選ばれるのですが、その際、民族別の割り当てがあるのです。
     
    もちろん民族によって住みたい場所の好みも違うので、すべてのHDB団地で人口比率と同じ民族別入居者数が守られているとはいえないのですが、華人系、マレー系、インド系などの住民が必ずミックスされて住んでいます。住人がこうですから、前述のホーカーセンターでも必ず中華系、マレー系、インド系のテナントが入っており、HDB団地で生まれた子供たちは子供の頃からいろいろな民族が混じった環境で育ち、他民族の料理も食べながら成長するのです。チャイナタウンやリトルインディアなどの観光名所はいまだに残っていても、現在もそこに暮らしている人々はごく少数で、大多数の人々はHDBで民族が入り混じったコミュニティーに暮らしています。
     
    このため、隣国のマレーシアやインドネシアで時折発生する民族同士の対立がまったくなく、この方面に余計なエネルギーを使わずに経済発展のために邁進できてきたといえると思います。
     
    ■老後に不安がないシンガポール人
    最近の調査では、シンガポール高齢者の90%が自分の老後に不安がないと答えています。アジア社会独特の親を子供が扶助する慣習が残っていることや、高齢者へのベーシックインカム政策が今年度から採用される予定であることも影響しているとは思いますが、日本をしのぐ少子高齢化社会のシンガポールでこのような結果が出た最大の要因は「住むところに不安がない」ということに尽きるのではないでしょうか。私の義父母も1970年代に建設されたHDB住宅に今も住んでおり、本人たちは「この場所で一生を終える」覚悟で暮らしているようにみえます。また、よしんば老朽化で取り壊しが決まったとしても、住民には新しいHDB住宅への無償住み替えが保証されています。メンテナンスはすべてHDBがしてくれますので、補修の心配もありません。後は月々5〜6万円程度の光熱費や食費さえ確保できれば、老後を憂う必要はないのです(医療費も政府の補助が大きく、内容も非常に充実しています)。

    ■格差社会でも不満は聞かない。
    よく知られている通りシンガポールはアジアのタックスヘイブンの1つで、貧富の格差は先進国としては非常に高く、ジニ係数は0.4を超えて香港よりも高く、アメリカに近い数字となっています。シンガポール人である夫の親戚をみていても、田園調布のような高級住宅街に豪邸を2軒も所有するアッパー富裕層に属する世帯から、築40年のHDB住宅に住み、30年以上子供たちの仕送りだけを頼りにつつましやかに暮らしている義父母のような世帯までさまざまです。

    しかし、日常生活をみる限り、富裕層も一般庶民も購買行動はほとんど変わりませんし、日本であれば「貧困層」に分類されるであろう義父母から将来の不安や生活の不満を聞いたことがありません。これはやはり「住」が政策によってしっかりと保証されており、贅沢をしなければ「食・行」を憂う必要のない社会制度に守られているからだと思います。

    ■コンパクトシティは公団住宅を核に。
    高齢化社会に突入した日本社会ではコンパクトシティ構想が注目を集めていますが、高齢者にとってワンストップで日常生活が送れる駅を中心にしたコンパクトシティはたいへん便利で暮らしやすい環境であると思います。しかし、地元の駅隣接マンションなどをみると非常に高価格で、いわゆる「富裕層」や「アッパーミドル」以外は手が届く価格でないことが現状です。

    日本でも高度経済成長期の住宅事情改善のため、公団住宅供給公社などがこれまでに開発してきた公営住宅や準公営住宅という資産が全国に散在しています。急速に増加する高齢者世帯の住宅ニーズに応え、若い世代の老後に対する不安を多少なりとも軽減するためには、シンガポールに見習い、これらの過去の資産を見直し再開発を行っていくなど、国としての住宅政策を検討し直すことが求められるのではないでしょうか。







     
    | 後藤百合子 | シンガポール社会 | 07:07 | - | - |
    シンガポールの言論の自由とは?
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      JUGEMテーマ:シンガポール
      2015年、東南アジアの小国、シンガポールは建国50周年を迎えます。
       
      カウントダウンまでの2時間半、シンガポール国内のコメディアンや人気歌手をはじめ、マレーシアの国民的歌手シティ・ヌハリザや、リー・シェン・ロン首相や文化相まで参加してのショーはトニー・タン大統領のカウントダウンで建国50周年の記念すべき年のスタートを祝いました。
       
      ■シンガポールは「明るい北朝鮮」か?
      シンガポールは「明るい北朝鮮」と揶揄されることもあるほど、建国の父リー・クアン・ユー元首相を中心に50年の歴史を刻んできた国です。現首相リー・シェン・ロン首相は息子。その他の息子や嫁も政府系企業の要職を務めてきました。いわゆる「同族国家経営」です。
       
      また、mdaMedia Development Authority)という政府の検閲機関があり、国民に有害な影響を与える出版物などの検閲・規制を行っています。一昨年からは新たにオンラインのニュースサイトもmdaへの登録を義務付けられ、話題になりました。
       
      実際、20年ほど前になりますが、アメリカのヘッジファンドのシンガポール店に勤務していたオーストラリア人で金融関係の博士号をもつ知人が、シンガポールの金融政策を批判する論文を専門誌に書いたところmdaのチェックにひっかかり、就労ビザを更新できない事態になったため香港に移住したというエピソードも、本人から直接聞いたことがあります。ヘイトスピーチも含め言論の自由が完全に保証されている日本人の私からみたら信じられない思いでした。
       
      実はシンガポールの憲法では「言論と表現の自由」が保証されていますが、あくまでも限定つきです。
       

      Article 14 of the Constitution of the Republic of Singapore, specifically Article 14(1), guarantees to Singapore citizens the rights to freedom of speech and expressionpeaceful assembly without arms, and association. However, the enjoyment of these rights may be restricted by laws imposed by the Parliament of Singapore on the grounds stated in Article 14(2) of the Constitution.
      シンガポール共和国憲法14条は1)シンガポール国民に言論と表現、武器をもたない平和的集会と会合の権利を保証する。しかし、2)条に表明される理由によりシンガポール議会により執行される法によりこの権利は制限されることがある。 

      この2)条の中には実にさまざまな条項が含まれ、実質的に議会がNoの意思表示をすれば何も認められなくなります。現実に、シンガポールでは日本でよく政治家が行っているような駅前演説や署名活動などを見たことがありません(選挙キャンペーン中の立候補者のキャンペーンは別)。
       
      このような情報から、15年前にシンガポール人の夫と結婚したときも「この国にはあまり住みたくない」ということを言い、夫からひんしゅくを買ったこともありました。
       
      ■政府の政策を皮肉るコメディアンが大人気
      毎週火曜日の夜に放映されている人気コメディ番組、The Noose(絞首台のロープの意)はシンガポール社会を風刺する番組として絶大な人気を誇っており、2007年から続く長寿番組です。登場するコメディアンの数はほんの数人で、低予算で作られているのが明らかにも関わらず、かなり際どいギャグも連発することがあります。また、主要メンバーがやはり国民的コメディアンである女装芸人でゲイのKumarと定期的に行っている舞台では、ユーモアの鎧をまとっているとはいえかなり辛辣な政策批判をすることも珍しくありません。ただ、その批判は決して他人や政治家を揶揄するものではなく、「こういうの困ってるんだから何とかしてよ」というようなニュアンスのことが少なくありません。
       
      同じく人気舞台コメディアンの女性トリオDim Sum dolliesもラスベガスのような豪華な舞台が売りではありますが、やはり根底にあるのは鋭い風刺精神です。
       
      今回のカウントダウン番組でも、The Nooseの看板コメディアン3人と、Dim Sum dollies3人が交代で進行役をつとめ、途中、ときどき辛辣な政治ギャグを飛ばし観客から大いに受けていました。日本でいえば紅白歌合戦のような番組で、進行役のお笑い芸人が「(国民に不人気でなくなってしまった政策を指して)あの時の政策はほんとひどかったよね」と言い、観客が大笑いするというようなものですから、いかにおおらかな雰囲気かおわかりいただけると思います。
       
      ■mdaの審査官は「普通のおばさん」
      以前、私は実はmdaで検閲をする審査官の方々と数回、お会いしたことがあります。昨年まで日本のコミックをシンガポールに輸入する仕事を依頼されて行っていたのですが、シンガポールでは出版物の輸入には必ずmdaの許可が必要なため、許可基準のレクチャーを受けたのです。
       
      許可されない出版物の条件にはいろいろなものがあるのですが、それだけではわかりにくいため、具体的にひとつひとつ「これはどうですか?」と聞いていったものがありますので、少しご紹介します。
       
      <不許可>
      『課長 島耕作シリーズ』 性描写が頻繁に描かれ、主人公が家庭を顧みずに不倫ばかりしている。シンガポール国民の大多数は家族を大切にする価値観をもっており、国民感情に反する。
      『罪に濡れたふたり』 近親相姦のテーマはNG
      『快感フレーズ』 性描写が多すぎて不適当。
       
      <「未成年不適当」のシール付きで許可>
      『進撃の巨人』 残虐シーンが多く、子供向けでない。
      『痛々しいラヴ』 芸術性はわかるが、性描写が多く子供には見せられない。
      『クレヨンしんちゃん』 親を敬わない表現が多く、子供の教育上よくない。
       
      <問題なし>
      『まことちゃん』 この程度のグロテスクはOK
      『無能の人 日の戯れ』 性描写はあるが芸術的なのでOK
      手塚治虫の作品群 20年前はNGなものもあったが、現在はすべて問題なし。
       
      丁寧に対応してくださった担当官の方は、柔らかな物腰と20代女性とその上司の40代女性で、こちらが「これはどうでしょう?」ともっていったコミックや作者はほとんどご存じ。よく勉強されている様子がわかりました(人気コミックは英語や中国語にも翻訳されているものが多いので実際に内容も把握しているものが多いようです)。
       
      その上で、「あなたには理解できないかもしれないけれど、親として子供に読ませたくないもの、自分の判断力がしっかりと確立しないうちは遠ざけておきたいものはこうして規制しておく必要があるのです」とおっしゃったのが印象的でした。私も母親として、ヌードや幼児ポルノ漫画が氾濫している日本の漫画やウエブサイトは決して子供に見せたいと思えません。
       
      巷間で「シンガポールの情報警察」のようなイメージが流布されているmdaの審査官とは、実はこういう普通の人たちなのです。
       
      ■シンガポールは大人が責任をもって作っている国
      日本に9年暮らしたシンガポール人の夫がよく言うのは、「言論の自由はわかる。しかし、無責任に何を言ってもいいというものではない」という言葉です。日本にいるときにはこの意味がよくわかりませんでしたが、シンガポールに暮らして5年目になる現在、夫が何を言いたかったのか少しずつわかるようになってきました。
       
      コメディアンやmdaの審査官のエピソードからもおわかりいただけたかと思うのですが、何かを言うとき、表現するときに「そのことによって何が起こるか」「それにより被害を受けたりダメージを受けたりする人がいないか」をまず考えてものを言う、表現する、ことがシンガポールでは第一に考えられているということです。
       
      言論や表現を自由に行うことは重要である、しかし、それにより社会がよりよい方向に向かっていくのでなければ意味がない、という共通認識をシンガポール国民がもっているからこそ、この国はここまでの50年、バランスのよい発展を遂げてきたのではないかと思います。

      【参考記事】
      貧困家庭サポートNGOが超豪華パーティー主催!? 福祉も民間主導のシンガポール
      | 後藤百合子 | シンガポール社会 | 18:55 | - | - |
      貧困家庭サポートNGOが超豪華パーティー主催!? 福祉も民間主導のシンガポール
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        ■貧困家庭サポートNGOが開く超豪華パーティー
        シンガポールのオフィスにシンガポール・チルドレンズ・ソサエティという団体からDMが送られてきました。11月に開催されるチャリティ・ガラディナーへのお誘いで、場所はリッツ・カールトン・ホテルの大宴会場。シンガポール副首相も臨席。財界セレブが大挙して出席し翌日の新聞社交面を賑わせること間違いなしの豪華パーティーです。

        そんなパーティーへのご招待がどうしてわが社のような超零細企業にも送られてきたかというと、1席で1,000シンガポールドル(約8万6千円)、テーブル買いだと12,888ドル(約110万円)、VIPテーブルは30,000ドル(約258万円)というバブル時代のような超高額パーティー券販売のため。ほかにも約130万円からの広告や、「たとえ1席でもとても無理」というわが社のような会社向けに1ドルからでもOKの寄付メニューがあります。

        このNGOは1952年設立、つまりシンガポール建国以前から活動している由緒ある福祉団体で、シンガポール国内にサービス拠点が10か所あり、2013年単年度でも72,640人の貧困層の子供たちとその家族をサポートしているそうです。

        ■NGOへの寄付控除は何と2.5倍に!
        ここまで読んで「うちみたいな貧乏会社でも少しだけなら寄付できるかなー」と迷っていたときに目に飛び込んできたのが、以下の一文。

        Table sales, event sponsorships and outright donations will all be entitled to 2.5 times tax-exemption.

        つまり、このチャリティーに出席したりスポンサーになったり、寄付をしたりするとその2.5倍額が経費として税額控除になるということ。さらに、毎年表彰される社会貢献企業1000社またはシンガポール企業1000社にも自動的にリストアップされる(寄付のみは除く)という名誉つきです。

        法人所得税最高税率20%のシンガポールで、さらに経費が2.5倍額認められて、社会貢献もでき、おまけに広告宣伝効果もある企業リストにも名を連ねることができるとなれば、多少利益が出ている会社の社長だったらすぐに「1テーブル分くらい買ってもいいかな」と思うのではないでしょうか?

        ■経済効果は多方面に波及
        イベント効果はそれだけではありません。まず会場のホテルにお金が落ちますし、ガラディナーですからそれなりのドレスやスーツも用意しなければなりません(シンガポール人はふだんはとてもカジュアルですが、パーティのときはきっちりドレスアップします)。そうすると、ブティックなどでも販売が伸びてあらゆるところでwinwinになるのです。そのためかチャリティー・ガラディナーはしょっちゅう開かれています。


        ■税収が多少減っても政府にはこんな利点が
        では、2.5倍控除によって税収入が減るシンガポール政府はどうでしょうか?

        この団体のようなNGO活動(シンガポールではGrass Roots Organizationと呼ばれます)に政府は場所を無償で提供したり、多少の補助金を出すことが多いようです。しかし、NGO運営費は基本的にすべて寄付や独自事業の収益によってまかなわれます。

        つまり、政府からほとんど補助がない代わり、このような税額控除などの恩恵を受けることができるのです。結果として、政府は福祉予算に回す支出が減り、日本のお役所に散見されるような予算のばら撒きが非常に少ないように見受けられます。

        また職員として働く人はもちろん、シンガポールでは多くの人々がボランティアとしてNGO活動に参加しています。ボランティアたちにより政府はさまざまな社会的活動に関するコストを削減できるだけでなく、折にふれて彼らを国の行事に招いたりすることにより、自分たちの日々の活動が国家運営に関わっているという意識をもたせ、ひいては愛国心の向上にも貢献しているようです。

        ■日本にもこんな制度があったら経営者は絶対に寄付します
        今月末は日本の本社もちょうど決算月にあたります。日本ではもう少し利益も出ていますし毎年納税していますが、例年、その工面に四苦八苦しているのが現状です。

        もし日本にこんなチャリティー・ガラ・ディナーがあったら、1テーブルは無理でも、2席くらいは買えるのに・・・。そして43万円の経費扱いで、18万円の節税になるのに・・・とつい無駄に計算してしましたが、こんなシンガポール的発想を日本政府が採用する日はいつか来るのでしょうか? 

        もしこんな制度があれば、私のような多くの経営者は絶対に寄付するのに、と思ってやみません。
        | 後藤百合子 | シンガポール社会 | 18:06 | - | - |
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