ASIAN NOMAD LIFE

日本、香港、中国で生活・仕事をしてきてシンガポール在住7年目。
黒字企業の設備投資強要より、赤字企業の業績改善を重点政策に
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    ■成果上がらぬアベノミクスに苛立ちを隠せない安倍政権
    安倍政権の目玉政策であるアベノミクスの成果がなかなか上がりません。
     
    日銀の黒田総裁は30日の記者会見で物価上昇率2%の政策目標(もともとは134月から2年という目標だったのですでに期限切れ)を2016年前半からさらに繰り延べして「来年後半」としました。いっぽう「物価が上がらないのは賃金が上がらないから」と、政府は昨年と今年、2年連続で企業に賃上げを要請。多くの企業が賃上げに踏み切りましたが、それでも目標達成にはほど遠く、新たなターゲットとして、黒字企業に内部留保を取り崩して設備投資に回すよう圧力をかけ始めています。

     

    「今こそ、企業が設備、技術、人材に対して積極果敢に投資をしていくべき時だ」安倍首相は官民対話の初会合で経済団体のトップらを前にこう強調した。
    政府が、民間企業の経営判断に基づいて行われる投資に口出しするのは異例のことだ。ここまで踏み込む背景には「企業収益は過去最高となったが、投資の伸びは十分ではない」(安倍首相)との強い不満がある。
    (中略)
    甘利明経済再生担当相は初会合で「過去最高の原資がありながら、投資を行わないのは企業経営者として重大な経営判断の見誤りになる」といら立ちを隠さず、経済界へハッパをかけた。

     
    1028日付J-CASTニュースではこのように伝えられ、安倍政権と財界の蜜月時代も終焉を迎えるのでは、との危惧を示しています。
     
    ■「ダム式経営」で内部留保を推奨した松下幸之助と感銘を受けた稲盛和夫
    甘利大臣に先立つ9月には、麻生財務大臣が、企業は法人税減税による増益分を「配当、賃金、設備投資に回さなければおかしい。内部留保に回したら意味がない」と述べています。2月には企業の内部留保が増加していることについて「まだカネをためたいなんて、ただの守銭奴にすぎない」とまで発言しました。
     
    どうも安倍政権からみると、企業も国民もとにかくどんどんお金を使い、貯蓄(内部留保は企業の貯蓄です)も節約もしないのが美徳のようですが、日本の多くの経営者はそう考えてきませんでした。その代表ともいえるのが「経営の神様」パナソニックの創立者松下幸之助氏です。
     
    松下氏が提唱した「ダム式経営」は、資金、人材、技術のダムを作って蓄え、不測の事態が起こったときにはダムの水を少しずつ使うように蓄えを取り崩しながら経営をしていかなければならない、という経営哲学です。企業の内部留保とはまさしくこの「資金」にあたります
     
    京セラの創業者、稲盛和夫氏は創業間もなくのまだ資金繰りに苦労していたころ、松下氏の講演を聞き、どうやってダムを作るかという参加者の質問に対して「まず願うことですな。願わないとできませんな」という松下氏の回答に深い感銘を受けたといいます。
     
    パナソニック、京セラ、トヨタ自動車をはじめ、日本の「優良企業」といわれる企業の多くには、ムダや贅沢を慎み、貯蓄(内部留保)に励み、雇用を大切にする、というDNAが綿々と受け継がれているのです。
     
    実際、2008年のリーマンショック時や、それに続く民主党政権下の超円高期、2011年の大震災からの混乱期などを振り返ると、企業にとっていつまた大変な経営危機が訪れるかわかりません。そんな非常時に従業員の雇用を守り、給料を払い続けるためには内部留保というダムは必要不可欠なのです。
     
    ■内部留保を積み上げる企業は設備投資や賃上げをしていないのか?
    冒頭の甘利大臣や麻生大臣の話では、内部留保を増やしている企業はまるで設備投資を行っていないような言われようですが、実際にそうでしょうか?
     
    内部留保というのは、税金を払った後に(配当をする会社であればさらに配当をした後に)残ったお金のことを指します。つまり、内部留保を積める企業は「税金を払っている=黒字企業」だということです。では、黒字企業はどれくらいあるのでしょうか?
     
    国税庁の2013年度分の調査結果によると全国に法人数は、2585,732社。このうち、資本金1,000万円以下と1,000万円から1億円未満の中小企業が全体の99.1%を占めます。つまり、法人のほとんどが中小企業ということになります。そして、欠損法人と呼ばれる、いわゆる赤字で法人税を納めていない(外形標準課税等は除く)会社は、1762,596社で、全体の68.2%にものぼるのです。逆にいうと、内部留保ができる黒字企業は全体のたった3割くらいしかありません。
     
    利益が出ている企業は10社に3社程度。その3社に入るためには当然、ただコストを下げるだけでなく、他社と差別化するための技術開発や、設備投資も必要です。また、売り上げを増加させて利益を出すには人材への投資も必要不可欠です。何十年も前の設備を使い続け、社員を安く使い捨てにし、研究開発にもお金をかけなかったら、とても内部留保ができるだけの利益など上がらないでしょう。
     
    実際、利益を上げて納税している会社の社長さんたちは、みな新しい設備投資や人材の採用、商品の研究開発に熱心です。また、優秀な人材の確保や社員の生活の保証という点からも、ベースアップや賃上げに積極的な会社が大半なのです。
     
    しかし、バブル時代と違うのは、銀行からやみくもにお金を借りて計画性のない投資を行うのではなく、将来を見据えてしっかりと経営計画や資金計画をたて、無理な背伸びをせずに、自社の身の丈に合った投資や内部留保をしている会社が増えていることです。そんな堅実経営者が「守銭奴」などと呼ばれてしまったら、それこそ身も蓋もありません。
     
    ■本当に設備投資が必要なのは内部留保ができない赤字企業
    グローバル競争社会の中で、人件費の低い発展途上国と互角に戦っていくために先進国の企業が必ず行わなければならないのは、付加価値の高い商品を作って販売することと、社員1人あたりの労働生産性を向上させることです。この2つがなければ、決して競争に勝って利益を出すことはできません。
     
    高付加価値商品の開発には地道な研究開発が必要ですし、労働生産性アップには生産やサービスの機械化や情報化が必須です。ただ「がんばれ!」と掛け声をかける精神論だけで達成できないのはもちろん、一言でいえば「とにかくお金がかかる」のです。
     
    例えば、私が経営する会社は製造業ですが、だいたい7年ごとに生産管理システムを入れ替えています。その費用は年商の17%程度に上りますので、1年あたりにすると売上げの2.4%をソフトウェアを含む情報関連の設備に投資していることになるのです。本業の生産とは直接関係のない、情報投資だけでもこれだけの資金が必要です。
     
    しかし、企業全体の2/3を占める赤字企業にはそれができません。利益が出ていないのですから売り上げから設備投資に回せる資金余力がほとんどなく、内部留保も作れないのです。また、赤字企業には銀行も融資をしてくれません。いきおい、古い商品や設備で事業を続けることになり、国内や海外製品との競争に負けて業績は先細りになっていきます。
     
    最大の問題はここにこそあるのです。
     
    内部留保ができる黒字企業は設備投資ができ、内部留保ができない過半数の赤字企業こそ設備投資が必要なのにそれができない。この状態を改善しない限り、日本経済全体の底上げと未来へ向けた活力は期待できないのではないでしょうか?
     
    ■必要なのは赤字企業に対する支援
    このように、いま真に日本経済を再生させるために必要なのは、経営不振スパイラルに陥っている赤字企業をソフト、ハード両面から支援し、再生させるための政策ではないかと思います。
     
    ただ、補助金をばらまいたり、公共工事を増やすような一時しのぎでは意味がありません。まず、問題点を分析し、確実に売り上げをアップさせていくための方針を策定するコンサルティングと教育。また、すでに少子高齢化で縮小が始まっている国内マーケットだけでなく、今後も拡大が続くアジアを中心とした海外マーケットの開拓支援。時代のニーズに即応する商品開発と製造方法の改良へのサポートなど。考えられる支援は多々あります。
     
    政府に言われなくてもしっかりと投資も内部留保も行ってきた黒字企業より、行いたくても行えない赤字企業に対する支援こそ、いま最も求められているのではないでしょうか。
    | 後藤百合子 | 企業経営 | 14:45 | - | - |
    トヨタ社長「成長より継続」こそ、これからの日本の経営哲学
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      10月29日付ロイターニュースに『トヨタ社長、「最大」より「最高」に将来性・自動運転に自信』という記事が掲載されました。

      この記事によると、豊田社長は取材に応え、今後も数値目標を設定せず、規模よりクオリティを追求する経営方針を貫くという趣旨の発言をされました。

      [東京 29日 ロイター] - トヨタ自動車の豊田章男社長は28日、東京モーターショーの会場で記者団に対し、「Biggest(最大)になるより、世の中からGreatest(最高)と言っていただくほうが将来性があると言い続けている」と語り、「規模を語らない」トップであり続けることを強調した。

      言うまでもありませんが、トヨタ自動車グループは世界最大の自動車メーカーであり、今年3月の連結決算では最終利益が2兆円を超えた初めての日本企業となりました。また、過去10年では売上高を47%も拡大して27.2兆円と、30兆円に迫る勢いとなっています。今年度の日本国の税収が約54兆円ですのでその半分となり、いかにその規模が大きいかがわかると思います。

      そんなメガ企業トヨタの豊田社長をして「規模の追求はしない」と言わしめるのは、いったいなぜでしょうか?


      その秘密をとくカギは、豊田社長が深く尊敬し、学んでいるという伊那食品工業の塚越寛会長が提唱する「年輪経営」にあるのではないかと思います。

      塚越会長はマスコミにはめったに登場されないのでご存じない方も多いかと思いますが、中小企業経営者の中ではカリスマ的な人気を誇ります。経営危機に陥っていた寒天製造会社の伊那食品工業の経営を任されて以来、「いい会社を作りましょう」の社是と「急成長は敵」の社訓のもと、48年間増収増益という驚異的な記録を作られ、無借金経営を貫かれてきました。

      そんな塚越会長の薫陶を受けられていることがはっきりわかるのが、今年5月の豊田社長の決算報告です。

      振り返ってみますと、2009年6月に社長に就任して以降、数多くの試練に直面してまいりました。会社として、社長として、やりたいことができない大変辛く、くやしい思いをしてまいりましたが、逆に言えば、多くを学ばせていただいた期間だったと思います。

      急成長しても、急降下すれば多くの方にご迷惑をおかけする。
      「持続的な成長」が、最も重要だということも学びました。

      かつて、台数が急増し、会社が急成長した裏側では、会社の成長スピードに人材育成が追いつかず、従業員や、関係者の皆様の頑張りに依存した無理な拡大を重ねていました。リーマン・ショックによる赤字転落や、大規模リコール問題もそうした中で起きたものだと思います。

      木の幹に例えれば、ある時期に急激に「年輪」が拡大したことで、幹全体の力が弱まり、折れやすくなっていたのだと思います。

      この4年間、関係する皆様のご協力をいただきながら懸命に努力を続けたことにより、経営体質は確実に強くなりました。日本においても税金を納めることができる状態となり、文字どおり「持続的成長」のスタートラインから一歩踏み出すことができると感じています。

      「持続的成長」とは、どのような局面でも、1年1年着実に「年輪」を刻んでいくことです。トヨタは創業以来、買収による拡大ではなく、1台1台の積み重ねでこれまで成長してきました。そして、今、世界販売1,000万台という大きな変化点を迎えています。


      前例もお手本もない、誰も経験したことがない未知の世界で成長し続けるためには、人材育成と同じスピードで年輪を重ねていく、身の丈を超えた無理な拡大は絶対にしないという「覚悟」が必要だと思っております。

      トヨタ自動車ホームページより


      就任直後、「トヨタのプリンスが全アメリカ国民の前で謝った!」と言われた2010年の豊田社長のアメリカ議会公聴会での謝罪という試練を乗り越え、企業の存在意義を真剣に考えたとき、豊田社長が行きついた先が「年輪経営」だったのではないかと思うのです。

      じゃんじゃん投資して、どんどん儲けて、ボーナスや昇給で社員にも大盤振る舞いをすれば一瞬はバラ色の幸せに浸れるかもしれません。しかし、経営環境は常に動きますし、人生と同じく、会社もいい時ばかりではありません。特に業績のいい時こそ、しっかりと気を引き締めて最悪のときに備えることこそ経営者の仕事。「成長」より「持続」することこそが、企業が社会的責任を果たし、雇用を守るための最大の目標であるはずです。豊田社長の言葉は、まさにそのことをおっしゃっているのだと思います。

      「永続こそ企業の最大価値」と帯に書かれている塚越会長のこのご著書は、8年前、私がこれからの会社経営をどうしていくか悩んでいたとき、経営者仲間たちと訪れた伊那食品工業本社工場の売店で購入し大変なショックを受けた一冊です。


      経営者のみならず、人生の大半を会社で働く会社員の方々にもぜひ読んでいただきたい本です。
      | 後藤百合子 | 企業経営 | 18:57 | - | - |
      「Made in Japan」の看板に頼るのはもうやめよう。
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        JUGEMテーマ:海外進出

        先日、ある日本人デザイナーの方とお話ししていて少し驚いたことがあります。 彼女は最近、ヨーロッパでの日本製品のプロモートをするエキシビションに参加し、その足で自分自身でもいろいろなショップに精力的に営業してきたばかり。現在はそのうちの一店と商談を進めているそうです。

        彼女の作る商品は日本独自の素材を使いつつ作成技術の勉強も怠らず、しっかりした技術とセンスに裏打ちされた、とても魅力的なものばかりです。ところが彼女は「やっぱり『Made in Japan』というとみんな『いいねー』ってわかってくれるのよね」と、言ったのです。

        ■「Made in Japan」ではなく商品そのものが評価される海外のマーケット
        私はすぐさま「Made in Japanだからではなくて、あなたの作る商品が魅力的だから評価してもらえたのよ」と彼女に言いました。これはお世辞でも何もなく私の本心ですし、おそらくバイヤーの方も同じ思いだったと思います。しかし、彼女が「Made in Japanだから評価された」と考えている限り、彼女の商品の本当のアピールポイントを見逃してしまい、バイヤーに商品の魅力をきちんと伝えられないのではないかと思ったのです。さらに、これから彼女が作る商品にも影響を与えてしまうのではないかという危惧もあります。

        私は現在、シンガポールを拠点として日本の若いデザイナーが作る商品を小売店に販売する仕事をしていますが、いろいろなお店に商品をもっていっても、「Made in Japanだから買いたい」と言ってくれるお店は皆無です。どこのお店でも、その商品が顧客にアピールできるものであるかどうか、価格も含め顧客が買いたいと思う商品かどうか、そして何よりもその商品が「売れる」ものであるかどうかが採用の重要なポイントになります。

        そのうえで、「『Made in Japan』って書いておくとこの値段でも売れるかもしれないからPOP作ろうか」と言ってくれるお店もありますが、多くのお店はそんなこともせず、いろいろな国で作られた商品と同じ売り場にそのまま置き、顧客の反応を見るのです。確かに「Made in Japan」は付加価値の一つであるかもしれませんが、それ以上でもそれ以下でもありません。「Made in Japan」だからどうしても買いたい、という人はひょっとしたら海外在住の日本人だけかもしれないではないかとも思います。

        ■「日本は特別」と思いたい気持ちはわかるけれど・・・
        海外に住んでいると、「日本だったらこんなことはないな」とか「やっぱり日本製のものはいいな」と思うことは多いですが、逆に日本に戻ってみると「日本のこんなところはいやだな」や「こういう商品やサービスがない日本ってなんて不便なんだろう」と感じることも日常茶飯事です。どこの国でも暮らしてみればその国の良さも悪さもあります。そして、グローバル化した現代では、多くの国の消費者は、いろいろな国で生産されたいろいろな商品を好きなように選べる環境にあるのです。

        その中で、「Made in Japan」だから「ジャパン・クオリティなんだから」売れるはず、と信じてしまうのは、せっかく世界で販売できるチャンスを逃してしまうことになりかねないのではないかと心配してしまいます。それを避けるにはまず、「日本は特別」という思いを捨て、さまざまな商品の中からそれを手に取ってもらえるよう、商品のもつ魅力を最大限にアピールしなければならないのではないかと思うのです。

        ■日本に外国人が来たい、と思う環境作りをするという発想の転換

        この本は、長く日本に住み、アメリカの証券会社でアナリストをされていたイギリス人の方が、「日本の魅力を外国人に伝え、日本にとってよいお客さんとなってくれる世界からの観光客に、どうやって日本に来てもらうか」を考察した本です。

        彼が指摘しているのもまた、「日本は素晴しい国だから、きっと外国人観光客は来てくれるはず」という思い込みを捨て、外国人にとって魅力ある日本の観光業をどのように発展させるか、を説いています。この本でもやはり、「日本だから特別」とついつい考えがちな私たちの発想をどう転換するかが繰り返されます。

        日本のアニメファンなど「絶対に日本でないとダメ」という観光客は別として、いろいろな国から旅行先を選べる世界中の観光客に「やっぱり日本に行きたい」と選んでもらえるような環境作りをしよう、と筆者は提案しています。この姿勢はそのまま、「世界の人にどうやって日本の製品を買ってもらうのか?」というテーマにもつながってくるのではないでしょうか。

        ■相手の視線で自分の商品を見る視点
        私の本業は製造業ですが、製造業の課題としてよく挙げられるのは「自分たちが売りたい、作りたい商品ではなく、お客様が買いたい、作ってほしい商品を作る」視点をもたなければいけない、ということです。工場が考える「良い商品」は往々にしてお客様が欲しい商品ではありません。それを放置しておくと、工場は「こんなにいい商品を作っているのにお客様に受け入れてもらえない」とフラストレーションがたまってしまいますし、お客様からしたら「何でこの工場は自分たちの欲しいものを作ってくれないんだろう?」と不満をもち悪循環に陥ってしまいます。

        「Made in Japan」だから受け入れてもらえるはずだ、という考え方は、このような工場の悲劇にはまってしまう危険性をはらんでいるのではないでしょうか? だからこそ逆に、「お客様に選んでもらえる」商品やサービスを追及し続けることこそが、最終的に「ああ、やっぱり『Made in Japan』はいい」と言ってもらえる秘訣なのではないかと思います。
        | 後藤百合子 | 企業経営 | 21:18 | - | - |
        着々と進む習近平バージョンの文革
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          上海株暴落がひとまず止まったこの週末、中国では人権派弁護士や活動家など50人以上が拘束されたと報道されました。

          習近平政権誕生以来、汚職撲滅の名目と「中国の夢」のスローガンを掲げ着々と政治基盤を築いてきた習近平ですが、AIIBでヨーロッパとアジア諸国を取り込み、上海株式市場暴落で先進国を震え上がらせた直後のこの大量拘束。

          絶妙のタイミングとしか言いようがありませんが、実際、欧米からいつものような人権尊重の非難声明は聞こえてきません。

          以前から習近平は第二の毛沢東を目指しているのではないのかという声はありましたが、ますます可能性は高まっているのではないかと思います。しかし、毛沢東文革の時代と決定的に違うのは、中国が世界経済の中でキープレイヤーになってしまっているという事実です。

          これから数年のうちに何が起こるのか予想もつきませんが、これまでの中国とは違う国になっていくであろう確率はかなり高いのではないでしょうか。

          大企業はわかりませんが、中小企業で中国に直接投資している会社なら、今回が撤退の最後のチャンスではないかという気がします。

          | 後藤百合子 | 企業経営 | 10:22 | - | - |
          「私は信じる」豊田社長のメッセージ
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            トヨタのアメリカ人女性役員ジュリー・ハンプ氏の麻薬密輸容疑での逮捕を受け、豊田章男社長が会見を開きました。

            ラジオでこの会見を聞き、豊田社長の「ハンプ氏を信じる」と繰り返しおっしゃった様子に非常に感銘を受けました。

            会見でまず豊田社長は「世間をお騒がせして申し訳ない」と謝罪した後、「今は仲間を信じ、真実が明らかになるように当局の捜査に全面的に協力することです。ハンプ氏が法を犯す意図がなかったということが明らかになることを信じています」と、彼女の無実を信じる発言を、一言一言をかみしめるように繰り返しました。

            彼女が本当に意図して法を犯したのかどうか、現時点では逮捕した警察も含め誰にもわかっていません。また、今後ハンプ氏が起訴されたとして、裁判で最終的に有罪が確定するまでは、犯罪者ではなく「被疑者」にすぎません。しかし、逮捕の時点で既に彼女はほぼ犯罪者のように扱われ(例えば、テレ朝NEWSではハンプ氏を「役員の女」と呼んでいます)、マスコミや世間の厳しい視線は「なぜ犯罪者を雇ったんだ?!」と本人にとどまらず、トヨタという会社にも牙をむいてきます。

            もしもハンプ氏が本当に有罪であったケースのことを考えれば、「こんな人物を雇ってしまって申し訳なかった」と逮捕時点でトカゲの尻尾切りをすれば、会社の受けるダメージは最小限にとどめられるかもしれません。

            しかし、豊田社長はそうしませんでした。世界で数十万人の従業員の生活を支える企業のトップとしての立場をじゅうぶんわきまえた上で、「ハンプ氏を信じる」と言い切ったのです。それどころか、
            「ハンプ氏が日本になじもうと努力される中で、サポートが十分だったか私を含め、解明に努めたいと思います」と、ハンプ氏をかばい、今回の逮捕がまるで自らの過失であったかの発言さえされました。

            世界有数の大企業のトヨタと比べるべくもありませんが、同じ一経営者として、私には今回の豊田社長の発言はとても他人事とは思えません。

            例えばお客様から我が社のスタッフのミスだとクレームがあったとき、社員の言い分も聞かず「申し訳ない」とすぐに謝り、すべてをその社員のせいにすれば会社の受けるダメージは最小限ですみます。しかし、実際の現場ではそうでないケースも往々にしてあります。よくよく社員の言い分を聞けば、お客様に非があるケースも多々あり、よしんば本当にその社員に非があったとしても、往々にしてそうなってしまった過程には、やむにやまれずそうせざるを得なかった背景があるケースもなきにしもあらずなのです。

            そんな時、社員にすべての罪をきせてお客様に上司が謝罪をすれば、事は丸く収まるかもしれませんが、それによってその社員は深く傷つき、また、他の社員にも「会社は社員を守ってくれない」と思わせてしまうことが多いのではないでしょうか。

            しかし逆に、社長が会社の命運をかけて「信じる」と言いきってくれたら、その社員のみならず、他の社員さえも会社に対し「この会社の社員でいてよかった」と思うでしょう。少なくとも私であれば、そういう上司や社長の下で働きたいと思います。その意味で、「信じる」という豊田社長の言葉はハンプ氏のみならず、トヨタの全ての社員たちに向けた「私はあなたたちを信じる。私たちは仲間だ」というメッセージだったと思うのです。

            4月に着任したばかりでまだホテル暮らしをされていたというハンプ氏は、慣れない異国でいきなり逮捕され、いま現在、この日本の地でたいへんな不安と試練の時を過ごされていると思います。彼女を直接知るわけではないですし、本人が故意に日本の法を犯したのか私に知るすべはありませんが、豊田社長が会社と社員の未来を賭けて「信じる」と言い切ったハンプ氏が、自らの潔白を証明し、無罪放免されることを願ってやみません。
            | 後藤百合子 | 企業経営 | 20:51 | - | - |
            「ダメな人」が世の中を変えていく物語。家入一真著『我が逃走』
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              少し前に作家の林真理子さんと元ライブドア社長の堀江貴文さんの対談を読みました。

              一時よりずいぶん控えめになったとはいえ、堀江さんは家族やマイホームをもつという小市民的な幸福を痛烈に批判し、林さんの自虐的な「私みたいな人生はダメですね」というリプライをフォローもせず自説を展開し、もしかして林さんは家に帰って地団太踏んで悔しがったんじゃないか、と思わず苦笑してしまいました。

              服役以来、すっかり大人しくなった印象があった堀江さんですが実はそれは仮面に過ぎず、逆に、若い頃はけっこう型破りだったのに現在は文化人としてすっかりエスタブリッシュメントなライフスタイルになってしまった林さんと好対照な印象を受けました。

              ライブドア事件については確かに堀江さんサイドに非はありましたが、同様の事件では過去に例のない実刑判決という重罰も含め、国の裁定の公平性に大きな問題があったのではないかと私は思っています。 ですから、堀江さんが以前のようなホリエモン節を復活させているのをみると、「あれほど大変な目に遭っても人間の本質はやっぱり変わらないのだな」と感心するとともに、まだまだ堀江さんのような型にはまらない青年たちが、日本の将来や日本人の価値観を変えていってくれるのではないかと少し期待してしまいます(私自身は堀江さんのファンではありませんし、彼の話の内容に共感するわけではありませんが)。

              ある意味、堀江さんは「ダメな人」です。ダメとは能力が低いという意味ではなく、社会の規範(norm)にうまく適合できないという意味です。若いうちに旧来の社会の考え方や慣習にうまく乗れず、ドロップアウトしていってしまう。社会の大多数の構成員は従来通りの規範に従って暮らしていますから、こういう人はうまくその社会に馴染めずはみだしてしまい、その結果、大多数の人には考えもつかない新しい考え方や方法論(イノベーション)を作っていくのだと思うのです。
              その意味では同じIT業界の孫正義さんも同じだと思います。

              私がまだ20代初めの社会人1年生の頃、パソコンソフトのディストリビュータ業でめきめきと頭角を現しつつあった孫さん(まだ20代でした!)の話を、仕事で何度かお伺いしたことがあります。ソフトバンクは現在のような大会社ではありませんでしたが、そのあまりにも真っ直ぐでけれん味のかけらもない様子や言動に圧倒され、孫さんの描く壮大な未来のヴィジョンに心底わくわくしました(一部では大ぼら吹きとも呼ばれていたようです)。孫さんの周囲だけ空気の色が違う印象まで受けました。

              当時孫さんは「じじいキラー」と呼ばれ、シャープの佐々木元副社長をはじめ、年配の財界人を魅了する人柄や才能で有名でした。出自が日本国籍でなかったり、アメリカの大学を出ていたりという経歴も含め、バックグラウンドは決していわゆるエリートコース=エスタブリッシュメントではなく、むしろもともと「ダメな人」がどこまで行けるかとマスコミも含めてある意味冷やかに周囲は見ていたような気がします。しかし、当時の私の上司も含め、孫さんにほれ込んだ人たちは、ずっと温かな目で熱心に彼を応援していました。どちらが目利きであったかは現在の孫さん自身が証明しています。

              家入一真さん。この本を読むまで「前回の都知事選に出馬していた人」というくらいしか家入さんのことを知りませんでした。

              幸か不幸かまったく先入観がなかったので、「元ひきこもり」という枕詞で有名だったことや、ITサーバー・プラットフォームビジネスで時代の寵児となり最年少で上場を果たしたこと、その後、飲食店ビジネスに進出し失敗して無一文になってしまったことなど、ライブで自分が体験しているようにわくわくしながら読むことができました。

              堀江さんや孫さんに比べてもまったく遜色がないほど、家入さんは「ダメな人」です。 何もないところから地方でITビジネスを始め、誘われるままに家族と上京して上場。あれよあれよという間に業界の有名人になりますが、本人はシャイで人見知り。上場で巨額な財をなすとお金目当てですり寄ってくる人々に大盤振る舞いをし、思いつくままに次々と採算無視の飲食店を開店し、あっという間に全財産をなくして家庭も崩壊。これまで持ち上げてくれた人たちも次々と彼から去っていきます。

              そんな中でも彼がまた古巣のITビジネスに戻って彼のもとにやってくる若者たちと新しいビジネスを立ち上げ、都知事選に立候補し、彼を中心としたコミュニティを作っていく。この過程でまた彼は息を吹き返したように本来の自分自身に戻っていきます。

              この本を読んで、私は故スティーブ・ジョブスを思い出しました。やはり私が社会人になりたてで孫さんにお会いして感銘を受けていた頃、ジョブスは業績低迷と傍若無人な振る舞いから創業したアップルを追放されていました。失意のうちに巨額な私財を注ぎこんだNeXTで新世代コンピュータを開発しニュースになりましたが、結局、ジョブスの目論見通りには売れず「彼はもう過去の人」と評価する人がほとんどでした。

              しかし、そのいっぽう、ピクサーを買収してこれまでの映画界やアニメーション界の常識を覆す作品を次々と発表。最終的にはアップルのCEOに復帰し、大コケしたNeXTの技術を活かしてiOSを開発し、世界を変えた一連の製品を発表していきます。

              伝説になってしまった現在では、アップル追放時の彼のことを語る人も少なくなってしまいましたが、この時代も含めジョブスが超一流の「ダメな人」だったことは誰もが認めるでしょう。

              『我が逃走』は「ダメな人」が紆余曲折を経ながら、自分が信じるものに誠実に、人生の中で向かい合っていく物語、ある意味、一級の青春小説です。家入さんが今後、ジョブスのように世の中を変えていってくれるのか、楽しみに見守りたいと思います。
              | 後藤百合子 | 企業経営 | 07:13 | - | - |
              同族経営は「悪」なのか?
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                大塚家具の経営権を巡る騒動についていくつか記事を書きましたが、いただいたコメントの中に「同族経営はよくない」という趣旨のご意見が散見されました。日本では税制も含めて「同族経営は悪である」という意識が一般に根強いようですが、本当にそうなのでしょうか?
                 
                ■日本だけではない、上場している同族企業
                日本の税法では株式の50%以上を家族などがもつと同族企業とみなされ、中小企業の大半は同族企業です。また、上場企業では創業者一族が過半数の株をもっていなくとも、創業者一族が経営の根幹にかかわっている場合は同族企業とみなされます。日本では上場企業の約3割が同族経営といわれ、トヨタ自動車、キャノン、キッコーマン、エーザイなどがこれにあたります。ソフトバンクやファーストリテイリングなど、現在も創業社長が現役で経営の実権を握る企業は別格としても、日本を代表する企業に同族経営が決して少なくないことがわかります。
                 
                いっぽう、アメリカの上場企業にも、数はそれほど多くありませんが同族企業は存在しており、M&Mチョコレートのマース、自動車のフォード、小売のウォルマートなどが有名です。また、非上場ですが穀物メジャーのカーギル社も同族企業です。
                 
                全世界で4,000以上のマリオットホテルチェーンを展開し、リッツ・カールトンを傘下に収めるマリオットホテルグループも2代目であるビル・マリオットが40年間にわたりCEOを務めまてきました。彼は2012年に社員の中からアーン・ソアソンを指名して引退しましたが、取締役には一族出身者が残り、経営に関わっています。
                 
                ■同族企業へのリスペクトが強い欧米社会
                2010年、トヨタ自動車はリコール問題を発端に激しいバッシングの嵐にさらされ、ついに豊田章夫社長がアメリカ議会で喚問されるという事態にまで発展しました。このとき豊田社長はあえて通訳を使わず、うっすらと涙さえ浮かべながら消費者に対して真摯に語りかけ、「TOYOTAのプリンスが議会で謝罪!」とマスコミで大々的に取り上げられました。対応の遅さを指摘する声こそあったものの大半は同情的な論調で、この後、潮が引くようにバッシングが収まり、トヨタ自動車が北米で急激に売り上げを回復したのは記憶に新しいと思います。
                 
                これはひとえに、豊田社長が直接謝罪したことによる効果でしょう。アメリカ人にとって、トヨタ自動車は豊田家の会社であり、ファミリー企業のトップである豊田社長が謝罪したことに大きな意味があっのだと思います。
                 
                ヨーロッパでも長く続く同族企業への尊敬の念が大きいのは同じです。BMWやミシュランなど老舗企業の多くが同族企業なのはよく知られていますが、我が社が20年以上取引しているドイツの機械メーカーも同族企業です。非常に特殊な機械を作っていますが、メルセデスベンツとも協業するなど、この分野では世界的なシェアを誇る中堅企業で、創業は1861年。現在は5代目の娘婿が社長を務めており、HPでは「オーナー経営で独立した同族企業です」とまず高らかに謳ってから、創業者から現社長までの歴代の同族経営者の軌跡を紹介しています。
                 
                このようにヨーロッパでは同族経営のイメージはマイナスどころか、会社が誇る歴史の一部なのです。
                 
                ■同族企業が長命な理由
                2014年4月14日の日経ビジネスオンラインの記事で、ボストン・コンサルティング・グループ日本代表の御立尚資氏が「ファミリービジネスで気づいた日本の“偏見”」という記事を書かれています。
                 
                この中で、御立氏は同族企業とそうでない企業を比べると、同族企業(ファミリービジネス)では、景気に左右されにくいボラティリティー(変動性)が低い経営が特徴であると述べ、その理由として、以下の点を挙げられています。
                 
                (1)倹約メンタリティーの徹底
                (2)設備投資に対する厳しいチェック
                (3)低い負債依存度、そして中庸な配当政策
                (4)M&A(合併・買収)は、比較的低頻度・小ぶりなもので、中核事業に近いもの中心
                (5)収益源の多角化への執念の強さ
                (6)グローバル化への積極性
                (7)人材の長期リテンション(保持)
                 
                この分析は、自分自身の会社や、繊維業界という歴史が長い業界で長く事業を行ってきた取引先の同族企業をみても、非常に当てはまると思います。
                 
                質素倹約については生まれたときから厳しく教えられてきましたし、物を大切に長く使う、ということは長期的視野にたった設備投資にもつながります。また、借入については、「借金してはいけない、欲しいものがあったら貯金を貯めてから買いなさい」と繰り返し刷り込まれましたので、設備投資も手持ち資金でやり繰りできる範囲で継続しています。また、毎年利益を出していても内部留保し、配当そのものをしない会社も他業界と比べて多いと思います。
                 
                多くの会社では、景気が悪いときには経営者自身の報酬を削っても利益を出しますし、そうならないために日頃から販路開拓に余念なく、子弟を積極的に留学させたり、海外で研修や就職をさせて国外でのパイプを広げようとします。
                 
                また、人材の長期保持についても、多くの会社が真剣に取り組んでいます。長く事業を継続していくためには人材の育成と定着が不可欠だからです。
                 
                『フォーチュン』誌3/15日号の「働きたい会社ベスト100」特集では、上記のマリオットホテルグループが取り上げられていますが、同社では10,600人の社員が20年以上同社で働き、ホテル支配人の平均勤続年数は25年だそうです。また、このランキングの85位にはM&Mチョコレートのマースがランクインしています。
                 
                私の会社でも親子2代にわたって勤めてくれる社員や、親戚が以前勤めていたという社員は珍しくありません。もし社員を使い捨てにするような経営を続けていたら、それこそ働いてくれる人がいなくなってしまい、人手不足で会社を閉鎖せざるをえなくなってしまうでしょう。

                日本では、創業100年を超える会社が5万社以上あると言われますが、その大半が同族企業です。長命の理由はずばり、このような同族企業に特徴的な経営の結果ではないでしょうか。
                 
                ■会社は誰のためのもの?
                「会社は誰のものか?」といえば、答えは簡単、間違いなく株主のものです。上場している、していないにかかわらず会社の所有権は株主にありますし、同族が過半数の株式をもっていれば、理論的には、その同族の思うままに会社経営ができます。
                 
                しかし、「会社は誰のためのものか?」という質問に、即答できる方は少ないでしょう。
                 
                会社が登記されて法人という人格をもっているならば、会社=株主ではありません。同族、非同族に限らず、株主はもちろんのこと、顧客や仕入れ先、従業員、さらに地域社会など、さまざまなステークホルダーすべてのために存在するのが会社です。その意味では、同族会社であっても社会的な存在であり、株主の勝手にはできないのです。
                 
                もちろん私は、プロフェッショナルの経営者を株主が選任し、株主の意向に沿った経営を行うことを否定するものではありません。が、現在のアメリカ経済界で実際に起きているように、プロフェッショナルの経営者たちが従業員の給与とはかけ離れた高額報酬を享受し、短期的な利益を追求するあまり極端なコストカットに走ったり、自社株買いでストックオプションの価値を上げたりする行為が行き過ぎると、長期的にはその会社の利益を損ない、ひいては社会的利益の損失を招く事態も起きかねません。その意味では、あまりに株主の利益偏重となり、非同族経営の会社では「公器」としての会社の役割がないがしろにされる危険性も少なくないと思うのです。
                 
                ■「社業」を継続していくということ
                私自身は、経営学部を卒業したわけでもなく、経営に不可欠な簿記も経営者になってから勉強したくらいで、まったくの素人の状態で経営者になりました。しかし経営者として必要な基礎的教育は、子供の頃からずいぶん、父や祖母から受けてきたように思います。
                 
                前述の日常生活での質素倹約や、物を大切に扱うことはもとより、家業というのは、次の世代に伝えていくものであり、自分自身は駅伝のランナーに過ぎないということ、世の中は常に変わっていくものだから景気がいいといっても安心せず、堅実に経営すること(実際、私自身も含め我が社の99年の歴史の中では何度も倒産の危機に直面しています)、社員と苦楽を共にし共に社業に励むこと、などはすべて日常の生活の中で繰り返し言われ続けてきました。

                また、親族もほとんど事業をしていましたので、あの時あの人は(自社や取引先、同業者など)こうしたから失敗・成功したというケーススタディの話を盆や正月など、親戚が集まる度に聞かされてきました。このように、家庭の中で経営者教育が行われるということも、同族企業ならではの特徴であると思います。
                 
                かといって、経営者の家に生まれればみな経営者に適性があるかというとまた違いますが、少なくとも経営者としての適性を身に着けて成長する人の割合が一般の平均より高いことは間違いないと思います。会社でもしかるべきポジションに人材を配置するとそこで才能を開花させる人がいるように、経営者の家庭という環境が次世代の経営者を育てる可能性も当然高くなるからです。
                 
                ■社業にかける同族企業の「思い」
                そして何より、同族企業の一番の強みは、社業に対する「思い」ではないでしょうか。
                 
                エルメスでは、「われわれは過去の遺産を引き継いだからここにいるのではない。未来のものを預かっているのだ。未来からの預かり物に対して、ここで我々がいい加減なことはできない」というといいます。
                 
                経営者も社員も、目先の利益に振り回されず、長期的な視野にたって仕事をし、堅実に、誠意をもって社業に励むことこそが、現代の同族企業に期待されていることだと思います。
                 
                確かに一世代前の時代には、公私混同する経営者も少なくありませんでしたから、同族企業=悪というイメージが定着してしまったのもいたしかたないことだったかもしれませんが、現代の多くの同族企業の経営者はそうではなく、逆に、同族経営だからこそ社会に貢献できる側面があるということを、ぜひ多くの方々に理解していただきたいと思います。
                | 後藤百合子 | 企業経営 | 18:41 | - | - |
                久美子社長が社長を辞められなかった本当の理由 〜 大塚家具騒動にみる事業継承のもう一つの問題点
                0
                  ■久美子社長圧勝も、問題は山積
                  27日に行われた大塚家具の株主総会で会社側の取締役選任案が可決され、大塚久美子社長の続投が決まり、久美子社長排除を求めた父の勝久元会長側の株主提案は否決されました。
                   
                  久美子社長体制を支持した株主は61%にのぼり、米ファンドや金融機関の大株主が久美子社長支持にまわりました。いっぽう元会長側提案は36%しか支持を集められず、表面的には久美子社長側の圧勝です。創業者であり、筆頭株主である勝久氏の経営方針より、コーポレートガバナンスを重視し、厳しい市場環境の中での経営改革を訴える久美子社長の経営判断に株主が期待をかけた結果でしょう。
                   
                  いっぽう、主要取引先であり同時に株主でもあるフランスベッドが元会長側支持にまわり、従業員持ち株会も半数が元会長側につくなど、株主総会後も、今後の経営には予断を許しません。今回は何とか勝ちましたが、売上回復も含め、久美子社長の前途にはいばらの道が待ち受けているのです。
                   
                  ■なぜ久美子社長は経営権争いから降りなかったのか?
                  では、なぜそこまでして久美子社長は続投の意思を曲げなかったのでしょうか? 大勢の株主やマスコの前で実の父母に人格攻撃までされてもじっと耐え続ける久美子社長の経営権への執着の源泉には、もちろん会社への愛もあるのでしょうが、私にはそれ以上に「経営者を降りられない理由」があったとしか思えません。実際、2005年には11年勤めて取締役までした大塚家具を一度退職しているのですから、今回もこのように壮大な親子喧嘩で世間の晒し者になるより、静かに身を引く選択肢もあったはずです。
                   
                  それでも彼女が引退の道を選ばなかった理由はずばり、久美子社長が個人的に抱えている借金のためではないかと思うのです。
                   
                  ■長男のために会長と妻が作った「ききょう企画」
                  2009年、久美子社長はいったん退職した大塚家具に社長として戻ります。それに先立つ2007年には証券取引等監視委員会からインサイダー取引が指摘されて課徴金納付命令が出されるなど社内のスキャンダルが発覚し、売上が大幅減。そこで起死回生の策として勝久元会長直々に、久美子氏が社長として呼び戻されることになるのです。
                   
                  このとき久美子社長が出した条件が、コーポレートガバナンス確立のための社外取締役の受け入れと、事業継承だと言われています。では、事業継承とは具体的にはどういう内容だったのでしょうか?
                   
                  『週刊朝日』4/3号での勝久元会長手記によると、大塚家具の持ち株会社であり、勝久元会長に次ぐ9.7%の株式をもつききょう企画の株を、久美子社長と長男以外の弟妹に分配するよう久美子社長が懇願したといいます。上場しているとはいえ、事実上の同族経営会社で事業継承するためには当然の要求だといえます。
                   
                  しかし、注目すべきはこの時点で、長男である勝之氏がききょう企画の株の50%をもっていたということです。5人の子供がいる中で、なぜ勝之氏だけが半数の株をもっていたのでしょうか? 答えは簡単です。長男だから。贈与も含め長い年月をかけて勝之氏に創業者勝久氏の持ち株が移譲されていたとしか思えません。
                   
                  私の知人や友人の中小企業経営者の中で、圧倒的に多いのが二代目、三代目の長男です。彼らは生まれたときから事業継承をするのが当たり前という環境で育てられており、会社の株式についても事業継承の一策として株式譲渡が行われます。中には産まれた直後から株式譲渡が始まったという方も少なくありません。
                   
                  それに対して、長男を除くその他の姉妹と弟には、便宜上多少の株の移譲はあっても、経営に影響力をもつ多数が移譲されることはまずありません。これは先代が亡くなった後に株式が分散し、兄弟姉妹で経営権を巡る紛争が起きるのを防ぐためです。日本の多くの同族企業では、このように長男だけに株式を優先的に贈与していくことにより、スムーズな事業継承をめざすスキームが常識とされてきたのです。
                   
                  ■負けたら借金だけが残るはずだった久美子社長
                  手記の中で勝久元会長は「長男の株を久美子社長と他の弟妹に分配した」と語っています。「分配」の内容は無償か有償かの譲渡でしょう。その結果、久美子社長と弟、妹たちはききょう企画株の購入資金もしくは贈与税、あるいはその両方の多くを借入によりまかなわなければならなかったと推測されます。そしてききょう企画もまた、勝之氏から130万株の株を引き受けるために発行した社債15億円(勝久氏が引受人)の返還について勝久氏側から訴訟が起こされています。
                   
                  つまり、もし久美子社長が大塚家具から追放されてしまったとしたら、事業継承のために行った株の譲渡による借金だけが残り、それを返済していく資金である役員報酬が絶たれるという事態が起こる可能性が非常に高かったのです。最悪の場合、勝久氏の経営復帰により大塚家具が倒産でもすれば、資産である大塚家具株さえも紙切れになり、まさに一生かかって借金を返済するだけの日々が待っていたともいえるでしょう。これでは前回のように「後は好きにしてください」ですませられるわけがありません。まさに大塚家具と久美子社長の運命は一体なのです。
                   
                  ■創業者にはない事業継承者の困難
                  「創業者の功績」と世間ではよく言われますが、ゼロから叩き上げの創業者は自分の責任で借金をしても、事業が軌道にのれば役員報酬や配当という名目で自分自身に還元することができます。まして上場でもすれば創業者利益は大変なものになります。日本でも屈指の大金持ちがソフトバンクの孫氏や、ユニクロの柳井氏など、創業者やほぼ創業者に近い方々で、その資産の大半が自社株であることをみても、成功した創業者がいかに自己保有株による恩恵を受けているかがわかるでしょう。
                   
                  逆に、同族の事業継承者の場合は、まず、先代がもつ株式を手に入れるところから始めなければなりません。確かに会社という資産はありますが、経営は生き物ですので、創業から数十年もたてばビジネスモデルもあちこちがさびついてきますし、創業者の強烈なリーダーシップに依拠してきた会社が多いことからも、今後何十年も安泰とは誰にもいえません。
                   
                  その中で、創業時より大幅に価値が上がってしまった株の取得にはどの事業継承者も頭を悩ませますし、下手をすれば自分自身の収入の大半を株の譲渡にかかる費用(株式購入資金や贈与税、相続税など)に当てる必要も出てきます。全財産をはたいても払えきれずに借入に頼らなければならないケースも決して少なくありません。
                   
                  特に今回の大塚家具のように、最初から事業継承者としていろいろな便宜がはかられてきた長男ではなく、久美子社長のように中年にさしかかってから事業継承者として指名された場合、継承にあてられる長い時間というメリットを享受することができず、莫大な借金を負ってしまうケースも十分あり得るのです。
                   
                  また、今年から相続税の税率改正や控除の減額など、事業継承にかかる税負担が大幅に引き上げられていることから、今後、さまざまな中小企業で事業継承の資金が捻出できず、廃業を与儀なくされる会社も出てくるのではないかと危惧しています。
                   
                  ■長男だけではない事業継者に対する早期事業継承の必要性
                  今回の大塚家具騒動では、久美子社長が金融機関で経験を積んでいたこともあり、社長復帰時点からさまざまな対策を講じたことで、もし勝久元会長との深刻な対立がなかったとしたらそれほど大きい問題なく事業継承できるはずでした。しかし、同時に「もともと想定されていなかった継承者」が事業継承をするにあたり、どれほど周到な事業継承対策を行わなければならないかが露呈したと思います。
                   
                  以前の記事にも書きましたが、女性の場合は特に、もともと事業継承を期待されていなかったのに、ある日突然継承者に指名され、準備に時間をかけられない、というケースが多々あります。
                   
                  折しも、前出の『週刊朝日』の大学合格者高校ランキングでは、早稲田大学商学部合格者のトップが、東京の豊島岡女子学園と報道されていました。早大商学部は伝統的に中小企業後継者の学生が多く、三代目である私の父も、二代目である大叔父たちもここの出身です。以前は女子学生はほんの一握りでしたが、少子化の流れの中で中小企業の女性継承者をめざす学生も増えてきているのはないかと思います。
                   
                  そのような状況の中で、従来のような「長男に経営資源を集中する」という慣習に決別し、「男女を問わず、経営者としての資質が高い子供にできるだけ早いうちから事業継承の教育と対策を行う」という経営者の意識の転換が、今回のような親子の深刻な対立という悲劇を避け、従業員の雇用を守り、ひいては日本経済を発展させる方策となるのではないでしょうか?
                   
                  その意味で、中小企業経営者に対する事業継承に対するさらなる教育や啓蒙が望まれると思います。
                   
                  | 後藤百合子 | 企業経営 | 13:40 | - | - |
                  女性社長の会社はつぶれない!?――アジアのパワー・ビジネス・ウーマンに選ばれたユーシン精機 小谷眞由美社長の経営手腕
                  0
                    経済誌『フォーブス・アジア版』の「2015年アジアのパワー・ビジネス・ウーマン」に日本からユーシン精機の小谷眞由美社長(68歳)とエステー化学の鈴木貴子社長(52歳)が選ばれました。
                     
                    鈴木社長は取締役9人中女性4人というジェンダー・ダイバーシティ経営が評価されたようですが、ユーシン精機の小谷眞由美社長は2P にわたるインタビューつき、順番も2番目という超VIP扱い。売上高180億円、射出成型機の取り出しロボット製造業という、どちらかというと地味な京都の企業の社長がこれほど高く評価された理由は何か非常に興味がわきました。
                     
                    ■海外販売比率70%と競合他社を大きく凌ぐ営業利益率
                    株式会社ユーシン精機は1973年、資本金わずか400万円で眞由美社長の夫である故小谷進氏が設立。海外志向は早い時期からあったようで、1988年には初めての現地法人をアメリカに作っています。
                     
                    事業は順調に発展し、1990年には眞由美氏が営業担当副社長に就任。国内はもとより海外にも駐在員事務所や営業所を矢継ぎ早に開設して業務を拡大していきます。1996年には大阪証券所、京都証券所に上場。1998年には韓国、中国(上海)、台湾、オランダ、2001年にはマレーシア、フィリピン、タイ、シンガポールに事務所や現地法人設立と、国内はもとより怒涛の海外進出をし、1999年には東証1部にも上場を果たしました。
                     
                    亡くなった進氏の跡を継いで2002年に眞由美氏が社長に就任。しかし進出のスピードはまったく落ちず、アジアと欧米の拠点を着々と増やしていった結果、現在では輸出販売比率が約70%まで増加。コスト競争力もずば抜けて高く、営業利益は競合他社を約2/3上回るとのこと。まさに「超」がつくアグレッシブな経営と呼べると思います。
                     
                    ■驚異の自己資本比率84
                    四季報データを見てさらに驚きました。販売や研究開発に大きな投資をしているのに、有利子負債(借入金や社債などの借金)がまったくなく、何と自己資本比率が84.2%もあります。
                     
                    自己資本比率というのは、借入金などを除く自己資本が資本全体に占める割合のことですが、通常、40%程度以上あれば倒産しにくい優良会社とみなされます。株式はその会社が倒産したら紙屑になっていまいますので、投資家は必ず自己資本比率をチェックします。
                     
                    上場企業の自己資本比率の平均は50%程度。製造業の場合は研究開発や設備投資に借り入れや社債発行が必要とされることが多く、日本企業の代名詞、あのトヨタ自動車でも35.3%にとどまっています。同じ京都で「カリスマ経営者」稲盛和夫氏が創業した京セラでさえ72.5%ですので、この数字がずば抜けて高いことがわかるでしょう。その秘密はやはり有利子負債ゼロの無借金経営にあると思います。
                     
                    ■経常利益20%に迫るも利益の大半は内部留保に
                    インタビューによると、ユーシン精機は過去5年間で平均10%程度で右肩上がりの増収をキープしてきたといいます。利益も巡業に伸び、四季報を見ると経常利益率は
                     
                    2010年 7
                    2011年 8.4
                    2012年 8.9
                    2013年 11.9
                    2014年 17.3
                    2015年(予想) 17.9%  ※すべて3月、連結決算 
                     
                    と、右肩上がりで上がっていますが、これだけの優良企業なのに配当性向(最終利益のうちどれだけ株主に還元するかの指標)は2014年で27.7%とそれほど高くありません(京セラ49.6%、トヨタ28.7%)。当然、利益余剰金は内部留保となり、キャッシュフローをみると借入ゼロにもかかわらず、現金などが75億円もあります。従業員が600名程度ですので、仮に平均年収500万円として計算すると年間給与30億円。万が一売上ゼロになったとしても、2年以上給料を払い続けることができる体力です。
                     
                    株主構成は家族の持ち株会社と小谷社長、やはりユーシン精機に入社している2人のお嬢さんの3人をあわせると46%、銀行などの安定株主を含めれば約70%が特定株主ですので買収の可能性もまず考えられません。まさに盤石の体制です。
                     
                    ここまで見てきて、ユーシン精機に対するフォーブス誌の高いランク付けはやはり、猛攻勢をかける海外販路開拓、徹底したコストダウンという攻めのポジションと、堅実かつつけ入る隙がない財務体制への評価ではないかと感じました。
                     
                    ■女性社長ならではの攻めと守りの絶妙なバランス
                    以前、私の会社の社員から聞いた話ですが、入社面接の前に家族に相談したら「女社長の会社は大変だから就職しないほうがいい」と言われたそうです。女性が社長の場合、コスト管理や業務管理などが細かく、いろいろ口を出されてうるさいので大変だ、という意味だったそうです。
                     
                    これは真実で、中小企業の女性社長には堅実経営タイプが多く、できるだけ無駄遣いを抑えてコストを下げようとする傾向が強いと思います。支出を抑えるという意味では間違っていませんが、思い切って積極的な投資をしなくてはならない局面で踏ん切りがつかず、せっかくのビジネスチャンスを逃してしまう、という残念なケースもときおり見受けられます。
                     
                    いっぽう男性が社長の場合は、少し余裕ができると付き合いと称して会社の経費で飲み歩いたり、放漫経営や無謀な投資によりこつこつと築いてきた資産を失ってしまったり、事業が軌道にのると本業以外のことにうつつを抜かしている間にライバルにシェアを奪われたりする例が散見されます。
                     
                    小谷社長の場合は女性社長に不足しがちな決断力に富み、販路開拓や研究開発費などの思いきった投資を惜しまない「攻め」と、比較的女性社長が得意な、利益率に徹底的にこだわり、同時に練りに練られた財務計画により後顧の憂いなき経営体制を固める、という「守り」が微妙にバランスされた経営手腕が見事というほかありません。
                     
                    インタビューの中で小谷社長の「青い手帳」というエピソードが紹介されています。小谷社長がどこに行くにも持って歩き、飛行機や電車の中で何度となく読み返すというこの手帳には、「財務、給与、不良発生時の補償費、社員の子供の名前、海外駐在社員の駐在年数」などが直筆の文字でびっしりと書かれているそうです。細部に常にこだわりつつ、会社の大きな経営方針を練って実行していく、というのはやはり女性社長だからこそできることでしょう。
                     
                    2020年までに女性管理職30%目標実現にはもっと女性に対する教育が必要
                    アベノミクスの女性活用政策の大きなターゲットの一つが、「2020年までに女性管理職を30%に」です。小谷社長はこのテーマを振られると「政策もよいがまず必要なのは教育」と切り返します。
                     
                    「私は両親や祖父母から常に、人のためになることをしなさい、リーダーとなりなさい、自分から何かをしなさいと言われてきました」と語る小谷社長はまた、2人のお嬢さんたちも同じ教育方針で育ててきたようです。2人ともアメリカと英国でMBAを取得し、1人は日本の大学で工学博士号を取得しています。
                     
                    前回も書きましたが、中小企業で女性が後継者になる場合、幼い頃から経営者としての教育を受けてきたケースより、突然指名されて後継者になるケースが多くみられます。その結果、親子間や社員との軋轢が生じ、どう対処していいかわからず、頼る人もおらずに悶々と悩む方も多いのが現状です。
                     
                    小谷社長のように現場の実践で鍛えてこられた本物の女性経営者たちがロールモデルとなり、後進の女性たちを指導して引っ張っていくような学びの機会がもっともっと増えれば、女性管理職30%目標達成も夢ではないと思います。
                     
                    余談になりますが、この特集のトップで紹介されていたのは、インドネシアでブルーバード社を率いるノニ・プルノモ氏(45才)でした。彼女もやはり女性らしいきめ細かい社員教育で会社を大きく育てた人物です。ジャカルタでいろいろな人から「タクシーはブルーバード」と薦められ、実際に空港でもタクシー乗り場で「ブルーバードレーン」と「その他タクシーレーン」に分かれていたことを思い出しました。
                    | 後藤百合子 | 企業経営 | 19:50 | comments(0) | - |
                    大塚家具の会長・社長会見にみえた事業継承の大きな問題
                    0
                      ■会長、社長の会見スタイルの大きな違い
                      1か月前の記事にも書いた大塚家具の父娘間の経営権争い、勝久会長が久美子社長の罷免を求める株主議案を提出し、いよいよ騒動は佳境に入ってきました。先週には父娘ともに会見を開き、3月の株主総会を控えてテレビなど大手メディアでも大きな注目を集めています。
                       
                      父娘間の最大の争点は創業者である勝久会長のビジネスモデルである会員制セット販売を継続するか、久美子社長の経営方針である顧客の裾野を広げて単品売りを基調にするかという販売手法に対する考え方の違いと言われていますが、会見の様子をテレビで観ていて、それ以外に実は大きな問題があるのではないかと感じました。
                       
                      それを如実に示したのは2人の会見スタイルの違いです。
                       
                      勝久会長は「娘(久美子社長)を社長にしたのが間違いだった」「このままでは大切な社員たちが会社を辞めてしまう」と苦渋に満ちた顔で語りましたが、背後にずらっと背広姿の男性たちが10人以上並んだのはこれまで会長と長年苦楽を共にしてきた幹部社員たちなのでしょう、「俺たちが会長を守るんだ」という意気込みなのか、固い表情でテレビカメラを睨み付けるように直立不動の姿勢で立ち一種異様な雰囲気を醸し出していました。これとは対照的に、久美子社長の会見はたった一人で、パワーポイントの資料を指しながら淡々と現在の経営状況を説明しつつ質問に答え、「創業者はいつか引退しなければならない」と表情を変えずに語っていました。
                       
                      ■「人情に厚い集団のトップ」と「合理的な経営者」。両極端の2
                      勝久会長の会見を見て私が率直に感じたのは「映画に出てくるヤクザの親分みたいだな」という感想です(反社会勢力的という意味では決してありません。念のため)。
                       
                      男性が中心的な役割を占める集団のトップとして、部下の面倒を長年にわたってみ続け、時には叱咤激励しながらも厚い人情をかけながら彼らを引っ張ってきた老境の男性の心情が伝わってくるような気がしたのです。反対に、この親分に仕えてきた子分たちにとって、感情や人情に訴えるのではなく、あくまで数字や論理で現状と経営方針をクールに説明し「明日からこのように営業方法を変えてください」と新社長に言われたとしたら、いきなり突き放されたような気がして「やはり以前の社長のほうがよかった」と思ってしまいそうだなと感じたのです。
                       
                      前回も書いたように、久美子社長は一橋大学卒業後、大手銀行でキャリアを積み、いったん大塚家具を離れたときにはコンサルティング業を営むなど、経歴をみれば絵に描いたようなエリート人生を送ってきています。勝久会長の部下をつとめてきた古参社員たちとのバックグラウンドはおそらくまったく違い、下手をすると久美子社長の話している言葉さえ通じていないということも起こっていたかもしれません。
                       
                      そのような背景を考えると、今回の騒動のそもそもの原因は、直接的に父娘が対立したというより、久美子社長の経営スタイルについていけない社員たちが勝久会長に直訴し、その結果、もともと販売方針などをめぐる父娘の考え方の違いが決定的な経営者間の亀裂に発展したものではないかと強く感じました。
                       
                      ■中小企業の事業継承に伴う古参社員の反発
                      大塚家具に限らず、中小企業で先代の子供が社長になるときには、必ずといっていいほど社員との軋轢が生じます。古参社員からしたら新社長は「おむつをしていた頃から知っている社長の子供」です。下手をしたら新社長を大学まで出してやったのは「俺たちが汗水たらして稼いできたお金のおかげ」と考えている社員もいるかもしれません。
                       
                      「まだまだひよっこ」と心中では下に見ている新社長から「これまでのあなた方のやり方はもう通用しません」「これからは私のやり方でやりますので、それに従ってください」と言われ、引退した会長に「社長をなんとかしてほしい。そうでなかったら会社を辞める」と古参社員が直訴した、という話は社長仲間からもときどき聞きます。まして新社長が女性であれば、「あんな小娘の言うことなんか聞けるか」という反発を社員から招くことは往々にして起こるのです。
                       
                      ■新たな経営方針をどう社員に理解してもらうかは社長の力量
                      いくら社長が素晴らしい斬新な経営方針を示しても、社員が本気になってその方針に従って動いてくれなければ決して会社の変革はできません。そのような逆境の中で、どう自分の方針を社員たちの腹の中まで落とし込み、同じベクトルに向けて引っ張っていけるかもまた、社長の重要な責務です。
                       
                      客観的にみれば、会員制高級家具セット販売というこれまでの勝久会長の経営スタイルが現在の市場の変化に対応したものであるとはとても思えません。勝久会長もここまでの会社を創った名経営者ですから、それはある程度理解しているでしょうし、久美子社長の新しい経営方針のほうが株主にとって合理的かつ魅力的にみえることは間違いないでしょう(ただし商売は生き物ですから、合理的な選択をすることによって確実に売り上げや利益が上がるとは断言できないところがまた難しいのですが・・・)。
                       
                      しかし、もし久美子社長が今回の父娘の闘争の勝者となったとしても、集団のトップとして社員たちのモチベーションを上げ、自分の経営方針を実現してもらう、という最も重要かつ困難な仕事は残ります。逆に勝久会長が久美子社長を追放できた場合でも、現在の消費者の購買行動の変化に素早く対処できる経営方針を社内に示し、それを実行していく社員を育てていく、という仕事はこれからも続くのです。
                       
                      個人的には、7年ほど前に新宿の大塚家具でソファを単品買いし、今でも愛用しています。一消費者としてはニトリやIKEAだけでなく、多少高くても長く使える良いものを「単品で」売ってくれる大塚家具には、今回の騒動の教訓を活かし、ぜひ今後も生き残ってほしいと思っています。
                       
                      | 後藤百合子 | 企業経営 | 09:15 | - | - |
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