ASIAN NOMAD LIFE

日本、香港、中国で生活・仕事をしてきてシンガポール在住8年目。
セブン&アイホールディングス鈴木会長辞任にみる事業承継の難しさ
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    セブン&アイホールディングスの鈴木敏文会長(83)が4/7、セブン-イレブン・ジャパンの井阪隆一社長(58)解任をめぐって取締役会と対立。自らの辞任を表明しました。

    多くの方と同じく、鈴木さんという素晴らしい経営者がこんな形で辞められることになるなんて、と第一報を聞いたとき私も信じられない思いでした。その後、鈴木会長の辞任会見の模様や、すでにこの問題で頭を悩ませていたであろう前月のインタビュー記事を読み、事業承継の難しさを改めて認識しました。

    ■業績好調のときには冬の寒さがわからない。
    セブン-イレブン・ジャパンの売上高推移は、絵に描いたような右肩上がりで、特に井阪社長が社長に就任してからはそのスピードがさらに加速しています。

    決算発表によると、店舗数は1,081店舗増の18,572店舗。おにぎりやサンドイッチなど基幹商品の品質向上に努め、セブンカフェ ドーナツの提供を全国展開。短期間のうちに商品を改変するなどの対策が消費者に受けいらられ、既存店売上伸び率は43か月連続でプラス。直営店及び加盟店売上を合計したチェーン店売上は4兆2,910億67百万円、前年同期比7.1%増とあります。

    まさに驚異的な業績であり、井阪社長が「自分が社長としてこれだけのことをしてきたのに交代を求められるのは納得いかない」と考えるのももっともといえばもっともです。

    しかし、別の見方をすれば、ここまで伸びてこられたのはコンビニエンスストアという業態自体にまだ伸びる余地があったからともいえます。実際、スーパーストア事業や百貨店事業は大きく業績を落としてからの微増であり、業態としての衰退期を迎えています。以前、スーパーマーケットの勃興期に個人商店の八百屋や魚屋から客足がとだえて廃業を余儀なくされたように、現在はイトーヨーカ堂からセブンイレブンに客足が移っています。その結果の高い伸びであり、決してその状態がいつまでも続くわけではありません。

    例え話をしよう。「冬になったら寒いよ。寒いから、きちんと下着を着なさいよ」と。相手は「はい、わかりました」と言うけどね、実際に寒くなってみないとそうしない。本当に寒くなってきた頃は「寒すぎる」感じで、もう風邪を引いている。「はい、わかりました」と言っている時点では実はまだ暖かいんだよね。仕事にはそういうときがある。


    今年1月のイトーヨーカ堂の戸井氏の辞任について、鈴木会長は「彼はわかったつもりだったけど、わかっていなかった」と言い、こう語ります。

    現在、絶好調のコンビニ事業(実際は業界全体が絶好調)においても、少子高齢化による国内マーケット縮小、競合他社の合併や大手資本注入による財務体制強化や商品・サービス力増強、ネット販売業者の台頭による消費者の購買行動の変化など、これから脅威になりそうな要素は門外漢の私が見てもいくらでも数え上げられます。

    まだ業界全体が興隆期の暖かい時期だからこそ、潜在する問題を直視し、早い段階から種まきをして対策を打っておかなければならないのは必至ですが、往々にして人は「見たいもの」しか見ず、現実から目をそらしがちです。それが「残念ながら、(井阪社長から)COOとしての改革案はほとんど出てきませんでした。」という鈴木会長の言葉につながったのではないかと思うのです。

    ■伊藤名誉会長から鈴木会長に引き継がれた「商売の原点」
    今回の鈴木人事案否決の最大の要因は、創業者一族の一人で大株主でもある伊藤名誉会長の信任が得られなかったことと言われています。

    (伊藤名誉会長とは)これまで良好な関係にありました。けれどここに来て、急きょ変わりました。今まで私が提案したことを(伊藤名誉会長が)拒否したことは1回もなく、ずっと了承してきていました。しかし世代が変わったのです。抽象的な言い方ですが、それで判断してもらいたい。


    このような鈴木会長の言葉を受けて、「コーポレスガバナンスがなっていない」とか「密室での決定」と批判する声もあるようですが、取締役会開催の前に創業から現在までの社史の表も裏もをすべて知り尽くし、しかも株主としても一定のポジションを占める創業者一族に意見を聞いてそれを取締役会で発表する行為自体は、私からすると上場会社としてもまったく問題ないことだと思います。

    そのうえで、これまで人事に関する鈴木案をすべて信任してきた伊藤名誉会長が今回はそれを拒否。鈴木会長は「世代が変わった」と繰り返しました。

    創業者の伊藤名誉会長は、1924年生まれの今年92歳。大正9年に叔父が始めた洋品店、羊華堂を戦後すぐに母・兄とともに再開し、ヨーカ堂グループを率いてきた人物です。1984年、伊藤名誉会長がまだ60歳だったときの記事が日経ビジネスオンラインに掲載されていたので読んでみましたが、小さな商店を身を粉にして切り盛りしてきた原点をもち、何をおいてもお客様と仕入れ先を大切にする昔ながらの厳しい経営者の姿が浮かび上がってきます。

    セブン‐イレブンの合理的なシステムを自賛しはするが、伊藤がこの店に魅かれるのは実はシステムの完成度の見事さではなく、フランチャイズ方式に集まる「自営業者の心意気」なのである。「ご夫婦が一生懸命に助け合って店を磨いてるのを見ると、気持ちいいね」。


    記事の最後は「後継者についての質問に対して、伊藤はポツリと一言『これからが大変ですね』と言った。」という言葉で締めくくられています。サラリーマン社長とはいえ、伊藤会長の薫陶を直接受け、伊藤会長が商人の原点をみた「セブン-イレブン」を創り上げた鈴木会長こそ、羊華堂の遺伝子を引き継ぐ後継者となったのはごくごく自然なことでした。鈴木会長はもちろん、伊藤名誉会長もまた、その遺伝子を次の世代に引き継ぐべく、高齢にもかかわらずこれまで経営に関わってきたのではないかと思うのです。

    しかし、それがままならないまま、タイムリミットを迎えてしまった。うがった見方をすれば、今回の伊藤名誉会長の「心変わり」と形容されている人事不信任は、鈴木会長に対する「ここまでよく頑張ってきてくれた。もうこれ以上、頑張らなくてもいいから」という最後の思い遣りだったのかもしれません。

    ■フランチャイジーを最後まで気にかけた鈴木会長

    私自身も今日辞任を発表しましたから、明日から会社に出てこないというような無責任なことはできないと考えております。1万8000店の加盟店のオーナーさんもいらっしゃるし


    鈴木会長が会見の後半、気にかけていると口にしたのは、社員のことでもなく、会社の将来のことでもなくフランチャイジーのことでした。24時間営業の中、学生アルバイトや外国人アルバイトをまとめながら自分自身も現場の第一線で日々働く彼らこそ、鈴木会長が絶対に守らなければならないと考えていることがよくわかりました。

    また、鈴木会長が業績不振のヨーカ堂を切り離せという外資ファンドの圧力に抵抗してきた背景には、尊敬する伊藤名誉会長がビジネス人生を賭して創り上げてきたスーパーマーケット業態を、自分が創り上げたコンビニ業態が壊してしまったという悔恨の念もあったような気がします。

    会社を経営するということは、毎日、多くの矛盾や不測の事態に直面しつつ、会社にとって何が大切なのかを自問自答しつつも前に進むことだと私は思っています。時代は変わり、人も変わります。しかしその中で、自分自身の確たる信念をもち、自らの進退も含めて一瞬一瞬を不退転の決意で進んでいくことにしか経営の道はありません。

    常人にはとてもまねできない強靭な精神力でここまで経営をされてきた鈴木会長には、セブン-イレブンやイトーヨーカ堂で買い物をする顧客の一人として「本当にお疲れさまでした」の一言をお贈りしたいと思います。
    | 後藤百合子 | 企業経営 | 15:21 | - | - |
    インフィニット・ループ1番地から始まる果てしない戦い
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      米TIME誌の特集、アップル社CEOティム・クック氏のインタビューを読みました。

      すでに報道されているように、昨年カリフォルニア州で起きたテロ事件の容疑者(死亡)のi-phoneロック解除をめぐり、米司法省が暗号を解除するソフトの開発をアップル社に命令。アップル社CEOクック氏はこれを拒否し、今月、両者による法廷闘争が始まる予定でしたが、先週22日には司法省側が独自に暗号解除ソフトを開発できる可能性があるとして審理を延期。本日になって、FBIが情報抽出に成功。アップルい対する提訴を取り下げたとのニュースが入りました。

      カリフォルニア州クパティーノ、インフィニット・ループ1番地にあるアップル本社の自室で、i−padにかがみこむようにして頬ずえをつくクック氏のモノクロのカバー写真が与える印象は、彼がこの問題を単なるビジネス上のマターとしてではなく、人類そのものの将来を決定するような問題であると考えているかのようでした。

      ■すでにプライバシーはどこにもない。
      ちょうど今月、5年近く使ってきたモバイルパソコンの調子が悪くなり、私は買ってあった新しいHPのパソコンにデータを移行する作業をしました。

      新しいといっても型落ちで安くなっていたモデルを買ったため、まずWindows10にバージョンアップするところから。HPのパソコンは初めてだったのですが、指紋認証やら秘密の質問やらにさんざん答えさせられたあげく、バージョンアップにはこれらのセキュリティソフトをすべて解除しなければならないことがわかり、ほぼ丸1日かけて作業を行いました。

      やっとデフォルトのセキュリティソフトのアンインストールが終わり、ソフトやアプリをインストールし始めた途端、今度は衝撃的な事態に直面しました。ソフトやアプリがほぼほぼすべて、個人データへのアクセスを求めてくるのです。

      ウィルス駆除ソフトマカフィーはもちろん、インターネットやメールなど、私がアクセスしたり保存している情報すべてにアクセスする許可を求めます。Facebookは知らない人からの検索をシャットアウトすることはできますが、ログインした途端、数百人に上る「この人と知り合いではありませんか?」というリストを送ってきます。スカイプにいたっては、仕事で数回会ったきりもう何年も会っていない、これから会うこともないだろうという人の写真つきのアドレスを送ってきました。

      私はもともと会社の代表という立場ですので、一般の方のようなプライバシーはないものと覚悟していましたが、それにしても怒涛の洪水のような個人情報にいきなりさらされ、文字通り、息が詰まるような思いをしました。

      ■個人情報はどこまで守られるのか?
      さらに驚いたのは、クラウド上の蓄積データの状態です。

      しばらく前から写真の保存用にi-phoneでGoogle Photoを使用していたのですが、パソコン上のGoogleと同期し、何かの操作をした途端、顔認証ですべての写真が人物別にソートされたのです。場所と時間の情報入り。たまたまパソコンの写真フォルダに父の写真を保存していたら、一度もあったことがない父の友人たちも一瞬のうちに並べ替えられました。6歳になる娘や姪の赤ちゃん時代から現在に至るまでの写真もほぼミスなくソート。分類された写真を見れば、誰がいつ、どこで、誰と、何をしていたのか、一目瞭然です。

      Ten years ago, if I went for a jog, any and all information relationg to that jog would evaporate as soon as it happened. It woud go uncaptured. Now that information is not only preserved -- where I went, how far I went, how fast I went, what I listened to, what my heart rate was -- it gets uploaded to the cloud and propagatted across my social networks.
      10年前、私がジョギングに行っても、ジョギングに関する情報はしたそばから消えていった。情報をつかむことさえできなかっただろう。現在、行ったことが記録に残るだけではない。どこへ行ったか、どのくらい遠くまで行ったか、どのくらいの速度だったのか、何を聞いていたのか、心拍数はどれだけだったのか・・・すべてクラウド上にアップロードされて、SNSを通じて共有されるのだ。


      現在のインターネット社会には、もはやプライバシーは存在しえないといっても過言ではないのではないでしょうか?

      ■ビッグ・ブラザーとハッカーの登用
      とはいえ、クック氏をはじめとするアップル社の重役たちも決して最初から捜査に非協力的だったわけでなかったようです。FBIはたった一度きり、この容疑者の電話をアンロックするためにのみソフトウェアを作ってほしいと要請し、実際にアップルでは検討もしました。しかし、これがもしも前例となり、「解読してほしい電話が175台ある」と言われたケースに直面した場合、もはやそれがたった一台の例外ではなくなってしまうというのです。

      これに対し、大統領選共和党候補のドナルド・トランプ氏は「あいつら何様だと思っているんだ?」と攻撃し、アップル製品のボイコットを呼びかけ。シリコンバレーとは長年、良好な関係を築いてきたオバマ大統領でさえ、「たかが電話のために多くの人の命を犠牲にするのは正しい答えではない」とアップルを非難したといいます。

      コンピュータによる情報管理を語るとき、欧米メディアが必ず引き合いに出すのがジョージ・オーウェルの『1984』に登場する独裁者「ビッグ・ブラザー」です。ビッグ・ブラザーが統治する世界では、人々の生活のすべてが監視・管理され、個人のプライバシーや自由は徹底的に排除されます。この近未来小説に描かれた状況が、今すでに始まりつつあるのではと感じるのは、決して私だけではないのではないはずです。

      例えば、ここ数年、私はほぼすべての本や雑誌をアマゾンに頼っています。生鮮食品以外は、やはりほとんどの買い物をネット上でしています。私が読んだ本、食べた物、着ている服などの情報はすべてどこかのコンピュータに蓄積され、写真やSNSを調べれば、いつ、誰と、どこに行って、何をしたのかも一目瞭然。この情報に囲碁チャンピオンを破ったAIを加えれば、次に私が何を考えてどんな行動をするかは簡単に予測可能でしょう。

      いっぽう、米国政府や米企業は、サイバー攻撃に立ち向かうため、すでにハッカーたちをも積極的に活用し始めました

      動機はよしとしても、使い方を一歩間違えば、個人の思考や行動を知らず知らずのうちに監視し、操作し、権力維持のために使う、という実際に『1984』の世界で描かれていることがいつでも現実になりうる時代に、すで突入しているのです。

      ■インフィニット・ループ1番地から始まる永遠の戦い
      ちょうど10年前の3月、私はアップル本社を訪れました。サンフランシスコからクパティーノに向かう路上には色とりどりの春の花が咲き乱れ、まるで大学のキャンパスのような緑あふれる広大な敷地の中のオフィスでは、社員たちが生き生きと働いていました。社員の方に勧められ、敷地内のショップで「私はクパティーノに来た!」と書かれたTシャツを買い、一緒に軽い食事をした後、彼女は「来週のトライアスロン大会のために走るから」と、仕事を早めに切り上げ、明るいうちに自宅に帰っていきました。

      当時、まだバリバリの現役だったスティーブ・ジョブスはオフィスを歩き回っては社員たちに激を飛ばしていましたが、実際にクパティーノに行って初めて、私は彼が目指していたものが何だったか少しわかったような気がしました。

      FBIが今回成功したように、ロックをはずすソフトはアップル以外の誰かにも開発可能です。人間の作るるものに絶対はありませんから、どれだけ頑丈にロックしても、いつか必ず、そのロックは解除されるでしょう。そしてジョブスが遺したDNAが働いている限り、アップルはまた、より強固でプライバシーを守るためのシステムを開発していくことでしょう。

      「無限のループ」という名前が示す通り、この堂々巡りは永遠に続くのかもしれません。しかし、その円環に綻びが生じたとき、人類は次のステージに向かって後戻りのできない一歩を踏み出すことになるのではないかと思います。
      | 後藤百合子 | 企業経営 | 12:00 | - | - |
      Rakutenの躓きとReebonzの快進撃にみるマーケティング戦略の違い
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        ■東南アジア全域でのショッピングモール事業撤退を決めた楽天
        2月いっぱいで楽天が運営する「Rakuten」がシンガポール、マレーシア、インドネシアのサイトを閉鎖、電子ショッピングモール事業からの撤退を決めました。楽天はインドネシアで2010年に地元財閥企業と合弁で事業をスタートしましたが、思うように事業が成長できず13年には合弁を解消。今回はそのインドネシアも含め、東南アジアでのプレゼンスを一挙に縮小するといわれています。

        撤退の理由は明らかにされていませんが、おそらく売り上げ不振が最大の原因でしょう。

        シンガポール地元紙『The Straits Times』によると、昨年末の時点でRakutenへの出店社は約500社だったといいます。そのうち1社への取材では、年間出店料はSGD4,000以上(約33万円)で、他に売り上げコミッションが10〜20%。小規模事業者には出店料他のコストが高すぎて思うように出店社を集められなかったからという分析も紹介されていましたが、不動産価格や家賃が東京の2〜3倍が当たり前、人件費が高いため、自前でまともなサイトを作るにはかなりの投資が必要なシンガポールでは、私はむしろ安いと感じます。

        例えば、売り上げが50万円あって粗利率を40%とすれば粗利益が20万円。そこから出店料の3万円とコミッション10%を引いても利益12万円が残ります。これがもし実店舗であれば、どんなに小さな店であっても家賃が10万円以上、ショップスタッフの人件費が10万円以上ですでに赤字。逆に小規模事業者にこそRakutenのメリットはあったはずなのです。

        しかしそうならなかったのはやはり、それだけの売り上げを上げられない事業者がほとんどだったということではないでしょうか。

        ■ブランディングが残念な楽天のウェブサイト
        まだ見られるうちにと思い、楽天のシンガポールサイトを覗いてみました。

        トップ画面のイチオシはSEIKOの腕時計、ハローキティーの雑貨、ASICSのスポーツシューズ、スナイデルのドレス。どれも知名度が高い日本ブランドですが、いま旬真っ盛りで、行列を作っても買いたい商品かというと・・・・微妙です。

        下にスクロールするとピックアップ商品。KATANAのゴルフクラブと並ぶのはインバウンド需要を狙ったのか、アツギのタイツとムートンブーツ。さらにその下にはコラーゲンやスムージーといった健康食品から、補正下着、キャラクターグッズまで。日本の楽天市場と同様、脈絡なくさまざまなカテゴリーの商品が所狭しと並びます。

        しかし、日本と同じくこのような商品を求めて検索し、このサイトにたどり着く消費者がどれだけいるのでしょうか?

        日本のテレビ番組で「コラーゲンが流行っている」という情報が流れれば、数千人から場合によっては数十万人の人々がネット検索をかけて楽天市場に流入するでしょう。雑誌の商品紹介記事や有名人ブロガー記事でも同じです。しかしここは人口500万人強の小国。日本のような商品紹介の情報番組はほとんどありませんし、情報誌やブロガーの数も極めて限られています。また、シンガポールでは新製品をPRするとき、メディア媒体に強いPR代理店に頼んでマーケティングをしてもらうのが普通ですが、よほど露出を多くしない限り、たまに広告や記事広告を出すのではまず大ブレークは期待できません。

        Rakutenの場合、知名度の高い日本ブランドを目玉商品に据えれば集客できると踏んでいたのかもしれませんが、”Rakuten”そのもののブランディングとマーケティングを怠ったため思うように集客=売り上げ増につながらなかったと思われるのです。

        ■有名ブランドに絞って自らのブランディングを確立したReebonz
        いっぽう、シンガポールのeコマースで大成功をおさめている地元企業があります。その名は"Reebonz”。

        CEOのサミュエル・リム氏を中心に3人の若手企業家が立ち上げた会社で、ブランド品(主に女性用バッグ)のフラッシュセールを軸にオンライン販売を行ってきました。このサイトでは、コーチ、マイケルコース、ケイトスペード等々、正規の店で買うとそこそこの金額がするブランドのシーズン落ち商品を買い付けてきて、10〜60%程度の割引率でブランド品が大好きな女性たちに販売しています。

        扱うものがブランド品ですから商品説明は最低限でかまいません。消費者は自分で調べていろいろな情報をもっています。宣伝も不要です。ブランドホルダーがこれでもかと金に糸目をつけず宣伝してくれるからです。後は旬のブランド、人気があるブランドの情報を集めて仕入れてくるだけ。そのブランド名で検索で流入してくる人々が自動的に顧客になっていくのです。

        こうしてReebonzは2009年の設立以来急成長を続け、現在はシンガポールのみならず、マレーシア、インドネシア、台湾、香港、タイ、オーストラリア、韓国で事業展開をしています。

        ■ブランド力がない商品を売ろうとして失敗したReebonz
        そんなReebonzにもRakutenと同じく撤退の過去があります。

        それは2年ほど展開していた”Kwerkee”というブランド品ほど高額ではなくアートな雑貨類を扱っていたサイト。若手デザイナーや新興ブランドのインキュベーターになるという志もあったのだと思いますが、結局、よく売れたのはキャス・キッドソンなど、お手頃価格でもやはりブランド力のある商品のみで、ほとんどのブランドが不発に終わってしまいました(実はこの中に私が扱っているブランドも含まれていました)。

        そこでReebonzはこの事業に見切りをつけて他社に売却。同時に始めたのが、ルイ・ヴィトンやエルメスなど、ディスカウント販売できない超高級ブランドの中古品を仲介するサイトです(Reebonzの中にセクションを設置)。これがヒットし、現在は個人からの委託出品のみならず、日本の中古販売店と組んでさまざまな超高級ブランドの商品を販売しています。

        つまり、Reebonzはブランド商品のブランド力を自社ブランドとするマーケティングに特化したといえるのです。

        ■日本のマーケットより断然厳しい海外マーケット
        日本とシンガポールの両方で営業活動をしていて思うのは、日本はつくづく恵まれている国だということ。その最大の要因は人口です。

        例えば、20代女性の100人に1人が「この服好き」と買ってくれる商品があったとします。20代女性が1,000万人いる国であれば、ターゲットは10万人です。しかし、30万人しかいない国ではわずか3,000人しかいないのです。まずマーケット規模が違うのと、そのターゲットにアプローチする手段が日本では非常にいろいろと用意されている一方、シンガポールのような小国では上記のように限られているため、ターゲットを捕捉することさえ難しいのが実情です(インドネシアは国の人口は多いですが、クレジットカードを持っている人が極端に少ないうえに、物流にも非常に高いハードルがあるためeコマース人口はシンガポールより少ないといっても過言ではありません)。

        その中でどのようなマーケット戦略を練って実践していくのか、そしてどのように消費者を集客していくのは、eコマースにとって最大の課題であり、生命線ともいえるでしょう。Rakutenを含む多くのeコマースサイトは、そこで躓いてしまっているのではないかと思うのです。

        シンガポールでは旧正月の今月、社員の解雇を行ったRakutenに対し、若干感情的な批判もないことはありませんが、そこは現実主義者たちの国。好きな商品、魅力的な商品があれば「日本のお店では今後いっさい買い物はしない!」などと断言する人もいないでしょう。

        シンガポール在住者としては、Rakutenに限らず、日本のeコマース事業者のみなさんがが捲土重来を期して再びしっかりとマーケティングを行い、近い将来、シンガポールでは絶対に買えないアイディアや機能あふれる素晴らしい日本製品を販売してくれることを切に望みます。
        | 後藤百合子 | 企業経営 | 21:17 | - | - |
        老舗企業の倒産増加とネスレ社に見る「変われる力」。
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          ■増える老舗企業の倒産割合
          ネスレ日本の高岡浩三社長が、日経新聞の広告企画インタビューで、環境適応=マーケティングであるとおっしゃっています。その意味とは、顧客が現状で感じている問題を解決し、満足させる(イノベーション)ことを突き詰めていき、商品やサービスを変化させることにより、企業がマーケティング(販売促進)を行っていくというものです。
          「環境の変化に適応する」と多くの方が当たり前のように言いますが、ほとんどの場合、それはできていないのではないでしょうか。環境の変化が激しい時代であれば、自社の中も激しく変化していなければならないのですが、本当にそれができているのでしょうか。 
          と、高岡社長はかなり厳しい発言をされていますが、それを裏付けるのが、2/5東京商工リサーチが発表した倒産件数に占める老舗企業の割合の増加です。
          2015年に倒産した業歴30年以上の『老舗』企業は2,531件だった。前年(2,647件)より116件減少したが、倒産に占める構成比は32.3%と前年比1.7ポイント上昇した。これは過去20年間で最高を記録した。全産業の倒産がバブル末期の25年ぶりの低水準で推移するなか、老舗企業の倒産は構成比を高めている。

          このデータによると、業歴30年以上の老舗企業の倒産に占める割合は増加基調にあり、企業の平均寿命も2003年についで、24年強となりました。

          老舗企業は長年の業歴から一定の事業基盤を築いている。だが、老舗企業の強みである資産、経験、ブランド力が信用を高める時代は終焉を迎えているようだ。過去の成功体験から業績回復への対応は鈍く、グローバルな時代の変化に合わせたスピード感や柔軟な発想に課題を抱えている。今後、将来性を判断する事業性評価が重視される中で、どのように老舗企業の強みを前面に出せるか、経営者の力量が問われている。


          高岡社長がおっしゃっているように、過去の資産や経験にしがみついて老舗のブランドを守るのではなく、現状を変革していくマーケティングこそが、企業経営者にとって必要とされているのだと思います。

          ■老舗企業の代表格、ネスレの「ネスカフェ」
          かくいうネスレ社も創業は1866年。今年創業150年の堂々たる老舗企業です。

          スイスに本社を置き、食品・飲料としては世界最大手、日用品メーカーとしてもP&Gに次ぐ世界第二の巨大企業。もともとはベビー食品メーカーとしての創業でしたが、チョコレートに進出。戦後はインスタントコーヒーが主軸の一つに加わり、その後もアイスクリーム、スープ、ペットフードなどM&Aを繰り返しながら巨大企業に成長してきました。

          中でも、第二次世界大戦中アメリカ軍に採用されて飛躍的に広まったといわれる「ネスカフェ」は「キットカット」や「ミロ」と並び、ネスレ社の顔ともいえる商品。日本では「違いがわかる男」シリーズのCMが有名で、1970年代には池坊専永さんなど文化人や北杜夫さんなどの作家、今世紀に入ってからは演出家の蜷川実花さんなども登場し、「ネスカフェ愛飲者=インテリ」のイメージ戦略で、もともとコーヒーを飲む習慣がほとんどなかった日本市場にもしっかりと浸透しました。

          しかし、この20年ほど、日本のコーヒー業界には大きな変革の波が押し寄せます。最大の要因は1971年にシアトルで創業し、今から20年前、1995年にお洒落雑貨販売大手のサザビーリーグが展開してきたスターバックスコーヒー(2014年スターバックス本社が買収)。

          2006年の映画『プラダを着た悪魔』でも世界最先端のファッション業界人がひっきりなしに飲むコーヒーはスタバのラテやカプチーノで、決してネスカフェではありません。いわゆる「グルメコーヒー」の流れはとどまるところを知らず、この数年は近所のコンビニでも本格的な挽きたてコーヒーやラテが飲めるようになってきていました。

          スタバの戦略はまさに往年のネスカフェの戦略そのままといっても過言ではないと思います。ネスカフェがコーヒーと一緒に「文化の香り」を売ったのに対し、スタバは「お洒落なライフスタイル」を売ったのです。発売からほぼ半世紀。「ネスカフェ」は末期的な商品寿命を迎えていました。

          ■「ネスカフェパリスタ」で蘇ったネスカフェ
          ここで救世主となったのが、ラテやカプチーノをお洒落カフェまで行かずに自宅で簡単に作れるマシーン、ネスカフェパリスタ。それまで本格的なカプチーノを作ろうと思ったら最低でも数万円はする専用マシーンを買う必要があったのが、5千円前後から1万円以下というお手軽価格で、しかも慣れ親しんだ粉末のネスカフェを使って作れるようになったのです。

           

          コーヒーマシン「ネスカフェバリスタ」も発売から1年半はまったく売れなかった。そこで1万5000円で売っていたものを、(試験的に)4980円、7980円、9980円の3段階に値下げした。すると4980円と7980円で売った店では販売量が10倍にハネ上がった。

          ただ、4980円で買ったお客さんは「安すぎてちょっと心配」と言う。つまり、お客さんの値頃感が7980円にあった。この値段だと儲けはゼロだが、赤字ではない。コーヒーマシンさえ買ってもらえば、ネスカフェから”浮気”されずに済む。(コーヒーパックを扱っていない)電機メーカーはこんなに安く機械を販売できないから、競争が激化せず、値崩れもしない。


          東洋経済オンラインのインタビューで高岡社長はこう語ります。以前、『ドリルを売るなら穴を売れ』というマーケティング本が大ヒットしましたが、この本さながら、ネスカフェを売るためにネスレ日本はネスカフェパリスタを販売したのです。この結果、ネスカフェ販売は復調し、営業部員を2/3に削減しても目標達成という成果につながったといいます。

          ■商品寿命をクリアして企業寿命を伸ばす
          企業というのは変化対応業と言われますが、特に老舗企業の最大の課題は商品寿命にどう対応していくかです。

          創業数十年の会社であれば、必ずといっていいほど看板商品をもっています。そして収益の大半をその看板商品に依存していることが多いのです。この看板商品の商品寿命をどうやって伸ばし、もしくは新たな看板商品となるような商品を開発できるかが企業寿命を延ばしていく鍵となります。

          例えばあのアップル社も、もともとはコンピュータが看板商品の会社でしたが、商品寿命がきて業績が悪化。創業者のジョブズを追放したものの好転せずに彼を呼び戻します。そこからはご存じの通り、i-pod、i-phone、i-padと矢継ぎ早に看板商品を開発してきました。ジョブズ亡き後再び将来が危ぶまれているのは、これらの商品に新たなヒットの息吹を吹き込むリノベーションや、新しい看板商品となるイノベーションが起こっていないからに他なりません。

          ネスレ日本の場合はネスプレッソで旧商品のネスカフェの商品寿命を延長し、これ以外にもオフィス需要を喚起するなど新サービスの開発にも余念がありません。老舗企業だからこその遺伝子に深く刻みこまれてきた商品寿命の壁を取り払い、企業寿命を延ばしていくチャレンジ精神を日本の老舗企業もまた、獲得していくべきだと思います。

          | 後藤百合子 | 企業経営 | 08:39 | - | - |
          黒字企業の設備投資強要より、赤字企業の業績改善を重点政策に
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            ■成果上がらぬアベノミクスに苛立ちを隠せない安倍政権
            安倍政権の目玉政策であるアベノミクスの成果がなかなか上がりません。
             
            日銀の黒田総裁は30日の記者会見で物価上昇率2%の政策目標(もともとは134月から2年という目標だったのですでに期限切れ)を2016年前半からさらに繰り延べして「来年後半」としました。いっぽう「物価が上がらないのは賃金が上がらないから」と、政府は昨年と今年、2年連続で企業に賃上げを要請。多くの企業が賃上げに踏み切りましたが、それでも目標達成にはほど遠く、新たなターゲットとして、黒字企業に内部留保を取り崩して設備投資に回すよう圧力をかけ始めています。

             

            「今こそ、企業が設備、技術、人材に対して積極果敢に投資をしていくべき時だ」安倍首相は官民対話の初会合で経済団体のトップらを前にこう強調した。
            政府が、民間企業の経営判断に基づいて行われる投資に口出しするのは異例のことだ。ここまで踏み込む背景には「企業収益は過去最高となったが、投資の伸びは十分ではない」(安倍首相)との強い不満がある。
            (中略)
            甘利明経済再生担当相は初会合で「過去最高の原資がありながら、投資を行わないのは企業経営者として重大な経営判断の見誤りになる」といら立ちを隠さず、経済界へハッパをかけた。

             
            1028日付J-CASTニュースではこのように伝えられ、安倍政権と財界の蜜月時代も終焉を迎えるのでは、との危惧を示しています。
             
            ■「ダム式経営」で内部留保を推奨した松下幸之助と感銘を受けた稲盛和夫
            甘利大臣に先立つ9月には、麻生財務大臣が、企業は法人税減税による増益分を「配当、賃金、設備投資に回さなければおかしい。内部留保に回したら意味がない」と述べています。2月には企業の内部留保が増加していることについて「まだカネをためたいなんて、ただの守銭奴にすぎない」とまで発言しました。
             
            どうも安倍政権からみると、企業も国民もとにかくどんどんお金を使い、貯蓄(内部留保は企業の貯蓄です)も節約もしないのが美徳のようですが、日本の多くの経営者はそう考えてきませんでした。その代表ともいえるのが「経営の神様」パナソニックの創立者松下幸之助氏です。
             
            松下氏が提唱した「ダム式経営」は、資金、人材、技術のダムを作って蓄え、不測の事態が起こったときにはダムの水を少しずつ使うように蓄えを取り崩しながら経営をしていかなければならない、という経営哲学です。企業の内部留保とはまさしくこの「資金」にあたります
             
            京セラの創業者、稲盛和夫氏は創業間もなくのまだ資金繰りに苦労していたころ、松下氏の講演を聞き、どうやってダムを作るかという参加者の質問に対して「まず願うことですな。願わないとできませんな」という松下氏の回答に深い感銘を受けたといいます。
             
            パナソニック、京セラ、トヨタ自動車をはじめ、日本の「優良企業」といわれる企業の多くには、ムダや贅沢を慎み、貯蓄(内部留保)に励み、雇用を大切にする、というDNAが綿々と受け継がれているのです。
             
            実際、2008年のリーマンショック時や、それに続く民主党政権下の超円高期、2011年の大震災からの混乱期などを振り返ると、企業にとっていつまた大変な経営危機が訪れるかわかりません。そんな非常時に従業員の雇用を守り、給料を払い続けるためには内部留保というダムは必要不可欠なのです。
             
            ■内部留保を積み上げる企業は設備投資や賃上げをしていないのか?
            冒頭の甘利大臣や麻生大臣の話では、内部留保を増やしている企業はまるで設備投資を行っていないような言われようですが、実際にそうでしょうか?
             
            内部留保というのは、税金を払った後に(配当をする会社であればさらに配当をした後に)残ったお金のことを指します。つまり、内部留保を積める企業は「税金を払っている=黒字企業」だということです。では、黒字企業はどれくらいあるのでしょうか?
             
            国税庁の2013年度分の調査結果によると全国に法人数は、2585,732社。このうち、資本金1,000万円以下と1,000万円から1億円未満の中小企業が全体の99.1%を占めます。つまり、法人のほとんどが中小企業ということになります。そして、欠損法人と呼ばれる、いわゆる赤字で法人税を納めていない(外形標準課税等は除く)会社は、1762,596社で、全体の68.2%にものぼるのです。逆にいうと、内部留保ができる黒字企業は全体のたった3割くらいしかありません。
             
            利益が出ている企業は10社に3社程度。その3社に入るためには当然、ただコストを下げるだけでなく、他社と差別化するための技術開発や、設備投資も必要です。また、売り上げを増加させて利益を出すには人材への投資も必要不可欠です。何十年も前の設備を使い続け、社員を安く使い捨てにし、研究開発にもお金をかけなかったら、とても内部留保ができるだけの利益など上がらないでしょう。
             
            実際、利益を上げて納税している会社の社長さんたちは、みな新しい設備投資や人材の採用、商品の研究開発に熱心です。また、優秀な人材の確保や社員の生活の保証という点からも、ベースアップや賃上げに積極的な会社が大半なのです。
             
            しかし、バブル時代と違うのは、銀行からやみくもにお金を借りて計画性のない投資を行うのではなく、将来を見据えてしっかりと経営計画や資金計画をたて、無理な背伸びをせずに、自社の身の丈に合った投資や内部留保をしている会社が増えていることです。そんな堅実経営者が「守銭奴」などと呼ばれてしまったら、それこそ身も蓋もありません。
             
            ■本当に設備投資が必要なのは内部留保ができない赤字企業
            グローバル競争社会の中で、人件費の低い発展途上国と互角に戦っていくために先進国の企業が必ず行わなければならないのは、付加価値の高い商品を作って販売することと、社員1人あたりの労働生産性を向上させることです。この2つがなければ、決して競争に勝って利益を出すことはできません。
             
            高付加価値商品の開発には地道な研究開発が必要ですし、労働生産性アップには生産やサービスの機械化や情報化が必須です。ただ「がんばれ!」と掛け声をかける精神論だけで達成できないのはもちろん、一言でいえば「とにかくお金がかかる」のです。
             
            例えば、私が経営する会社は製造業ですが、だいたい7年ごとに生産管理システムを入れ替えています。その費用は年商の17%程度に上りますので、1年あたりにすると売上げの2.4%をソフトウェアを含む情報関連の設備に投資していることになるのです。本業の生産とは直接関係のない、情報投資だけでもこれだけの資金が必要です。
             
            しかし、企業全体の2/3を占める赤字企業にはそれができません。利益が出ていないのですから売り上げから設備投資に回せる資金余力がほとんどなく、内部留保も作れないのです。また、赤字企業には銀行も融資をしてくれません。いきおい、古い商品や設備で事業を続けることになり、国内や海外製品との競争に負けて業績は先細りになっていきます。
             
            最大の問題はここにこそあるのです。
             
            内部留保ができる黒字企業は設備投資ができ、内部留保ができない過半数の赤字企業こそ設備投資が必要なのにそれができない。この状態を改善しない限り、日本経済全体の底上げと未来へ向けた活力は期待できないのではないでしょうか?
             
            ■必要なのは赤字企業に対する支援
            このように、いま真に日本経済を再生させるために必要なのは、経営不振スパイラルに陥っている赤字企業をソフト、ハード両面から支援し、再生させるための政策ではないかと思います。
             
            ただ、補助金をばらまいたり、公共工事を増やすような一時しのぎでは意味がありません。まず、問題点を分析し、確実に売り上げをアップさせていくための方針を策定するコンサルティングと教育。また、すでに少子高齢化で縮小が始まっている国内マーケットだけでなく、今後も拡大が続くアジアを中心とした海外マーケットの開拓支援。時代のニーズに即応する商品開発と製造方法の改良へのサポートなど。考えられる支援は多々あります。
             
            政府に言われなくてもしっかりと投資も内部留保も行ってきた黒字企業より、行いたくても行えない赤字企業に対する支援こそ、いま最も求められているのではないでしょうか。
            | 後藤百合子 | 企業経営 | 14:45 | - | - |
            トヨタ社長「成長より継続」こそ、これからの日本の経営哲学
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              10月29日付ロイターニュースに『トヨタ社長、「最大」より「最高」に将来性・自動運転に自信』という記事が掲載されました。

              この記事によると、豊田社長は取材に応え、今後も数値目標を設定せず、規模よりクオリティを追求する経営方針を貫くという趣旨の発言をされました。

              [東京 29日 ロイター] - トヨタ自動車の豊田章男社長は28日、東京モーターショーの会場で記者団に対し、「Biggest(最大)になるより、世の中からGreatest(最高)と言っていただくほうが将来性があると言い続けている」と語り、「規模を語らない」トップであり続けることを強調した。

              言うまでもありませんが、トヨタ自動車グループは世界最大の自動車メーカーであり、今年3月の連結決算では最終利益が2兆円を超えた初めての日本企業となりました。また、過去10年では売上高を47%も拡大して27.2兆円と、30兆円に迫る勢いとなっています。今年度の日本国の税収が約54兆円ですのでその半分となり、いかにその規模が大きいかがわかると思います。

              そんなメガ企業トヨタの豊田社長をして「規模の追求はしない」と言わしめるのは、いったいなぜでしょうか?


              その秘密をとくカギは、豊田社長が深く尊敬し、学んでいるという伊那食品工業の塚越寛会長が提唱する「年輪経営」にあるのではないかと思います。

              塚越会長はマスコミにはめったに登場されないのでご存じない方も多いかと思いますが、中小企業経営者の中ではカリスマ的な人気を誇ります。経営危機に陥っていた寒天製造会社の伊那食品工業の経営を任されて以来、「いい会社を作りましょう」の社是と「急成長は敵」の社訓のもと、48年間増収増益という驚異的な記録を作られ、無借金経営を貫かれてきました。

              そんな塚越会長の薫陶を受けられていることがはっきりわかるのが、今年5月の豊田社長の決算報告です。

              振り返ってみますと、2009年6月に社長に就任して以降、数多くの試練に直面してまいりました。会社として、社長として、やりたいことができない大変辛く、くやしい思いをしてまいりましたが、逆に言えば、多くを学ばせていただいた期間だったと思います。

              急成長しても、急降下すれば多くの方にご迷惑をおかけする。
              「持続的な成長」が、最も重要だということも学びました。

              かつて、台数が急増し、会社が急成長した裏側では、会社の成長スピードに人材育成が追いつかず、従業員や、関係者の皆様の頑張りに依存した無理な拡大を重ねていました。リーマン・ショックによる赤字転落や、大規模リコール問題もそうした中で起きたものだと思います。

              木の幹に例えれば、ある時期に急激に「年輪」が拡大したことで、幹全体の力が弱まり、折れやすくなっていたのだと思います。

              この4年間、関係する皆様のご協力をいただきながら懸命に努力を続けたことにより、経営体質は確実に強くなりました。日本においても税金を納めることができる状態となり、文字どおり「持続的成長」のスタートラインから一歩踏み出すことができると感じています。

              「持続的成長」とは、どのような局面でも、1年1年着実に「年輪」を刻んでいくことです。トヨタは創業以来、買収による拡大ではなく、1台1台の積み重ねでこれまで成長してきました。そして、今、世界販売1,000万台という大きな変化点を迎えています。


              前例もお手本もない、誰も経験したことがない未知の世界で成長し続けるためには、人材育成と同じスピードで年輪を重ねていく、身の丈を超えた無理な拡大は絶対にしないという「覚悟」が必要だと思っております。

              トヨタ自動車ホームページより


              就任直後、「トヨタのプリンスが全アメリカ国民の前で謝った!」と言われた2010年の豊田社長のアメリカ議会公聴会での謝罪という試練を乗り越え、企業の存在意義を真剣に考えたとき、豊田社長が行きついた先が「年輪経営」だったのではないかと思うのです。

              じゃんじゃん投資して、どんどん儲けて、ボーナスや昇給で社員にも大盤振る舞いをすれば一瞬はバラ色の幸せに浸れるかもしれません。しかし、経営環境は常に動きますし、人生と同じく、会社もいい時ばかりではありません。特に業績のいい時こそ、しっかりと気を引き締めて最悪のときに備えることこそ経営者の仕事。「成長」より「持続」することこそが、企業が社会的責任を果たし、雇用を守るための最大の目標であるはずです。豊田社長の言葉は、まさにそのことをおっしゃっているのだと思います。

              「永続こそ企業の最大価値」と帯に書かれている塚越会長のこのご著書は、8年前、私がこれからの会社経営をどうしていくか悩んでいたとき、経営者仲間たちと訪れた伊那食品工業本社工場の売店で購入し大変なショックを受けた一冊です。


              経営者のみならず、人生の大半を会社で働く会社員の方々にもぜひ読んでいただきたい本です。
              | 後藤百合子 | 企業経営 | 18:57 | - | - |
              「Made in Japan」の看板に頼るのはもうやめよう。
              0
                JUGEMテーマ:海外進出

                先日、ある日本人デザイナーの方とお話ししていて少し驚いたことがあります。 彼女は最近、ヨーロッパでの日本製品のプロモートをするエキシビションに参加し、その足で自分自身でもいろいろなショップに精力的に営業してきたばかり。現在はそのうちの一店と商談を進めているそうです。

                彼女の作る商品は日本独自の素材を使いつつ作成技術の勉強も怠らず、しっかりした技術とセンスに裏打ちされた、とても魅力的なものばかりです。ところが彼女は「やっぱり『Made in Japan』というとみんな『いいねー』ってわかってくれるのよね」と、言ったのです。

                ■「Made in Japan」ではなく商品そのものが評価される海外のマーケット
                私はすぐさま「Made in Japanだからではなくて、あなたの作る商品が魅力的だから評価してもらえたのよ」と彼女に言いました。これはお世辞でも何もなく私の本心ですし、おそらくバイヤーの方も同じ思いだったと思います。しかし、彼女が「Made in Japanだから評価された」と考えている限り、彼女の商品の本当のアピールポイントを見逃してしまい、バイヤーに商品の魅力をきちんと伝えられないのではないかと思ったのです。さらに、これから彼女が作る商品にも影響を与えてしまうのではないかという危惧もあります。

                私は現在、シンガポールを拠点として日本の若いデザイナーが作る商品を小売店に販売する仕事をしていますが、いろいろなお店に商品をもっていっても、「Made in Japanだから買いたい」と言ってくれるお店は皆無です。どこのお店でも、その商品が顧客にアピールできるものであるかどうか、価格も含め顧客が買いたいと思う商品かどうか、そして何よりもその商品が「売れる」ものであるかどうかが採用の重要なポイントになります。

                そのうえで、「『Made in Japan』って書いておくとこの値段でも売れるかもしれないからPOP作ろうか」と言ってくれるお店もありますが、多くのお店はそんなこともせず、いろいろな国で作られた商品と同じ売り場にそのまま置き、顧客の反応を見るのです。確かに「Made in Japan」は付加価値の一つであるかもしれませんが、それ以上でもそれ以下でもありません。「Made in Japan」だからどうしても買いたい、という人はひょっとしたら海外在住の日本人だけかもしれないではないかとも思います。

                ■「日本は特別」と思いたい気持ちはわかるけれど・・・
                海外に住んでいると、「日本だったらこんなことはないな」とか「やっぱり日本製のものはいいな」と思うことは多いですが、逆に日本に戻ってみると「日本のこんなところはいやだな」や「こういう商品やサービスがない日本ってなんて不便なんだろう」と感じることも日常茶飯事です。どこの国でも暮らしてみればその国の良さも悪さもあります。そして、グローバル化した現代では、多くの国の消費者は、いろいろな国で生産されたいろいろな商品を好きなように選べる環境にあるのです。

                その中で、「Made in Japan」だから「ジャパン・クオリティなんだから」売れるはず、と信じてしまうのは、せっかく世界で販売できるチャンスを逃してしまうことになりかねないのではないかと心配してしまいます。それを避けるにはまず、「日本は特別」という思いを捨て、さまざまな商品の中からそれを手に取ってもらえるよう、商品のもつ魅力を最大限にアピールしなければならないのではないかと思うのです。

                ■日本に外国人が来たい、と思う環境作りをするという発想の転換

                この本は、長く日本に住み、アメリカの証券会社でアナリストをされていたイギリス人の方が、「日本の魅力を外国人に伝え、日本にとってよいお客さんとなってくれる世界からの観光客に、どうやって日本に来てもらうか」を考察した本です。

                彼が指摘しているのもまた、「日本は素晴しい国だから、きっと外国人観光客は来てくれるはず」という思い込みを捨て、外国人にとって魅力ある日本の観光業をどのように発展させるか、を説いています。この本でもやはり、「日本だから特別」とついつい考えがちな私たちの発想をどう転換するかが繰り返されます。

                日本のアニメファンなど「絶対に日本でないとダメ」という観光客は別として、いろいろな国から旅行先を選べる世界中の観光客に「やっぱり日本に行きたい」と選んでもらえるような環境作りをしよう、と筆者は提案しています。この姿勢はそのまま、「世界の人にどうやって日本の製品を買ってもらうのか?」というテーマにもつながってくるのではないでしょうか。

                ■相手の視線で自分の商品を見る視点
                私の本業は製造業ですが、製造業の課題としてよく挙げられるのは「自分たちが売りたい、作りたい商品ではなく、お客様が買いたい、作ってほしい商品を作る」視点をもたなければいけない、ということです。工場が考える「良い商品」は往々にしてお客様が欲しい商品ではありません。それを放置しておくと、工場は「こんなにいい商品を作っているのにお客様に受け入れてもらえない」とフラストレーションがたまってしまいますし、お客様からしたら「何でこの工場は自分たちの欲しいものを作ってくれないんだろう?」と不満をもち悪循環に陥ってしまいます。

                「Made in Japan」だから受け入れてもらえるはずだ、という考え方は、このような工場の悲劇にはまってしまう危険性をはらんでいるのではないでしょうか? だからこそ逆に、「お客様に選んでもらえる」商品やサービスを追及し続けることこそが、最終的に「ああ、やっぱり『Made in Japan』はいい」と言ってもらえる秘訣なのではないかと思います。
                | 後藤百合子 | 企業経営 | 21:18 | - | - |
                着々と進む習近平バージョンの文革
                0
                  上海株暴落がひとまず止まったこの週末、中国では人権派弁護士や活動家など50人以上が拘束されたと報道されました。

                  習近平政権誕生以来、汚職撲滅の名目と「中国の夢」のスローガンを掲げ着々と政治基盤を築いてきた習近平ですが、AIIBでヨーロッパとアジア諸国を取り込み、上海株式市場暴落で先進国を震え上がらせた直後のこの大量拘束。

                  絶妙のタイミングとしか言いようがありませんが、実際、欧米からいつものような人権尊重の非難声明は聞こえてきません。

                  以前から習近平は第二の毛沢東を目指しているのではないのかという声はありましたが、ますます可能性は高まっているのではないかと思います。しかし、毛沢東文革の時代と決定的に違うのは、中国が世界経済の中でキープレイヤーになってしまっているという事実です。

                  これから数年のうちに何が起こるのか予想もつきませんが、これまでの中国とは違う国になっていくであろう確率はかなり高いのではないでしょうか。

                  大企業はわかりませんが、中小企業で中国に直接投資している会社なら、今回が撤退の最後のチャンスではないかという気がします。

                  | 後藤百合子 | 企業経営 | 10:22 | - | - |
                  「私は信じる」豊田社長のメッセージ
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                    トヨタのアメリカ人女性役員ジュリー・ハンプ氏の麻薬密輸容疑での逮捕を受け、豊田章男社長が会見を開きました。

                    ラジオでこの会見を聞き、豊田社長の「ハンプ氏を信じる」と繰り返しおっしゃった様子に非常に感銘を受けました。

                    会見でまず豊田社長は「世間をお騒がせして申し訳ない」と謝罪した後、「今は仲間を信じ、真実が明らかになるように当局の捜査に全面的に協力することです。ハンプ氏が法を犯す意図がなかったということが明らかになることを信じています」と、彼女の無実を信じる発言を、一言一言をかみしめるように繰り返しました。

                    彼女が本当に意図して法を犯したのかどうか、現時点では逮捕した警察も含め誰にもわかっていません。また、今後ハンプ氏が起訴されたとして、裁判で最終的に有罪が確定するまでは、犯罪者ではなく「被疑者」にすぎません。しかし、逮捕の時点で既に彼女はほぼ犯罪者のように扱われ(例えば、テレ朝NEWSではハンプ氏を「役員の女」と呼んでいます)、マスコミや世間の厳しい視線は「なぜ犯罪者を雇ったんだ?!」と本人にとどまらず、トヨタという会社にも牙をむいてきます。

                    もしもハンプ氏が本当に有罪であったケースのことを考えれば、「こんな人物を雇ってしまって申し訳なかった」と逮捕時点でトカゲの尻尾切りをすれば、会社の受けるダメージは最小限にとどめられるかもしれません。

                    しかし、豊田社長はそうしませんでした。世界で数十万人の従業員の生活を支える企業のトップとしての立場をじゅうぶんわきまえた上で、「ハンプ氏を信じる」と言い切ったのです。それどころか、
                    「ハンプ氏が日本になじもうと努力される中で、サポートが十分だったか私を含め、解明に努めたいと思います」と、ハンプ氏をかばい、今回の逮捕がまるで自らの過失であったかの発言さえされました。

                    世界有数の大企業のトヨタと比べるべくもありませんが、同じ一経営者として、私には今回の豊田社長の発言はとても他人事とは思えません。

                    例えばお客様から我が社のスタッフのミスだとクレームがあったとき、社員の言い分も聞かず「申し訳ない」とすぐに謝り、すべてをその社員のせいにすれば会社の受けるダメージは最小限ですみます。しかし、実際の現場ではそうでないケースも往々にしてあります。よくよく社員の言い分を聞けば、お客様に非があるケースも多々あり、よしんば本当にその社員に非があったとしても、往々にしてそうなってしまった過程には、やむにやまれずそうせざるを得なかった背景があるケースもなきにしもあらずなのです。

                    そんな時、社員にすべての罪をきせてお客様に上司が謝罪をすれば、事は丸く収まるかもしれませんが、それによってその社員は深く傷つき、また、他の社員にも「会社は社員を守ってくれない」と思わせてしまうことが多いのではないでしょうか。

                    しかし逆に、社長が会社の命運をかけて「信じる」と言いきってくれたら、その社員のみならず、他の社員さえも会社に対し「この会社の社員でいてよかった」と思うでしょう。少なくとも私であれば、そういう上司や社長の下で働きたいと思います。その意味で、「信じる」という豊田社長の言葉はハンプ氏のみならず、トヨタの全ての社員たちに向けた「私はあなたたちを信じる。私たちは仲間だ」というメッセージだったと思うのです。

                    4月に着任したばかりでまだホテル暮らしをされていたというハンプ氏は、慣れない異国でいきなり逮捕され、いま現在、この日本の地でたいへんな不安と試練の時を過ごされていると思います。彼女を直接知るわけではないですし、本人が故意に日本の法を犯したのか私に知るすべはありませんが、豊田社長が会社と社員の未来を賭けて「信じる」と言い切ったハンプ氏が、自らの潔白を証明し、無罪放免されることを願ってやみません。
                    | 後藤百合子 | 企業経営 | 20:51 | - | - |
                    「ダメな人」が世の中を変えていく物語。家入一真著『我が逃走』
                    0

                      少し前に作家の林真理子さんと元ライブドア社長の堀江貴文さんの対談を読みました。

                      一時よりずいぶん控えめになったとはいえ、堀江さんは家族やマイホームをもつという小市民的な幸福を痛烈に批判し、林さんの自虐的な「私みたいな人生はダメですね」というリプライをフォローもせず自説を展開し、もしかして林さんは家に帰って地団太踏んで悔しがったんじゃないか、と思わず苦笑してしまいました。

                      服役以来、すっかり大人しくなった印象があった堀江さんですが実はそれは仮面に過ぎず、逆に、若い頃はけっこう型破りだったのに現在は文化人としてすっかりエスタブリッシュメントなライフスタイルになってしまった林さんと好対照な印象を受けました。

                      ライブドア事件については確かに堀江さんサイドに非はありましたが、同様の事件では過去に例のない実刑判決という重罰も含め、国の裁定の公平性に大きな問題があったのではないかと私は思っています。 ですから、堀江さんが以前のようなホリエモン節を復活させているのをみると、「あれほど大変な目に遭っても人間の本質はやっぱり変わらないのだな」と感心するとともに、まだまだ堀江さんのような型にはまらない青年たちが、日本の将来や日本人の価値観を変えていってくれるのではないかと少し期待してしまいます(私自身は堀江さんのファンではありませんし、彼の話の内容に共感するわけではありませんが)。

                      ある意味、堀江さんは「ダメな人」です。ダメとは能力が低いという意味ではなく、社会の規範(norm)にうまく適合できないという意味です。若いうちに旧来の社会の考え方や慣習にうまく乗れず、ドロップアウトしていってしまう。社会の大多数の構成員は従来通りの規範に従って暮らしていますから、こういう人はうまくその社会に馴染めずはみだしてしまい、その結果、大多数の人には考えもつかない新しい考え方や方法論(イノベーション)を作っていくのだと思うのです。
                      その意味では同じIT業界の孫正義さんも同じだと思います。

                      私がまだ20代初めの社会人1年生の頃、パソコンソフトのディストリビュータ業でめきめきと頭角を現しつつあった孫さん(まだ20代でした!)の話を、仕事で何度かお伺いしたことがあります。ソフトバンクは現在のような大会社ではありませんでしたが、そのあまりにも真っ直ぐでけれん味のかけらもない様子や言動に圧倒され、孫さんの描く壮大な未来のヴィジョンに心底わくわくしました(一部では大ぼら吹きとも呼ばれていたようです)。孫さんの周囲だけ空気の色が違う印象まで受けました。

                      当時孫さんは「じじいキラー」と呼ばれ、シャープの佐々木元副社長をはじめ、年配の財界人を魅了する人柄や才能で有名でした。出自が日本国籍でなかったり、アメリカの大学を出ていたりという経歴も含め、バックグラウンドは決していわゆるエリートコース=エスタブリッシュメントではなく、むしろもともと「ダメな人」がどこまで行けるかとマスコミも含めてある意味冷やかに周囲は見ていたような気がします。しかし、当時の私の上司も含め、孫さんにほれ込んだ人たちは、ずっと温かな目で熱心に彼を応援していました。どちらが目利きであったかは現在の孫さん自身が証明しています。

                      家入一真さん。この本を読むまで「前回の都知事選に出馬していた人」というくらいしか家入さんのことを知りませんでした。

                      幸か不幸かまったく先入観がなかったので、「元ひきこもり」という枕詞で有名だったことや、ITサーバー・プラットフォームビジネスで時代の寵児となり最年少で上場を果たしたこと、その後、飲食店ビジネスに進出し失敗して無一文になってしまったことなど、ライブで自分が体験しているようにわくわくしながら読むことができました。

                      堀江さんや孫さんに比べてもまったく遜色がないほど、家入さんは「ダメな人」です。 何もないところから地方でITビジネスを始め、誘われるままに家族と上京して上場。あれよあれよという間に業界の有名人になりますが、本人はシャイで人見知り。上場で巨額な財をなすとお金目当てですり寄ってくる人々に大盤振る舞いをし、思いつくままに次々と採算無視の飲食店を開店し、あっという間に全財産をなくして家庭も崩壊。これまで持ち上げてくれた人たちも次々と彼から去っていきます。

                      そんな中でも彼がまた古巣のITビジネスに戻って彼のもとにやってくる若者たちと新しいビジネスを立ち上げ、都知事選に立候補し、彼を中心としたコミュニティを作っていく。この過程でまた彼は息を吹き返したように本来の自分自身に戻っていきます。

                      この本を読んで、私は故スティーブ・ジョブスを思い出しました。やはり私が社会人になりたてで孫さんにお会いして感銘を受けていた頃、ジョブスは業績低迷と傍若無人な振る舞いから創業したアップルを追放されていました。失意のうちに巨額な私財を注ぎこんだNeXTで新世代コンピュータを開発しニュースになりましたが、結局、ジョブスの目論見通りには売れず「彼はもう過去の人」と評価する人がほとんどでした。

                      しかし、そのいっぽう、ピクサーを買収してこれまでの映画界やアニメーション界の常識を覆す作品を次々と発表。最終的にはアップルのCEOに復帰し、大コケしたNeXTの技術を活かしてiOSを開発し、世界を変えた一連の製品を発表していきます。

                      伝説になってしまった現在では、アップル追放時の彼のことを語る人も少なくなってしまいましたが、この時代も含めジョブスが超一流の「ダメな人」だったことは誰もが認めるでしょう。

                      『我が逃走』は「ダメな人」が紆余曲折を経ながら、自分が信じるものに誠実に、人生の中で向かい合っていく物語、ある意味、一級の青春小説です。家入さんが今後、ジョブスのように世の中を変えていってくれるのか、楽しみに見守りたいと思います。
                      | 後藤百合子 | 企業経営 | 07:13 | - | - |
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